魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

文字の大きさ
73 / 78
CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(22)負けられない戦い ~moment~

しおりを挟む

 今までのサンルナールとは、全く異なる速さ、力強さ――

 サンルナールの面々がブラッディ・ダイヤの力を借りているのは間違いない。スピードも威力も段違いに高いが、今まで関わってきたブラッディ・ダイヤの脅威よりマシだった。

 少量しか使用していないのか、あるいは体内に含んでいないのか。いずれにしろ――

「気に喰わねぇ……っ!」

 シャエラ同様、リオラも自身の魔力を最大限に高め、魔法球へと一直線に突っ走る。

「負けてられるかぁっっ!」

「う、うそでしょ?」

 魔法球を追っていたリシェルが思わず驚いてしまう速度――リオラもシャエラも、目を疑う速さで移動する。体には相当の負担が掛かっているはずが、それを物ともせずに先攻を取る。

「シャエラっ、見せてやれっ!」

「もちろんですわっ!」

 リオラからシャエラに、素早いパスが渡される。シャエラのことは、リシェルがマークしていたが突然すぎて間に合わない。シャエラは≪波動≫の魔法陣を繰り出すのも速かった。
 シャエラの≪波動≫はゴールまで一直線を引き、魔法球を高速で導く。


『――学園セントラルが点を取り返していくぅ! これは分からなくなってきました!』

『両チームとも恐るべき魔力、どこから湧き出ているのかしらぁ?』


「くっ、わたしたちだって――」

 ダナンを前線に向かわせ、今度こそジュリは魔法球を先制する。だが、学園セントラル陣営は後方も負けていない。

「ちょ、邪魔しないでよっ」

「ごめん。でも負けられないの」

 リンは、ロッドを「傘」のように広げダナンを覆うようにカバーする。
 ジュリからの視界が遮られ、正確なパスが出しづらくなる。ジュリは仕方なく目線をゴールに向ける。

「だったら、直接狙うだけ!」

 たまたまなのか、ジュリには周りには誰もいない。十分に力を込める余裕があった。
 ジュリは、リオラにも劣らない≪衝撃≫で魔法球を放つ。

「――待っていたわ」

 エリスは待ち構え、≪相転≫の魔方陣を繰り出した。

「なに、あの大きさっ……」

 遠くのリシェルは思わず目を見張る。
 たった1人の魔法使いが、この短時間で出したとは思えない――≪相転魔術ドメインドレイカ≫としては、あまりに大きすぎる魔法陣だった。
 魔法球は、余裕で円の中に吸い込まれる。

「リオラさんっ!」

「さすが、成績トップはひと味違うぜ」

 リオラは周りに誰もいないところに立ち、≪相転≫された魔法球を確かに捉えて鋭い一撃を加える。

「まずいかも、と思う」

 相手キーパーのテイタムは、抵抗が追い付かずにゴールを決められてしまう。これでサンルナールとの点差はついに1ptまで迫る。余裕を確信していたサンルナールに焦りが見え始めた。

「ありえない、どうしてよっ……」

 エースのリシェルも、悔しそうに次の魔法球に飛び込んだ。




 ○○○○○○




『また決めたぁ! サンルナールの猛攻に必死の抵抗を見せる!』

『サンルナールは点を引き離したいところ、学園セントラルはここにきてバランスよく立ち回ってきましたねぇ』


 ――こんなはずじゃない……


『カホ選手、エリス選手が減速させた球を見事に受け止めました!』

『チームプレーも増えてきています。もしかしたら、もしかするかもぉ?!』


 ――こんなはずじゃなかった
 今頃、アトラータフェレースとの再戦で私たちは圧勝しているはずだった。
 圧勝して、今頃私たちは……


 私たちは、どうして戦ってるんだっけ――








「――リシェル、おはよ!」

 リシェルたちがまだ学生だった頃、学園セントラルはマジック・ボールの活動に消極的だった。特に、魔法省直属の特進生ともなると勉学を最優先させられ、当然学園からの支援も受けられなかった。

「おはようジュリ、他のみんなは?」

「すぐ来るって! テイタムは研究のし過ぎで夜更かししちゃったみたいだよ」

「彼女らしいわね」

 それにも関わらず、リシェルたちは授業を休み、朝から気合を入れて更衣室に集まっていた。
 まもなくして、ダナンとカイラも姿を現す。

「おはよー」

「あー緊張するー」

 能天気に見えて、2人も目は本気だった。
 本番は午後に控えている。今から数時間が最後の調整になる。

「あ、テイタム! 起きれたんだね!」

「うー、眠い……と思う」

「もう、大事な日なのよ。しっかししてよね」

「ごめんリシェル。午後にはバッチリにする、と思う」

「お願いね。頼りにしてる」

 その日、リシェルたちは午後に世界大会選考戦を控えていた。
 この試合結果で世界大会への出場権だけでなく、大事なスポンサー契約が左右する。支援も人気もない学生アマチュアチームにとって、またとないチャンスだった。

「これも議員のおかげだね」

「ええ、感謝しないと」

 このチャンスを掴めたのは、ひとえに大物政治家の後押しがあったからだった。息子の応援がてら、たまたま観戦していた練習試合にリシェルたちも参加しており、マジック・ボールの1ファンとして感銘を受けたそうだ。
 リシェルたちと有名企業を繋いでくれ、リーグ経験もない素人が契約手前までこぎ着けた。
 ここまで来て学園セントラルはようやくリシェルたちの支援に乗り出した。その現金な態度に不信感は否めないが、公式に授業をサボって練習に励めるのは都合が良かった。


「いよいよね、みんな準備はいい?」

 リシェルの掛け声に、他の4人がゆっくりと頷いた。

 相手は初めて戦うプロチーム――
 準備は万端でもちろん自信もあったが、極限の緊張が走る。

「じゃあ、行くわよ……」

 リシェルたち5人は、円陣を組んで下を向く。5人とも入学当時からの仲良しだった。
 きっかけは、5人ともマジック・ボールが好きだった。
 たったそれだけ――

「ゴー……」

『サンルナール!』


 ――サンルナール
 それが、5人で決めた仮のチーム名
 太陽神話という御伽噺フィクションに登場する太陽と月
 万物は2面性を持ち、それは私たちたち人間も同じ。

 私たちは学生でありながら、マジック・ボールの頂点に立つ

 それが、5人共通の「目標」だった。


「――や、った……」

 試合終了の合図が鳴り、改めて点差を確認する。
 僅かな差でリシェルたちが上回っていた。

「やった、やったよリシェル!」

 ジュリも思わず涙を浮かべている。
 その日1日だけは、興奮の1日だった。

 次の日には、リシェルたちは絶望のふちに立たされる。


「――リシェル、大変だよ……」

 思えば、あの政治家に出会ったことがすべての間違いだった。
 ジュリは、泣きそうな顔でデバイスの画面を見せてくる。
 画面には、見出し1面に今日のトピックがつづられる。


『大物政治家のスポーツ賭博発覚
       学生選手も関与か?』


 書かれていたのは、まったく理解に苦しむ内容だった。

「リシェルぅ……こんなこと、してないよね……?」

「あたりまえでしょ」

 リシェルたちに支援をした議員が、スポーツ賭博問題で魔法軍に捕まった。それだけならまだしも、リシェルたちも八百長疑惑で容疑を掛けられていた。

 昨日行われた試合と、賭博で問題となった試合は一切関係ない。それなのに、まったく関係のないリシェルたちまで根も葉もない疑惑を掛けられている。


 <まじかよ、終わったな>

 <税金を遊びに使いやがって>

 <特進生の給料も税金でしょ?>

 <せっかく期待してたのに>


 コメントは、勝手ながら荒れ放題だった。
 そんなことはどうでもいい。政治家の汚職なんてどうでもいい。好きなだけ持ち金を掛ければいい。

「――私たちは、何も悪くない!」

 ただ、巻き込まれただけ――
 政治家への批判を少しでも分散させたい思惑に巻き込まれただけ――

 関係ない人間の勝手に巻き込まれ、5人の努力が泡になるのが許せなかった。
 そんなリシェルたちを、学園セントラルと魔法軍は容赦なく責め立てる。

「――停学、ですか……?」

 逮捕は免れたが、処分はそれだけで終わらない。
 リシェルたちには、特進クラスの除名処分が下った。

「は、はは……」

 呆れて言葉も出ない。
 大企業も乗り出し、やっと乗り気になったかと思えば、ちょっとした問題で即切り捨てる。
 疑惑から守ってくれもせず、関係ないと言わんばかりの対応――
 呆れを通り越して笑けてくる。

 あまりに突然で、あまりに重すぎる処分を受け、リシェルたち5人はバラバラに散った。

 リシェルは学園をすぐに去り、地元にも帰らず街の外れで就職をした。
 成人を迎え、興味もない仕事を続け、週末には酒を浴びる日々――
 肉体もみるみる衰えていく。

「――私たちは~ 何も悪くない~」

 覚束おぼつかない足取りで、頭もロクに回ってない。
 「赤髪」の少年に出会ったのは、そのどうでもいい1日の終わりだった。

「いたっ、なによ~ 突っ立ってじゃないのよ~」

 肩がぶつかっても少年は動じない。
 酔っていながらも、その『血』のような髪色がずいぶん不気味だったことを覚えている。

「……なによぉ」

「……悔しくないの?」

 ――悔しい? 悔しいに決まってる。
 数年経った今でも、政治家とコメント欄で好き勝手書いた馬鹿どもを殴り、世界中に真の実力を見せつけてやりたかった。

「このまま、終われないよね?」

 ――そう、終われない
 こんな気持ちを抱えたまま、負けたままでたまるか……
 終わってたまるもんか

 負けたまま、このまま負けたまま――








「――終われないのよぉっ!」

 リシェルは大声で叫び、ガンナーの位置から強烈な一撃で得点を返す。
 リシェルたち5人の目は、まだ死んでない――

 このまま負けられない、終われるわけが無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...