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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(23)弱者の行進 ~popular~
しおりを挟む『さあ、第3クォータ終了になります。ここでの点差は3pt、セカンド終了時点から変わっていません』
『最後はサンルナールが見事に巻き返しましたねぇ。両チーム体力が心配ですぅ』
サンルナールとの戦い、最後のインターバルで最悪の事態が起こる。シュウを含めた全員が予測はしていたのに、全員がどこか甘えていた――
「リオラっ、しっかりしろリオラっ!」
「はぁはぁはぁ、くそっ……」
控室に戻ってきた途端、リオラは息をついて地べたに倒れ込む。アトラータ戦から続き、常に全力で戦ってきたリオラがここにきて倒れてしまった。
「もう救急も着いとるから、ウチはリオちゃんを連れてくな」
「ああ、助かるソアン……」
ソアンは、リオラの肩を抱いて出口へと進む。途中、シュウとすれ違い様――リオラはゆっくりと手を挙げて振り向いた。
「シュウ、頼んだぜ」
「……任せとけ」
リオラとハイタッチを交わし、シュウはコートに向き直る。
「シュウ、平気ね?」
「ああ、自信は無いけどな。恐らくあの魔法は使えない」
シュウが繰り出す強力な白い魔法陣は、ある程度自我を以て発現できるようになっていたが、よほどの窮地に陥らないと集中できない。大勢の観衆、多くの中継カメラに囲まれ、曲がりなりにもスポーツの試合中に出せる気はしなかった。
「ええ、分かってる。練習通り、≪相転≫の使い方に集中して」
「分かった。それよりも――」
それよりも、リオラ以外の体調も心配だった。
インターバル中、全員の口数が確実に減っている。
「他のみんなは平気なのか?」
「平気ではないわ」
「も、もう、ヘトヘトですぅ……」
「あはは、ここまで長かったね」
「ですが、リオラさんの分も頑張りませんとね」
泣いても笑っても最後の10分間――
サンルナールが被った仮面を、完全に剥いでみせる。
「時間ね、行きましょう」
「「おーっ!」」
エリスを先頭に配置へとつく。シュウは、エリスとともにフェンダーにつく。その代わりにリンがアタッカーを兼務する形で前に出た。
『さあ、チーム学園の要ともいえるリオラ選手が疲労により棄権してしまいました』
『体調が心配ですぅ』
『そうですね。そして、勝負の行方にも大きな影響がありそうです』
『ドキドキ、最後まで見守りまぁす!』
クォータファイナル――
最後は、ジュリとシャエラが向かい合う。
「お友達は平気? 無理するから……」
「平気ですわ。リオラさんの分まで、わたくしが存分にお相手します」
「そっか、楽しみだな」
微笑み合う2人――
戦いの火蓋は、魔法球の発射によって切り落とされる。
「もう、負けないんだ!」
先攻を取ったのは――ジュリだった。
○○○○○○
「――何が足りなかったのかな?」
「はあ?」
赤髪の少年は、最後まで失礼だった。
名乗りもせず、リシェルの問い掛けは無視し続けて勝手に話を続ける。
「それはね、発信力だよ」
「はあ……」
「何かを訴えるにしても、発信力が無ければ効果が無い。
発信力が無ければ、どれだけ実力があっても表には出ない」
「……じゃあ、その発信力とやらは、どうすれば身に付くのよ?」
「簡単さ、まず名前を売らないと」
「その名前が売れないのよ!」
そもそもタメ口がムカついた。年下のくせに――
酔っているのもあるが、子供相手にイライラが募って語気が強くなる。
「……そうだね、それは簡単なことじゃない」
少年は右手を差し出し、握っていた手をゆっくりと開く。
手の中からは、怪しく輝く――「血の色」のダイヤモンドが現れる。
「受け取って」
「……はあ」
酔った勢いで、得体の知れないダイヤをゆっくりと受け取ってしまう。受け取った瞬間に酔いが醒め、手元に目が引き込まれてしまう。
「それさえあれば必ず有名になれる。ボクたちと契約すれば、それは無条件で授けるよ」
「けい、やく……?」
「顔は必要ない。実力で示すんだ」
そこからはよく覚えていない。
ダイヤに夢中になっていると、少年はいつの間にか姿を消しており、家に帰ったら激しい頭痛で二日酔いに苦しめられた。せっかくの休日を寝て過ごすことになる。
「どうせ、することもないんだけどね」
休日も1日寝込むと、次の日には頭痛が収まった。
時間にも余裕ができたので、お金もなければ買いたい物もないがショッピングに出掛ける。ただの気晴らしで終わるはずだった。
「あ……」
最初に目についたのは、ビジネス書でも漁ろうとショッピングモールの本屋を通り過ぎたとき――
雑誌コーナーの中央に『マジック・ボール』関連の書籍が浮かぶ。
「アトラータフェレース、また優勝かあ……」
マジック・ボールの話題に触れるのも久しぶりだった。
その日は気分も優れていた方で、リシェルは自然と表紙をタップして試し読みを始める。
雑誌の内容は、アトラータフェレースが世界大会を再び制した見出しだけで終わる。
本来の目的を忘れ、リシェルは真っ先に「買い物カゴ」ボタンをタップする。
「あれ? なによこれ、壊れてんの?」
ボタンは表示されているのに、何度押しても反応を見せない。リシェルは、辺りを見回して数少ない店員を呼ぶ。
「すみませーん、カゴに入らないんですけどー」
「あ、はーい。今すぐ行きま――」
「あ……」
偶然立ち寄った本屋で目が合ったのは、本屋のエプロンに身を包んだジュリだった。
「――リシェル~ 久しぶりだね~」
「ほんと、びっくりしちゃった」
リシェルはジュリの休憩を待ち、人はモールのカフェで落ち合った。久々の再開でお互い興奮を隠せない。
「リシェルったら急に学校辞めちゃうから~ 今は何してるの?」
「ツマンナイ会社員。ジュリは?」
「本屋の店員、バイトリーダなんだよ? えっへん」
「そんなに働いてないじゃない」
ジュリは変わっていなかった。リシェルにとっては、安心だった。まるで学生時代に戻っているようだった。
「他のみんなは? 知ってる?」
「ダナンとカエラも就職したよ! テイタムは大学の研究施設に入ってるよ」
「そう、さすがね」
久々に聞く名前、みんな各々の人生を歩んでいた。ジュリも楽しそうにケーキを頬張る。
――結局、過去に囚われているのは私だけなのかもしれない……
「ん? どうしたのリシェル?」
「……ジュリ、話したいことがあるの」
リシェルは、赤髪の少年と出会った時のことを話した。「何それ~」と馬鹿にされるだろう、くらいの気持ちで話した。
だが、ジュリの反応は意外だった。
「リシェル、みんなにも話そ」
ジュリを通じて、再び集まるサンルナールの面々――
リシェルは、ジュリに話した内容だけでなく、少年から受け取った赤いダイヤの実物を見せる。
「なんだよ、それ! 怪しすぎる!」
テイタムの反応は正しい。
少年の怪しい提案を鵜呑みにし、真っ当に生きるみんなを巻き込むつもりはなかった。
「……と、思う」
「え?」
「……ぼくだって、このまま終わるのは悔しいんだ」
「でも、テイタムは――」
テイタムだけじゃない。
少年の話に乗れば、やっと手に入れた安定の生活を失う可能性だってある。
それでも、みんなの目は真剣だった。
「みんな……」
リシェルだけじゃない。
サンルナールの気持ちは1つ――
自分たちの実力を世に示し、自分たちの真実を――
学園や魔法軍の悪事を、白日の下にさらす。
ただ、それだけ――
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