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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(18)延長戦突入 ~sudden-death~
しおりを挟む『同点、同点ですっ! とんでもないことになりましたっ!』
『まさかまさかの展開ねっ!』
会場は興奮冷めやらない。
準決勝アトラータフェレースとの試合は、延長戦に持ち込まれた。ここからのルールは、ルヴィからも聞かされておらず、経験者であるリンが補足する。
「サドンデスはアタッカーとキーパーの1対1で行うの。決着が決まるまで、途中交代なして交互にシュートを打って、点差がついた時点で終わり――サドンデスだとレッドポイントもアタックポイントも、一律2ptになるの」
「自分の体とゴールをとにかく守ったほうが勝ちってことか」
リオラは気合を入れ直す。アタッカーはリオラにお願いするとして、キーパーを決める必要があった。全員の視線がカホに向く。
「……へ?」
「カホさん、申し訳ないけど――」
「むむむムリですぅ、ムリですぅーっ!」
キーパー経験があるのはカホだけだ。ここで編成を変えたくないのはチームとしての見解だった。それでもカホは、頑なに首を縦に振らない。
「カホさん、あなたにしかできないわ」
「ムリですぅ……」
「カホ、自由にやっていい」
エリスが頼み込む中、リオラが会話に割り込んだ。カホのことをまっすぐ見つめる。
「ワタシが全部シュートを決めてやる。カホは好きにやればいい」
「りり、リオラちゃん……」
リオラは、チームの中でも1番疲れているはずだった。それでも余裕を見せようとする姿に、カホも心を動かされる。
「カホ、分かったな?」
「う、う…うん。やや、やってみる……」
カホも覚悟を決め、リオラと一緒にコートに進む。相手チームからもドルハとトピーが対峙する。
○○○○○○
「トピー、気を楽にしろ」
「楽にしてるサ、ドルハはレイジーに感謝するんだよ?」
「ああ、分かってる」
サドンデスの場面では、特にアタッカーは魔力がものを言う――つまりは単純に魔力が高いレイジーの方が適していた。1対1で向かい合ったとき点数が決められることがほとんどであり、サドンデスは長期戦になるのが常であるからだ。
しかし、ドルハはわがままを言ってアタッカーに立候補した。
『――ドルハさんが、正しいと思うことをしてください』
レイジーも特に止めはしなかった。覚悟を決めた顔に譲歩してくれたのだろう。
ドルハは最後に試したかった。
己の魔法を、限界を――
「悪いが、一発目から全力でいく」
「楽しみだナ」
リオラの気迫は試合開始から落ちていない。恐るべき集中力だった。トピーの額には汗が垂れる。
そして、サドンデス開始の合図として魔法球がリオラに向かって放たれた。
「うーりゃぁああ゛っ!」
リオラの咆哮が響き渡り、今日1を争う速度で魔法球が飛ぶ。
「――くっ、悔しいサ」
トピーが出した≪防壁≫は、位置もタイミングも僅かにずれていた。学園に2ptが入り、攻守が交代する。
「ドルハ、頼んだサ」
「任せておけ」
ドルハの前に立つ少女――
ドルハよりも小さい体で、どこに魔力を隠しているのか――
「手加減なしだ、いくぞっ!」
「は、ははいっ!」
ドルハの元から勢いよく魔法球が放たれる。
○○○○○○
――私は何もできない……
だからこそカホは、いつも1歩後ろに下がっていた。
そんなカホに「好きにしてみろ」とリオラは言った。
ここまでキーパーの立ち位置から、みんなが必死に戦う姿を見てきた。同じように動ける自信は到底無い。
それでも、リオラ言う通り――
今くらいは好きにしてみようと思う。
「はあぁあ゛っ!」
「えいっ!」
ドルハの掛け声に合わせ、カホはゴールと同じ大きさの≪防壁≫を出す。
勢いよく飛んでくる魔法球を≪防壁≫は確実に捉える。
しかし、魔法球はマッハに近い速度で飛ぶ。
当然1枚の≪防壁≫で防げるわけがない。だったら――
「えいぃぃ!」
カホは何枚も≪防壁≫を重ねていた。それでも詠唱が間に合わず、枚数を重ねるごとに≪防壁≫は小さくなる。途中からは運だった。
魔法球は≪防壁≫を破るごとに速度を落としていく。それでも、目で追える速度まで落ちることはない。カホが気づかないうちに、魔法球はカホの横を通り過ぎる。
「やあっ!」
状況も分からないまま、カホはダメ押しでゴール前に最後の≪防壁≫を張る。≪防壁魔術≫を適性とするカホにしか実現できない速度だった。
その最後の≪防壁≫が割れ、何とか魔法球を弾く。
そしてゴールは光らずに、魔法球は明後日の方向に飛んでいく――
「まま…まも、った……?」
会場がどよめく。実況も解説も言葉を失った。
プロの世界で全速力のシュートからゴールを守り切る事例は歴史的にも数少ない。
「やったぁ……勝った、勝ったぁっ!」
観客席にいたルヴィが最初に声を上げる。
隣にいたロイの体をブンブン回し、喜びを隠せないでいる。
「ふっ……」
ドルハも満足そうに微笑む――
準決勝第1試合は、アマチュアチームが世界ランク1位のプロチームを下すという歴史的快挙で終わった。
○○○○○○
「カホちーん! よく頑張ったわぁ……」
「り、リオラちゃんのおかげ、だよ」
ソアンにまとわりつかれ、戸惑い気味のカホだったが素直に嬉しそうな顔をしていた。
「たくよーっ、ここまでギリギリの戦いになったのは誰のせいだ?」
「ごめんなさい」
「わたくしたちも大変でしたのよ?」
2人とも疲れた顔で頭を下げる。
「エリスもシャエラも、昨日はどこにいたんだ?」
「それはもう大変でしたわ。最終的にエリスさんとは一夜を共にしましてよ」
「ええ、後で詳しく話すわ」
「エリスも否定したほうがいいぞ?」
「……なぜ?」
エリスたちは調べ毎でトラブルに会い、朝は魔法軍の事情聴取を受けていたそうだ。会場までは自動車で送ってくれたらしい。
「ふぅ……いよいよ最後か」
「リオラ、辛そうだな? イケるか?」
「とりあえず腹減ったぁ」
リオラのお腹が鳴り、それに合わせてルヴィとロイ、それにシャエルが控室にやってくる。その後ろに、先週よりも大量の昼食が用意されていた。
「みなさーん、決勝進出おめでとーございまーす!」
「わぁ、またシュウくんが手伝ったの?」
「まあな」
「メシだ! メシ!」
リオラは急いで昼食に喰らいつく。
控室の外では多くの取材陣が待ち構える中、その横で準決勝第2試合が行われていた。
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