種まくモノ、植えるヒト

蒔望輝(まきのぞみ)

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第一二章 絶えマない望み

絶えマない望み(09)◆

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「――んっ、んちゅ、あっ……」

 クロスの優しくも力強い唇が、ゆあんの震えた唇をじっくりと責め立てる。時折、舌を出して攻めてくる唇に、ゆあんは恥ずかしくて口を開けないでいた。

「唯衣子……舌出して」

「んっ、やっ……」

 あくまでクロスを拒むゆあんに、クロスの舌は少々強引に攻め入ってくる。さらにはゆあんの胸元に手を当てて、サワサワと身体を撫で回していく。

「大丈夫だよ」

「でも――んっ、んくちゅ…んあっ、んちゅる……」

 唇を重ね、舌を這わせたまま、クロスはゆあんの服を一気に捲り上げて下着を露わにする。勢いが過ぎて、下着から薄い桃色の乳首がはみ出ていた。

「んああっ、だめっ……」

「大丈夫だから」

 恥じらうように乳房を腕で隠すが、クロスは半ば強引に腕をどかす。ついでに下着も捲り、綺麗な形で張りのある乳房が現れる。
 クロスは、乳房に吸い込まれるように口を付けた。

「やんっ、んあっ…だめっ、はずかしいっ……」

 初めて感じる乳首への刺激、こそばゆい中に痺れるような感覚が走る。
 ゆあんは、体をくねらせてその刺激から逃げようとする。

「やっ、だめだよぉ…はずかしいって――んんっ……」

 クロスは、乳房に吸い付いたまま離れようとしない。
 それどころか、ゆあんの太もも辺りを撫で回して全身を責め立てる。

「あっ、んっ…クロス、さんっ……んあ゛っ!」

 そして、飽き足りないクロスは、ついにゆあんの股に手を掛けた。
 ゆあんは慌てて股を閉じ、両手でクロスの腕を制する。

「だめっ、んいやっ……」

「大丈夫だって」

「だめっ、ほんとにっ…んんっ……」

 クロスの腕は、男の力で容赦なく侵入してくる。
 股を押し広げ、細長くもゴツゴツとした指をゆあんの下着に押し当てる。

「ちょっと湿ってるよ?」

「ちがっ、んんあっ!」

 下着の上から指を動かし、上下に素早く擦って刺激を加える。
 慣れない刺激に、ゆあんは戸惑いながらも、多少の快感を覚え始めていた。微かな喘ぎ声に合わせ、色の付いた吐息が溢れてしまう。

「あっ、あっ、んっ……だめっ、そこはっ!」

 クロスは、機を逃さまいと一気に下着の中へ侵入した。ゆあんは身体をくねらせて逃げようとするが、突然のことで逃げ切れなかった。

「はっんっ…だめっ、いやっ……」

 クロスの指が直接動き回る。陰部の突起に当たるたび、震えるような刺激が脳にまで走る。
 下着の湿り気も増し、クロスは下着の奥へとさらに指を進めていく。

「やっ、んいやっ…おねがい……っ」

 途中で、ゆあんは快感よりも怖さが勝った。
 クロスの腕を掴み、股を閉じようと強い抵抗を見せるが、クロスは決して侵入を止めない。

「だめっ、だめだめっ、んっ――」

 そして、ゆあんの膣内なかに容赦なく指を突っ込む――

「ん゛っ、ああ゛っ!」

 ミチミチと膣内なかを引き裂く音が鳴り、激しい痛みが股の中心から広がっていく。ゆあんは咄嗟に後ろへと下がり、クロス自身から距離を置いた。

「はあ、はあ…ん゛っ……」

 わずかだが、ソファに真っ赤な鮮血が滲む。
 ジンジンと巡る痛みでゆあんは冷静さを取り戻し、同時に涙が溢れ出す。

「ごめん、痛いよな」

「(こくこく……)」

 ゆあんは、べそを掻いて痛みを訴えた。
 クロスは申し訳なさそうな顔を作るが、反省しているようにも見えない。証拠に、すぐに距離を縮めて再び身体を触ろうとしている。

 ゆあんは、そっぽを向いて拒絶の意を示した。

「悪い、いきなりだったよな」

 身体の震えも止まらない。すぐにでもシャワーを浴びて、家の布団に潜り込みたかった。

「でも、最初はそうだから」

「……帰る」

 幻滅――とでも言うだろうか。
 とにかく今、この瞬間は全てに嫌気が差していた。ゆあんはとっとと衣服を整え、足早に出口へと向かう。

「また連絡するよ」

 クロスの言葉には返事せず、ゆあんは真っ暗で寂しい帰路についた。




 ***




「――はあ……」

 あれから1週間、クロスからは一切の連絡も無く、奇しくも大きなタメ息が溢れる。
 クロスのことを嫌いになったわけではなく、始めは受け入れた自分もいる訳で、むしろ申し訳ない気持ちだった。

「きりかえ、きりかえ」

 落ち込んでいる場合じゃない。今からメンバー全員の命運を掛けた打合せが始まるのだ。
 新しいグループ名はあらかじめ伝えられていた。


 ――さ~もんデビる’s
 1stシングル『アニサキス』でメジャーデビュー


 膨らんだ期待が、大きな妄想を掻き立てる。

「……ここだ」

 指定された場所は、都内の一流らしきホテル――多忙の中スケジュールを合わせてくれたらしい。
 フロントの待合室だろうか、それとも1階のカフェ?
 時間は夜を回り、周りにヒトが減って心臓の鼓動も早くなる。

「うーん、いないなあ」

 会議室でも取ったのだろうか。だとすれば、他のメンバーも連れてきていいはずだ。てっきり、騒がしくしてはならないから、ゆあんだけを指定してきたと考えていた。

「つきました、どこにいますか」

 プロデューサーにメッセージを送り、返事はすぐに帰ってくる。

『1303に来て!』

 疑いの念が増していく。
 だからと言って、尻尾を撒いて帰るわけにもいかない。
 もしかしたら、それこそ会議室のような部屋なのかもしれない。

 ゆあんは、自分を騙してエレベータに乗る。
 指示された部屋の前に立ち、仕方なしにインターホンを押す。

「――やあ」

 扉を開けたのは、バスローブ姿で湯気を出す小太りの男性おじさん――

「ちょうどシャワー浴び終わったところ、入って入って」

 少ない髪の毛が頭皮にくっ付いて、薄さがより際立って見える。
 ゆあんは言葉を失い、動けなくなって言われるがまま部屋に通される。

「いやあ、疲れちゃったよお。たっぷり癒しが欲しい感じ」

「……あの、打合せ――」

「ゆあんちゃんはどんなプレイがお好みかなあ」

 キングサイズのベッドに腰を掛け、鼻歌交じりで髭を剃り終えた男は、剃刀カミソリを横のテーブルに置いてゆあんをイヤらしい目で舐め回す。
 ゆあんは、部屋の入り口付近で固まって動けないでいた。

「どうしたの? 早く来なよ」

 男が立ち上がり、気持ちの悪い笑みを浮かべながら近づいてい来る。

 どれだけ美容に気を遣っていても
 どれだけ肌が潤っていても
 どれだけ香水を振りまいて誤魔化そうが、ゆあんには分かる。

 キモい、汚い、臭い

 汚らしい心――


「……すみません、帰ります」

 早々に振り返って扉に手を掛ける。だが、男の動きは素早かった。後ろから動きを封じるように、ゆあんの全身を抱き締めてくる。

「どうして? これからだよね?」








 ――どうして

 ――どうして、わたしばっかり……


 そうか、期待するからイケないんだ。

 何度も何度も……
 何度も何度も何度も、期待するだけバカだった――
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