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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(25)注目の的 ~zoom~
しおりを挟む『決まったぁ! 決まった決まったぁ! 逆転の一打っ!』
『プロの試合で3ptを拝めるなんてぇ……』
『チーム学園、最後はレッドポイントで締めくくり、ゲームセットになりますっ!』
サンルナールのエース――リシェルは、コートの真ん中で膝から崩れ落ちる。
「負け、た……」
地面に落ちてバウンドする魔法球をただ見つめる。
「もう一度聞かせてくれ」
シュウとエリスは、ゆっくりとリシェルに近づく。
「どうして『それ』に手を出したんだ――」
『おや、選手たちが何やら会話しているようですね』
『何の話かしらぁ』
観客席も不思議そうに選手たちを見守る。カメラはこぞってコート中央を向いた。
<おい、カメラもっと寄れっ!>
<だめです! 音声が拾えません――>
シュウは、なるべく小さな声量でリシェルに問い掛ける。
「どこで『それ』を手に入れたんだ」
「ふっ……」
リシェルは、自分をあざ笑うかのように微笑んだ。シュウと同じく小声で話し始めた。
「私たちはね、あなたたちみたいに若くないの。ブランクも長かった。それで世界を目指すんだから、頼れるものは頼るしかないのよ」
リシェルは、ポケットから赤黒いダイヤを取り出して見せようとする。エリスは、その動きを慌てて制した。
「しまって下さい。魔法軍に見つかったらタダでは済まない」
「ふっ、かばってくれるの?」
「いいえ、連れていかれる前に話しを聞きたいの」
リシェルは、再び微笑んでダイヤをポケットにしまう。
「そこまで勝ちにこだわったのは、どうしてですか?」
「長くなるから簡単に話すわ」
リシェルは悔しそうな、あるいは悲しそうな複雑な表情だった。リシェルだけじゃない、サンルナールの全員が同じ表情で下を向く。
「私たちは関係ないところで人生を狂わせられた。それを知ってもらいたかった」
地面についた拳を悔しそうに握り、リシェルは思わず涙を零す。観客席のカメラは、ズームしてその姿をレンズに収める。
<どうだ、聞こえるか>
<はい、うっすらですが……>
「学園や魔法軍の悪事を知ってもらいたかった。私たちの強さを、知ってもらいたかった……」
「ダイヤに頼らなくても、十分に強かったはずです。なのに――」
「いいえ、強くなかった」
「え?」
「それが今日、よーく分かった」
涙を流しながら、リシェルは笑った顔を向けた。
「本当の強さを、見せつけられたからね」
「本当の、強さ……?」
「最後まで諦めず、全員で協力して勝利を勝ち取る姿――
それは、私たちが目指し、憧れた強さそのものよ」
「おれたちが、ですか?」
「そうよ、誇りに思いなさい。私たちはその力にコテンパンにやられ、自分たちの弱さに気づかされたわ」
「そんな、決して弱いなんて」
「弱いのよ。だからこんなのに手を出した。甘えていただけだった」
「教えて。どこで手に入れたのか――」
「どこで、か……」
エリスが代わって質問を始める。
ふと気が抜けたとき、突然シュウの背中に痛みが走る。
電撃が走るような痛み――
急いで背中に振り向くが、その先には誰もいない。だが、確かに感じる。
遠くから、肉眼では確認できない強い魔力が――
「それはね、赤い髪の男の子から――」
「危ないっ゛!」
振り向いた先に手をかざす。リシェルを守るように魔法陣を張った。
白い輝きを放つ六芒星の魔法陣――
それは、≪防壁≫となってリシェルを守る。
そのはずだった。
「――な、にっ……」
リシェルに向かって鋭い弾丸が走り、大きな音とともに白い魔法陣は打ち砕かれた。弾丸の勢いは衰え、向きを変えることには成功したが、不運にもリシェルの肩に直撃してしまう。
「シュウ! それは――」
エリスには見覚えがある弾丸だった。
昨日訪問したダバリムの貧困域、そこで1人の命を奪った弾丸と同じ――
弾丸の形をした、ブラッディ・ダイヤそのものだった。
地面に倒れ込むリシェルのもとに、シュウとエリスは慌てて駆け寄った。
「しっかりして! 平気ね?!」
「あ、あうっ、あ……」
「すみません――」
リシェルの肩に突き刺さった弾丸を急いで取り除き、横に放り投げる。ダイヤが無くなった傷痕からは血が溢れ出すが、すぐにエリスが≪治癒魔術≫を掛けて傷口を塞ぐ。
「シュウくん、大丈夫そう?」
「ああ、なんとか……」
リンも銃弾が放たれた方向に≪防壁≫を張り、臨機応変に動いてくれた。リシェルは徐々に落ち着きを取り戻し、呼吸も楽になってくる。サンルナールのメンバーも急いで集まってくる。
観客は状況を把握できずに黙るしかない。
<何してんだ! 撮るんだよ!>
<で、ですが>
<いいからっ!>
カメラだけは、慌てる選手たちの姿をハッキリと捉えていた。混沌とする会場に、リオラに付き添っていたソアンも戻る。
「な、何が起きとるん……」
シュウが放り投げたブラッディ・ダイヤが、ちょうどソアンの足元に転がってくる。ソアンは、不思議そうにダイヤを取り上げてまじまじと見つめる。
「これが、ブラッディ・ダイヤ……」
怪しく光る、赤黒い輝き――
ソアンの目は不思議と惹き込まれてしまう。
ここペンテグルスで行われたマジック・ボール親善大会は、怪我人を出す最悪な形で幕を閉じた。
○○○○○○
『おや、外したのかい?』
「……邪魔が入った」
巨大な狙撃銃を構えていたロシエ――
遠い建物の屋上から狙撃に失敗したことを確認し、すぐに片付けに入る。耳元に着けた小型の無線機で仲間たちと連絡を取り合った。
『やだあ、ロシエちゃん外しちゃったの?』
「アドリー、あなたに失敗を責められたくないわ」
『別に責めてないわよ。ただ、任務の前は自信満々だったからあ』
『誰しも失敗はあるにゃ~』
「ありがとうナージャ……絶対魔術を侮っていた」
事実、銃弾は確実に対象の心臓を捉えていた。
ロシエの狙撃銃は魔法軍でもあまり出回らないほど高性能であり、ロシエ好みにカスタマイズした特注品であった。
さらに、ブラッディ・ダイヤで強化した魔力を乗せた銃弾は、遙か彼方の心臓目掛けて瞬速で突き進んでいた。
その速度を上回る魔法で、ロシエの弾丸は見事に軌道を変えられてしまった。
「……次は、失敗しない」
『今回はここまでだね。学園が勝つとは思ってもなかった。つくづく面白いよね』
「ライナ様には私から報告する。フィンは次の作戦を考えておいて」
『もう考えてるよ。エサも撒いてる』
「そう……」
布で覆った狙撃銃を肩に掛け、何の痕跡も残さずに屋上から立ち去っていく。静かに誰にも気づかれずに立ち去っていく。
『今日のことも無駄にはならないよ』
「そう。では――」
ロシエは通信を切り、淡々と階段を降りていく。
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