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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(22)負けられない戦い ~moment~
しおりを挟む今までのサンルナールとは、全く異なる速さ、力強さ――
サンルナールの面々がブラッディ・ダイヤの力を借りているのは間違いない。スピードも威力も段違いに高いが、今まで関わってきたブラッディ・ダイヤの脅威よりマシだった。
少量しか使用していないのか、あるいは体内に含んでいないのか。いずれにしろ――
「気に喰わねぇ……っ!」
シャエラ同様、リオラも自身の魔力を最大限に高め、魔法球へと一直線に突っ走る。
「負けてられるかぁっっ!」
「う、うそでしょ?」
魔法球を追っていたリシェルが思わず驚いてしまう速度――リオラもシャエラも、目を疑う速さで移動する。体には相当の負担が掛かっているはずが、それを物ともせずに先攻を取る。
「シャエラっ、見せてやれっ!」
「もちろんですわっ!」
リオラからシャエラに、素早いパスが渡される。シャエラのことは、リシェルがマークしていたが突然すぎて間に合わない。シャエラは≪波動≫の魔法陣を繰り出すのも速かった。
シャエラの≪波動≫はゴールまで一直線を引き、魔法球を高速で導く。
『――学園が点を取り返していくぅ! これは分からなくなってきました!』
『両チームとも恐るべき魔力、どこから湧き出ているのかしらぁ?』
「くっ、わたしたちだって――」
ダナンを前線に向かわせ、今度こそジュリは魔法球を先制する。だが、学園陣営は後方も負けていない。
「ちょ、邪魔しないでよっ」
「ごめん。でも負けられないの」
リンは、ロッドを「傘」のように広げダナンを覆うようにカバーする。
ジュリからの視界が遮られ、正確なパスが出しづらくなる。ジュリは仕方なく目線をゴールに向ける。
「だったら、直接狙うだけ!」
たまたまなのか、ジュリには周りには誰もいない。十分に力を込める余裕があった。
ジュリは、リオラにも劣らない≪衝撃≫で魔法球を放つ。
「――待っていたわ」
エリスは待ち構え、≪相転≫の魔方陣を繰り出した。
「なに、あの大きさっ……」
遠くのリシェルは思わず目を見張る。
たった1人の魔法使いが、この短時間で出したとは思えない――≪相転魔術≫としては、あまりに大きすぎる魔法陣だった。
魔法球は、余裕で円の中に吸い込まれる。
「リオラさんっ!」
「さすが、成績トップはひと味違うぜ」
リオラは周りに誰もいないところに立ち、≪相転≫された魔法球を確かに捉えて鋭い一撃を加える。
「まずいかも、と思う」
相手キーパーのテイタムは、抵抗が追い付かずにゴールを決められてしまう。これでサンルナールとの点差はついに1ptまで迫る。余裕を確信していたサンルナールに焦りが見え始めた。
「ありえない、どうしてよっ……」
エースのリシェルも、悔しそうに次の魔法球に飛び込んだ。
○○○○○○
『また決めたぁ! サンルナールの猛攻に必死の抵抗を見せる!』
『サンルナールは点を引き離したいところ、学園はここにきてバランスよく立ち回ってきましたねぇ』
――こんなはずじゃない……
『カホ選手、エリス選手が減速させた球を見事に受け止めました!』
『チームプレーも増えてきています。もしかしたら、もしかするかもぉ?!』
――こんなはずじゃなかった
今頃、アトラータフェレースとの再戦で私たちは圧勝しているはずだった。
圧勝して、今頃私たちは……
私たちは、どうして戦ってるんだっけ――
「――リシェル、おはよ!」
リシェルたちがまだ学生だった頃、学園はマジック・ボールの活動に消極的だった。特に、魔法省直属の特進生ともなると勉学を最優先させられ、当然学園からの支援も受けられなかった。
「おはようジュリ、他のみんなは?」
「すぐ来るって! テイタムは研究のし過ぎで夜更かししちゃったみたいだよ」
「彼女らしいわね」
それにも関わらず、リシェルたちは授業を休み、朝から気合を入れて更衣室に集まっていた。
まもなくして、ダナンとカイラも姿を現す。
「おはよー」
「あー緊張するー」
能天気に見えて、2人も目は本気だった。
本番は午後に控えている。今から数時間が最後の調整になる。
「あ、テイタム! 起きれたんだね!」
「うー、眠い……と思う」
「もう、大事な日なのよ。しっかししてよね」
「ごめんリシェル。午後にはバッチリにする、と思う」
「お願いね。頼りにしてる」
その日、リシェルたちは午後に世界大会選考戦を控えていた。
この試合結果で世界大会への出場権だけでなく、大事なスポンサー契約が左右する。支援も人気もない学生チームにとって、またとないチャンスだった。
「これも議員のおかげだね」
「ええ、感謝しないと」
このチャンスを掴めたのは、ひとえに大物政治家の後押しがあったからだった。息子の応援がてら、たまたま観戦していた練習試合にリシェルたちも参加しており、マジック・ボールの1ファンとして感銘を受けたそうだ。
リシェルたちと有名企業を繋いでくれ、リーグ経験もない素人が契約手前までこぎ着けた。
ここまで来て学園はようやくリシェルたちの支援に乗り出した。その現金な態度に不信感は否めないが、公式に授業をサボって練習に励めるのは都合が良かった。
「いよいよね、みんな準備はいい?」
リシェルの掛け声に、他の4人がゆっくりと頷いた。
相手は初めて戦うプロチーム――
準備は万端でもちろん自信もあったが、極限の緊張が走る。
「じゃあ、行くわよ……」
リシェルたち5人は、円陣を組んで下を向く。5人とも入学当時からの仲良しだった。
きっかけは、5人ともマジック・ボールが好きだった。
たったそれだけ――
「ゴー……」
『サンルナール!』
――サンルナール
それが、5人で決めた仮のチーム名
太陽神話という御伽噺に登場する太陽と月
万物は2面性を持ち、それは私たちたち人間も同じ。
私たちは学生でありながら、マジック・ボールの頂点に立つ
それが、5人共通の「目標」だった。
「――や、った……」
試合終了の合図が鳴り、改めて点差を確認する。
僅かな差でリシェルたちが上回っていた。
「やった、やったよリシェル!」
ジュリも思わず涙を浮かべている。
その日1日だけは、興奮の1日だった。
次の日には、リシェルたちは絶望の淵に立たされる。
「――リシェル、大変だよ……」
思えば、あの政治家に出会ったことがすべての間違いだった。
ジュリは、泣きそうな顔でデバイスの画面を見せてくる。
画面には、見出し1面に今日のトピックが綴られる。
『大物政治家のスポーツ賭博発覚
学生選手も関与か?』
書かれていたのは、まったく理解に苦しむ内容だった。
「リシェルぅ……こんなこと、してないよね……?」
「あたりまえでしょ」
リシェルたちに支援をした議員が、スポーツ賭博問題で魔法軍に捕まった。それだけならまだしも、リシェルたちも八百長疑惑で容疑を掛けられていた。
昨日行われた試合と、賭博で問題となった試合は一切関係ない。それなのに、まったく関係のないリシェルたちまで根も葉もない疑惑を掛けられている。
<まじかよ、終わったな>
<税金を遊びに使いやがって>
<特進生の給料も税金でしょ?>
<せっかく期待してたのに>
コメントは、勝手ながら荒れ放題だった。
そんなことはどうでもいい。政治家の汚職なんてどうでもいい。好きなだけ持ち金を掛ければいい。
「――私たちは、何も悪くない!」
ただ、巻き込まれただけ――
政治家への批判を少しでも分散させたい思惑に巻き込まれただけ――
関係ない人間の勝手に巻き込まれ、5人の努力が泡になるのが許せなかった。
そんなリシェルたちを、学園と魔法軍は容赦なく責め立てる。
「――停学、ですか……?」
逮捕は免れたが、処分はそれだけで終わらない。
リシェルたちには、特進クラスの除名処分が下った。
「は、はは……」
呆れて言葉も出ない。
大企業も乗り出し、やっと乗り気になったかと思えば、ちょっとした問題で即切り捨てる。
疑惑から守ってくれもせず、関係ないと言わんばかりの対応――
呆れを通り越して笑けてくる。
あまりに突然で、あまりに重すぎる処分を受け、リシェルたち5人はバラバラに散った。
リシェルは学園をすぐに去り、地元にも帰らず街の外れで就職をした。
成人を迎え、興味もない仕事を続け、週末には酒を浴びる日々――
肉体もみるみる衰えていく。
「――私たちは~ 何も悪くない~」
覚束ない足取りで、頭もロクに回ってない。
「赤髪」の少年に出会ったのは、そのどうでもいい1日の終わりだった。
「いたっ、なによ~ 突っ立ってじゃないのよ~」
肩がぶつかっても少年は動じない。
酔っていながらも、その『血』のような髪色がずいぶん不気味だったことを覚えている。
「……なによぉ」
「……悔しくないの?」
――悔しい? 悔しいに決まってる。
数年経った今でも、政治家とコメント欄で好き勝手書いた馬鹿どもを殴り、世界中に真の実力を見せつけてやりたかった。
「このまま、終われないよね?」
――そう、終われない
こんな気持ちを抱えたまま、負けたままでたまるか……
終わってたまるもんか
負けたまま、このまま負けたまま――
「――終われないのよぉっ!」
リシェルは大声で叫び、ガンナーの位置から強烈な一撃で得点を返す。
リシェルたち5人の目は、まだ死んでない――
このまま負けられない、終われるわけが無かった。
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