種まくモノ、植えるヒト

蒔望輝(まきのぞみ)

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第〇二章 オワらない依存

オワらない依存(03)

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「わー、わたしセーラー服ってあこがれだったんです。今まで着たことなくて……」

 真由乃が通う学校とは、違う学校に向かっていた。
 いつもの制服と違った肌触り、違う自分を演じているようで気分が上がる。しっかり着こなせているか、真由乃は制服の襟やスカートをしきりに確認した。

「あくまで潜入捜査だからな。気をつけろ」

「その潜入捜査ワードもそそりますね!」

 さっきまでの落ち込み具合はどこへやら――明人はホッとしたような呆れたような複雑な気持ちに包まれた。


 今回植人に来た依頼はニュースでも未だ報道されていない、つい最近の事件についてであった。今から潜入しようとしている学校で事件は起きた。

 真夜中、突然の大雨の中で男子生徒が校舎の壁に寄りかかり亡くなっていた。その隣で1人の女子生徒が「たすけて!」と何度も何度も叫んでいたそうだ。
 女子生徒は重い男の体を時間をかけてどこからか運んできたらしい。雨の影響もあり、どこから運んできたかは判明していない。
 男子生徒の死因は失血。体の中心には大きな穴が開いており主な要因と考えられる。凶器は不明――女子生徒の関与も疑われたが、とても人間技とは考えられない穴の大きさに警察は手を上げ、どこにいたのか聞き出せないまま早い女子生徒は早い段階で開放された。
 更に被害者の周りには金属のように固くて太いツタが発見された。植物のツタにもみえることから植人の要請が出された次第らしい。


「――それにしてもわたしのこれ・・、どうにかなりませんかね」

 絢爛けんらんべに色の刀袋に包まれた真剣かたな――それが真由乃の植器しょくきであり、任務に欠かせないものだった。

「気にするな、ハタから見れば派手好きの剣道部にしか見えない」

「いいですねっ! 明人さんのは小さくてっ!」

 真由乃は、最大限に嫌味を込めた。
 明人の植器は薄手の小手こてだ。身軽でポケットにしまえる。

「そもそも、明人さんのにはどんな力があるんですか? 見た感じただの布のようにも……」

「そのうち分かる――着いたぞ」

 真由乃の通う学校とは、雰囲気が違っていた。
 悲惨な事件があったとは思えないほど、多くの生徒が陽気に校内を歩き回っていた。

「休み時間、みたいですね」

「都合がいいな、探すぞ」

「だ、だれをですか?」

「まずは一緒にいた女だ」

 知らない人、知らない環境に戸惑う真由乃を背に明人はグイグイ校内を進む。真由乃は慌てて追いかけた。


 <あんなやつ学校にいたっけ?>

 <チョー美形じゃない?>

 <やだー女の子もカワイーっ!>


 派手好きの剣道部に紫色の髪をなびかせる美少年――
 同じ制服に変装しているとはいえ誰かとすれ違うたびに目立つのは必至だった。
 明人は全く気にしていない様子だが、真由乃は怖くなって明人に体を近づける。


「――でさ、アイツ今までの元カレあさりまくってるらしいぞ」

 明人はピタッと足を止めた。そのまますぐ近くで噂話をしている男子生徒たちに割り込む。

「――今の話、山野やまの恵梨華えりかのコトか?」

「……は? だれおまえ?」

 嫌悪感むき出しの鋭い目つき、明人よりも少し背丈が高くガタイも大きい。

 明人は一切ひるむことなく話を続ける。

「質問に答えろ」

「いみわかんねー、喧嘩うってんの?」

「なにこいつ、おんな? にしちゃガタイよくね?」

「まって、うしろの子可愛くね?! ちょっと遊ぼうよ!」

 真由乃はサッと明人の後ろに隠れる。後ろから明人の服をつまむ。
 長居したくなかった。それでも明人は強気の姿勢をやめない。

「質問に答えろ」

「それしかしゃべれねーの? マジいいかげんにしねえと――」

「質問に答えろ」

「――っっ!」

 後ろからでもわかった。
 明人は恐らく、とても怖い顔をしている。


 喰われるモノから見た喰うモノの目――
 その目はただただ冷徹で、捕食の対象としてしか見ていない。


 さっきまで強気だった相手の男は分かりやすくひるむ。
 生物の本能として恐怖を覚えていた。

「――くっ!」

 男は明人から目をそらす。

「そうだよ、エリカのことだよ! それがなんだよ!」

 強がりながら質問に答えていく。

「その女はどこにいる」

「……帰ったよ、元カレと一緒に」

「オトコと一緒か、どこに行った」

「しらねーよ! ホテルじゃねーの? もういいだろ!」

 ついさっきまで楽しそうにうわさ話をしていたのに――男子生徒たちは険悪ムードでそそくさとその場を去った。

「明人さん……もっと慎重に」

「はやく終わらせたいだろ」

「そうですけど……」

「次はその女の足取りだな。もう少し聞き込みして――」


『きゃあぁぁあっ!』


 下の階から響く叫び声。
 明人と真由乃は同時に振り返った。

「そんな、急に――」

「いや、種人たねびとは人ゴミを嫌う。関係ない奴が大勢いる前に出てこないはずだ」


 種人――
 何らかの理由でタネが植え付けられ、思いがけず発芽してしまったモノ――
 植器でしか倒すことのできない、人知を超えた怪物――


 この前の怪物を思い出す。

 刀が怪物の体に入る感触、そこから噴き出る真っ赤な血液――




 ――だめっ!


 真由乃は、首をブンブン横に振り、無事に正気を保つ。

「行けるな?」

「うん……」

 急ぎ足で校舎の1階へ向かう。

 階段を降りて、高鳴る鼓動を抑えながら叫び声のした方を見る。その先には尻モチをつく女子生徒――生徒の目の前には大きなツタが窓を突き破って伸びている。

「い、いやっ、なにこれ……」

 足がすくんで立てないようだ。
 ツタは突然に現れたらしいが、ケガ人はいなさそうだった。ホッとする真由乃を置いて明人はツタに向かう。

「あ、明人さん?」

 周りの視線も気にせずツタを触り出す明人。
 指の関節でコンコンとツタをつつく。


 ――まるで鉄パイプをつつく音


 植物でありながら、いくらつついてもビクともしない頑丈なツタ。窓の外に目を向けるとそのツタは広い範囲で生い茂っている。

「……急がないとな」

 明人は冷静に呟いた。
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