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第〇六章 嫉みト妬み
嫉みト妬み(01)
しおりを挟む「うぇ~ まだ着かないんですか~?」
本殿へと続く2,000余りの石段――
真由乃と明人は学校を休み、制服姿でその石段を登っていた。真由乃は腰に炎環を携えている。
石段を登った先には、植人の本拠地とやらがあるらしい。植人による植人を束ねる組織の本拠地であり、その中でも1番偉い方が待ち構えているそうだ。
しかし、かれこれ30分以上は石段を登り続けている。途中に曲がり角もあり、まだまだ先は見えなかった。
制服は汗で張り付いて、真由乃の首筋にはダラダラと汗が伝う。
「明人さ~ん、暑いですぅ~」
「黙って登れ」
明人は、慣れた様子で石段を登る。
真由乃はついて行くので必死だった。
「どうしてこんな辺鄙な場所に~」
石段の横は木が生い茂り、周りは林に囲まれている。そのせいで敷地全体に怪しげな雰囲気が漂っていた。
「もっと近代的なオフィスビルでもいいじゃないですか~」
「植人は曲がりなりにも秘密組織だ。その本拠地が誰でも来れるとこにあったんじゃ世話ないな」
「そうですけど~」
真由乃の口からは文句が止まらない。
そもそもの始まりは、明人からの提案だった。
『今度、本殿に行く。挨拶も兼ねて一緒に行かないか?』
どうやら真由乃に挨拶をさせに来いと、1番偉い方から再三に渡って催促があったらしい。
特別決まりも無いので、明人としては余裕が出てきたら連れて行こうと思っていたそうだ。
真由乃にも特に断る理由は無かった。とは言え、本殿までの道のりがここまで険しいとは聞いていない。最初こそワクワクした気持ちで石段を登っていたが、今では疲労で足元が覚束ない。
「それで、どんな人なんですか? その天音さんって方……」
その1番偉い方は、名を天音という女性らしい。植人の事務兼諜報員として早くも活躍している明里に教えてもらった情報だった。
「……会えば分かる」
真由乃を連れてきておきながら、明人は終始乗り気じゃなさそうだった。明人は訳あって定期的に本殿に足を運んでいるそうだが、その理由は明里も教えてくれなかった。
「はぁ……せめてエレベータでもあればなあ」
「もうすぐだ、急ぐぞ」
「あ、まってくださ~い」
明人は階段を上る速度を速めていく。真由乃も必死に喰らい付いた。
傍から見れば、石段を楽し気に登る1組の男女――
***
「――私だって……」
巫女服姿の女は陰に隠れ、石段の横を覆う林から制服姿の2人を見つめていた。
2人が石段を一緒に登る姿を、恨めしそうに見つめていた。
「私だって、あんな風に……」
学校の制服が輝いて見える。
女には縁遠い生活だった。
植人の家系に生まれたモノは植人となり、種人を狩る。ただし、正式な植人になれるのは、多くがその家の初子に限られた。
2番目以降に生まれた子は、植人としての力が弱まってしまう。そして、植人である証、種人を倒せる唯一の武器――植器は各家系で1つしか存在せず、それを受け継ぐのは直系の初子であるのが常だった。
「どうして……」
では初子でない、2番目以降に生まれた子供はどうなるか――
各家系の方針に従うことになるが、基本的には植人の管理やサポートをする事務方に回されることが多かった。本殿の巫女も、その事務方に当たる。
また、2番目以降の子供が邪険に扱われ、満足に学校へと通わせてくれないこともままあった。
これは、植人の分家に生まれた子にも同じことが言える。
「どうして私だけ……」
分家の長女として生まれ、巫女服姿で睨む女もまた、例に漏れなかった。
植人としての力を持たず、それでも植人との関係を保ちたい親たちは、女を本殿の巫女として早くから働かせていた。
学校は最低限通っただけ、まともな青春を歩んでいない。
だからこそ、普通に学校に通い、青春を謳歌する植人が羨ましくも恨めしく思えた。
――私だって学校に行きたい
――私だって部活をしたい
――私だって恋をしたい
普通に学校に通い、普通に友達と遊んで、普通に恋をする。
普通で良かった。
普通でいいから、それ以上は何も望まないから――
女は変わりたかった。
石段を登る男女のように――
そんな普通でさえ、女には手に入らない。
決められた規則に従い、決められた仕事を日々熟すだけ――
そんな毎日に、女は嫌気が差していた。
「ずるい……っ」
女は唇を噛み締める。
唇からは、真っ赤な鮮血が滲む――
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