魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(26)太陽と月 ~oneness~

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 マジック・ボールの試合後、マスコミ各社はこぞって話題の1面に取り上げた。

『血塗られたマジック・ボール 衝撃の幕引け』
 首都ペンテグルスで行われた親善大会は、サンルナールのエースであるリシェル・サンダースが何者かに狙撃され、騒然と幕を閉じた。幸い一命は取り留めたものの、肝心の狙撃犯は捕まっていない。また、調査を継続中の魔法軍は、犯行に使われた銃弾など詳しい情報を明かしていない。

『第7の魔法? 謎の男子学生? その正体は』
 (前略)R選手が狙われた際、男子学生と思しき人物Aは銃弾から庇うように魔法陣を繰り広げた。カメラに写されたのは白い魔法陣――細かい模様までは収められなかったが、6つの基礎魔術とは異なる魔法陣に見えたと現場に居合わせた者は口々に語る。また、Aは国立魔法学中央学園に通う特進生であった。異例が重なる今回の事態に対し、学園に取材を申し込んだものの、学園側は拒否――先の魔法についても言及はされなかった。

『魔法軍とセントラルの黒い関係?!』
 壮絶な戦いを経て小声で語り合う選手たち――弊社は、独自の高性能マイクでその音声の一部を拾うことに成功した。(中略)サンルナールの面々は何故学園を離れたのか、サンルナールのエースが放った「悪事を暴く」という一言は、何を表すのだろうか。弊社は独自の取材でその真実に追った。(後略)


 よくもまあ、有ること無いこと――
 シュウは、学校についてデバイスを見つめながら椅子に座り、ため息をついた。
 試合後に見せた魔法のせいでシュウを狙う記者は数多いそうだ。しかし、学園に住むシュウは外に出る機会も少なく、幸いなことに取材陣に囲まれる事態には陥らなかった。それよりも、マジック・ボールのプロ団体にしつこく勧誘されているリオラが大変そうだった。

「うえぇ、また知らない奴から電話だ。どこで私の番号を入手してくるんだ」

「少し待てば落ち着くでしょう」

 近くにいたエリスは冷静に言い放った。確かに学園の中だけを見れば、マジック・ボールの件について生徒たちが騒いでいる様子はない。半分当事者であったレイジーも、いつも通り登校して机に座る。世間もこの1件をあっという間に忘れ、次の話題を探すのかもしれない。
 奇跡の勝利を見せたシュウたちも、数年にわたり世間を騒がし続けたサンルナールも、すぐに忘れ去られてしまうのかもしれない。

「で、でででも、楽しいことも、ありました……」

「そうだな、カホはよく頑張ったよ」

「そ、そそそっsそんなことっ!」

 少し褒めただけなのに真っ赤になって、カホの頭からは煙が噴き出してしまう。カホの言う通り、マジック・ボールを通して得ることもあったに違いなかった。

「ただ、肝心のブラッディ・ダイヤについては、あまり情報を得られなかったわね」

「そうだなぁ……」

 病院に運ばれたリシェルは、無事体調を回復させたそうだが再開には至っていない。当然、ブラッディ・ダイヤに関する話の続きも聞けていなかった。

「そのうち会話できるでしょう」

「そうだな」

 リシェルを狙った狙撃犯は、きっとブラッディ・ダイヤと深く関わっており、学園を度々危機に陥れるフィンやアドリーと近い存在である可能性も高い。情報はいち早く欲しいところだが、焦ったところで病院の場所を知っているわけでは無かった。

「ねえねえ! エリスちゃんも記事になってるよ!」

「……チームを勝利に導く、美しき魔女?」

「素直に喜べないわ」

 リンは楽しそうデバイスの画面を見せてきた。ひとまずは、全員が無事であったことを祈るべきなのかもしれない。




 ○○○○○○




「おい、表のゴミを廃棄上に運んでおけ」

「え?! あの巨大な業務用冷蔵庫をすか?! 持てないっすよ!」

「ちょっとは魔法は使えるんだろ、特進生?」

「補習があるのに……」

 以前、ダイモンに廃棄場を案内してもらったことが始まりだった。倉庫からは対極の位置にある廃棄場は、ベテランのダイモンでさえ荷物を運ぶのに抵抗があり、いつしか下っ端のシュウが担当になっていた。
 悲しいが、お世話になっているダイモンに逆らう訳にもいかない。

「お兄様、カートは用意しておきましたから」

「うぅ、ありがとうシャエル……」

 重い足取りで荷物を運び、廃棄場まで運ぶ。廃棄場に近づくほど、周囲を出歩く生徒は誰もいなくなる。そのはずが、シュウは背後に人の気配を感じた。

「怪しい人じゃ、ないすよね?」

 一定の距離を保ったまま、ずっとシュウの後ろをついてくる。
 特に危害を加えられるわけでもないので、シュウはしばらく無視を決め込んでいたが、廃棄場で荷物を下ろしたところでシュウは後ろを振り返った。

「通報、したほうがいいすか?」

「ちょ、何もしてないでしょ! すぐに帰るわ」

 通報という不穏なワードを聞き、尾行していた人物は堂々と姿を現した。
 私服姿で帽子を深くかぶり、目立たないようにしていたが、学園内では十分に目立つ装いだった。

「リシェルさん、でいいすか?」

「好きに呼んで。まったく、探したのよ」

「すみません……」

「で、なんなのよ、その格好」

「これは、色々と事情がありまして」

「まあいいわ、周りに誰もいないのは都合がいいし」

 リシェルは安心して帽子を取る。病み上がりで長い距離を歩かされ、疲れている様子でもあった。

「よく入れましたね?」

「私ったら一躍有名人でしょ。事情があると思われたのか、顔パスだったわよ」

「た、体調は? 病院は平気なんですか?!」

「あなたのお陰で大事な所は外れたみたい。もう元気だし、こっそり抜け出してきちゃった」

「そ、そうですか……ちなみに今日は?」

「話の続きよ、聞きたいんでしょ?」

「はい。ですがその前に、この冷蔵庫を置くの手伝ってもらってもいいですか?」

「は?」

「まだまだ未熟者でして……」

 重いものを運ぶなど、≪衝撃≫の細かいコントロールはまだまだミスが多かった。仮にも元特進生であるリシェルのお陰で無事に任務をこなし、近くの壁に寄りかかって並んで座る。

「ふぅ、あなた本当に特進生?」

「うっ、深い事情が……」

「まあいいわよ。そんなことより、みんな感謝してる」

「感謝、ですか?」

「ええ、黙っててくれてるでしょ。あのこと」

「あー、まあ……けが人は出ていないですし」

「ごめんね。犯罪の片棒担がせてるみたい」

「……おれたちの目的は、そこじゃないですから」

 廃棄場の周りはやたらと静かだった。人がいないのだから当然だった。

「どこで手に入れたか、だったわよね。ちゃんと話すわ、全部――」

 そう言ってリシェルは、今までの全部を打ち明けてくれた。
 過去の出来事から赤髪の少年――フィンと出会った経緯まで、時間をたっぷりと使い、こと細かく話してくれた。

「彼とはブラッディ・ダイヤを受け取った後も何回か会ったわ。それに、こっそり誰かと話す声も聞いた」

「それで、ブラッディ・ダイヤが何かは……?」

 リシェルは、残念そうに首を横に振る。

「でも、確かに覚えているの」

「何をですか?」

「……ブラッディメサイア――それが彼らの組織名みたい」

「ブラッディ、メサイア……」

 フィンたちは、やはり組織として動いていた。その規模は分かり兼ねるが、リシェルを狙った狙撃犯もきっとその組織に属しているのだろう。

「それから、彼らは勿体ぶることなく私たちにブラッディ・ダイヤを渡した。マジック・ボールをやめて数年がたつ、本当に強いかも分からない私たちに、人数分のダイヤを簡単に渡したわ」

「それ、って……」

「このダイヤ、私なりに調べてみたけど、ずいぶん高価なんでしょ?」

 そして、リシェルの言葉は、その高価な物をブラッディメサイアという組織が大量に保持していることを意味していた。シュウの頭に不吉な予感が立ち込める。

「きっと一筋縄じゃいかない。気を付けて」

「はい、ありがとうございます」

「まあ私たちに勝ったんだから、自信もっていいのよ」

「ふっ、そうすね」

 リシェルは笑って立ち上がった。帽子をかぶり、そそくさと帰ろうとする。

「早くしないと、いい加減ばれるかも」

「気を付けてください。リシェルさんも、まだ狙われてるかも」

「ふふ、ありがとう」

 そして、最後に暗くなり始めた空を見上げた。
 その目は、笑いながらも、どこか悲しそうだった。

「あーあ、学生時代に会えてたらな」

「え?」

「あなたたちと、全盛期に勝負がしたかった」

「それは……きっと完敗だったでしょうね」


 サンルナール――
 太陽神話という御伽噺フィクションに登場する太陽と月
 万物は2面性を持ち、それは私たち人間も同じ。


「勝ち続けなさい。私たちの分も――」


 強さの裏には弱さがある。
 それは、いつだって逆転しうる。


「その姿を見せて、少年」

「はい!」

 最後は、リシェルは満面の笑みを見せた。
 笑顔のまま、すぐ背中を向けて歩き出してしまう。シュウは笑顔で手を振った。

「色々、ありがとうございました!」

 リシェルも背を向きながら、満足そうに手を振った。
 その奥で、静かに夕陽が沈む――
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