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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(17)プロの意地 ~professional~
しおりを挟む――なぜだ
――なぜ押されてる?
『リオラ選手! どんどんポイントを稼いでいくぅ!』
『シャエラ選手とのコンビネーションがバッチリですね! 後方のフェンダーも安定してアトラータの攻撃を防いでいますぅ!』
相手はアマチュアチーム――
マジック・ボールに触れてまだ間もない子供たちだ。
その子供たち相手に苦戦をしている。これではまるで――
「1年前と同じ……」
レイジーの呟きが心に重くのしかかる。
ドルハは、『マジック・ボール』の最前線で常に極限のプレッシャー状況の中で戦ってきた。それは、チームのお偉いさんやスポンサーだけではない。1番のプレッシャーは、『マジック・ボール』を愛する視聴者たちだった。
<ドルハなら間違いない>
<ドルハなら決めてくれる>
<ドルハなら……>
ドルハは年齢を重ねてもなお、絶えず振られる無茶ぶりに応えてきた。そして、そのプレッシャーこそがドルハの動力源でもあった。
しかし、1年前『サンルナール』に敗れたときから状況は一変した。
<あの年齢なら仕方がない>
<天下のドルハもここまでか……>
引退を考えていたのは元より、選手としてのプライドなんて、とうに薄れていると思っていた。
――俺は、まだ栄光を求めてる?
何でもいい、負けてられるか。
このままでは終われない。終わってたまるか……
「――うぉおおぉっ!」
「ドルハさんっ?!」
レイジーの制止を無視し、ドルハは魔法球を持ったまま一直線に相手ゴールへと突き進む。
ドルハの突進に、フェンダーのエリスは怯むことなく立ちはだかった。
正面に≪防壁≫を何枚も張り、ドルハの行く道を阻む。
「止まってたまるかぁっ! 魔法球ごと貫いてやる!」
魔法球を掴んだロッドを正面から突き刺していく。
エリスが張った≪防壁≫は1枚ずつ簡単に破られていく。そして最後の1枚――
「ぬ゛っ?!」
最後の魔方陣は≪防壁≫ではなく、≪相転≫の魔方陣だった。
ドルハが突き刺していたロッドは、掴んでいた魔法球と一緒に離れた場所に送られてしまう。
魔法球が送られた場所は、周りがガラ空きのリオラの目の前だった。
「サンキュー、エリス」
「こしゃくな真似をっ……!」
ドルハがロッドを引き抜いたときには手遅れで、リオラは十分な余裕を持ってシュートを決めていた。
魔法球がゴールの隅に突き刺さる。
学園側に得点が入ると同時に、第3クォータ終了の合図が鳴った。
○○○○○○
「ドルハさん! どうして1人で突っ込むなんて真似を!」
「冷静さに欠けていたサ」
レイジーは、声を張ってドルハに問いただした。キーパーのトピーも呆れ顔である。
「何か作戦があってですよね? そうですよね?」
20pt近く付けていた差は、あっという間に2pt差にまで縮まっている。冷静さを失っているのはレイジーも同じだった。
ドルハは黙り込んだ無口でいる。
レイジーには、それが1番悔しかった。
「ドルハさん、いいんですかこのままで!」
「……いいわけない」
「じゃあ何か手を打たないと!」
「ああ、俺たちは負ける訳にはいかない――」
「そうじゃないんです!」
今まで以上の大きさで声を張り上げてしまう。
他のメンバーまで黙り込ませてしまう。それでもレイジーは、話さずにはいられなかった。
「勝ち負けが先じゃない……」
レイジーは、涙ながらに語る。
「常に冷静でいろ。刻々と変化する状況に都度対応し、冷静に対処すれば勝利は自ずとついてくる。私は、そうドルハさんに教わりました。
「レイジー……」
実際、ドルハさんはいつも冷静で、相手の作戦にいつも柔軟に対応してチームを勝利に導いていました。私は、そんなドルハさんが憧れでした」
グロリアもシャクも、トピーも「うんうん」と頷く。ドルハも顔を上げ、レイジーの言葉と真摯に向き合った。
「でも、最近のドルハさんおかしいです! 勝ちにばっかこだわって、前のめりになって、ドルハさんらしくないですよっ!」
「……」
「今は勝ち負けじゃない。どうすればこの状況を打破できるか、もっと真剣に考えましょう! そうですよねっ?!」
「……ふっ――」
レイジーの訴えに反応し、ドルハは立ち上がった。
大きな手をレイジーの頭に置き、冷静に言葉を掛ける。
「俺はガンナーに戻る、レイジーとグロリアは今まで通りアタッカーを続けろ。得点を奪いつつ、失点をなるべく防ぐ。シャクは今のまま、動かなくていい」
「ドルハさん……」
インターバルはもうすぐ終わる。
考えている時間は無かった。チーム全員がドルハの提案に頷く。
「……レイジー」
「なんですか?」
コートに向かう途中、ドルハは正面を向いたまま口を開く。
その顔は、笑っていた。
「アトラータフェレースは、安泰だな」
「……お世辞はやめてください」
ドルハの心からの笑顔を見たのは、本当に久しぶりだった。
○○○○○○
『アトラータフェレース、ここに来て陣形を戻します!』
『点差が縮まった今、これ以上の失点は防ぎたいんでしょうねぇ』
クォータファイナル――
ここに来て守りを固めてきた相手に、チーム学園も緊張が走る。
「簡単には行かないか」
「リオちゃんが心配やわ……」
インターバル中にソアンの≪治癒≫を施したが、お昼前の空腹も相成ってリオラの魔力は序盤よりも落ちてきている。恐らく相手チームのエースはそこを見過ごさなかった。
数ptだろうと相手が得点で勝っている状況で、当然の判断とも言える。
「頑張ってくれ……」
シュウには、応援することしかできない――
「目がはれてるぜ? 試合がイヤになったか?」
「リオラこそ、疲れが見え見えよ。少し休んだら?」
リオラとレイジーのスタートアップも今回で最後となる。
得点差が少ない今、どちらが先制を取るかは重要な局面だった。
「行くぜっ!」
「行くわよっ!」
魔法球が宙に放たれる。
2人とも気合十分の掛け声で一斉に上空へと駆け上がる。
「やあ゛っ!」
「はあ゛っ!」
魔法球には、ほぼ同時に2人が喰い付いた。
力が拮抗し、魔法球が真下に落ちる。
勝負は、膠着戦が続いた。
「――あと、2pt……」
「まずいて、またフォーメーション変えるん?」
守備の成功回数が増えても、お互いが点の取り合いで、一向に点差は変わらない。
試合時間が残り1分を切ったところで、先に動き出したのはアトラータフェレースだった。
「俺はフェンダーに下がる。グロリアも下がれ!」
さらに守備を強く固めてくる。
エリスも対抗して先頭に出る。
「エリスさん、よろしいんですの?」
「ええ、一気に決めましょう。シャエラさんは真ん中に下がってちょうだい」
「……分かりましたわ」
エリスの狙いを悟り、シャエラは1歩後ろに下がる。
リオラとエリスが前面に出て攻撃を開始する。
レイジーだけのアタッカーで得点を奪われることは無かったが、返って強固な守りを突破できないでいた。
試合時間ギリギリまで点が動かない展開を見せる。
「くっそぉ……」
「リオラさん、こっち!」
完全にマークされているリオラは、シュートを飛ばすことさえ出来ていない状況だった。後ろから迫るエリスにパスを渡せたが、もう時間もない。まさにラストチャンス――
「行かさんぞっ!」
焦るエリスの前に、ドルハが両手を広げて立ちふさがった。後ろにはフェンダーのシャクも構えている。
「ゲームオーバーだ」
「どうかしら?」
リオラとエリスに守備が固まる。
エリスの狙い通りだった。
目を見開くドルハを余所に、エリスは≪相転≫の魔法陣を発現し、そこに魔法球を放り投げる。
「待ちくたびれましたわ」
完全ノーマークのシャエラの前に、魔法球が飛び出してくる。
シャエラは、既に怪しく光る≪波動≫の魔法陣を繰り出していた。
――そう、格が違う
技術は劣っていても、学園の面々は魔力の桁が違う。
そもそもプロの世界でも≪波動魔術≫を扱える者は数少なく、シャエラのような強力な使い手は1人もいない。
シャエラはロッドを振るうことなく、自身の≪波動≫だけでシュートを放つ。
リオラのにも引きを取らない、強力な1発が空気を震わせながら突き進んだ。
「そんなっ、そんなのって……っ!」
レイジーが振り返ったころには、ゴールが青く光を放つ――
学園は、プロチーム相手に「同点」まで追いつき、試合終了の合図が鳴った。
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