モンスターの預かり屋さん

ねこじゃ・じぇねこ

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カエルになった行商人

4.居場所のないカエル

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「なあ、何とか言っておくれよ」

 すっかりだまんでしまったメイプルを前に、ポポは言いました。
 希望をてられずにいるポポを前に、メイプルとシロップは二人ともなかなかいい言葉が見つけられずにいたのです。彼女たちの知る答えは一つしかありません。だから、どうしたら目の前のこのカエルをきずつけずにむか、相応ふさわしい言葉を探していたのです。
 そんな二人に助けぶねを出したのが、パームでした。

「無理……なのですね」

 パームもまた光の国生まれ、光の国育ちでしたので、ポポの身に起きたことがどれだけ厄介やっかいな事だったのかを理解りかいしていたのです。けれど、だからこそ、パームの願いは少し違いました。

「分かっております。この呪いがとても強力であることを。けれど、それならばお願いがあります。どうか、ポポをしばらく預かってはくれないでしょうか」
「えっ!」

 思わず声を上げたのはシロップでした。
 あからさまにいや反応はんのうしめす彼女でしたが、ポポは必死にすがりつきました。

たのむ……ああ、頼むよ。オイラ、おとなしくしているからさ。なんなら、ここで色々と役立ってみせるよ。人手だっているんじゃないか。毎日、たくさんのモンスターたちのお世話をしているんだろう。カエル一匹いっぴきだろうと何かしらお役に立てるはず」
「そんなの無理よ!」

 シロップは即座そくざに言いました。

「だって、あなたも言ったじゃない。カエルはご法度なのよ。もしも、兵隊さんたちに見つかったら、このお店がつぶれちゃうかもしれない」
「ああ、それはオイラだって望んじゃいないさ。だけどさ、裏方うらかたならばどうだい? 裏で何かしらするときは一生懸命いっしょうけんめい働くよ。だから、頼むこの通りだ」

 何度もおがむ彼と共に、シュガーもまた言いました。

「本当なら、パームだってわたし達のお店にかくまいたいくらいなのよ。けれど、あのお店は色んな人が出入りするからとてもあぶないの」
「危ない?」

 メイプルの問いに、パームは暗い顔をしてうなずきました。

「わたしの周りにはポポを好いている人の方が多いのだけど、彼が闇の国の人であることに引っかかる人もやっぱりいるの。そうは言っても、これまでだったら心配はいらなかったわ。けれど、これからはちょっと事情が変わってくる。ポポが闇の国の人で、見た目がカエルになってしまった今だと、さらにきびしい目を向けてくる人たちがいる……。ここ数日の両国の関係を受けて、お店でもそんな空気を感じるようになってきたの」

 パームがポポと恋仲こいなかにあることは、家族や親戚しんせきはもちろん、宝石屋さんの常連じょうれんさんや関係者ならばよく知っていました。
 かつてはその事をみんな受け入れていたのですが、光の国と闇の国の関係がどんどん悪化し、ついにまた戦いが始まるかというニュースが広まってくると、彼女を取り環境かんきょうもすっかり変わってしまったのです。

 まだあの闇の国の若者わかものと付き合っているのか?
 光の国の兵隊さんとのいいお見合いがあるのだがどうかしら?

 それは、ここ数日の間にパームが複数ふくすうの人達に言われた言葉でした。どうやら彼らはポポと別れてしいらしい。その空気を感じ始めていた矢先のこの出来事でした。
 もしも、このことが周囲しゅういの人達に知られてしまったら。同情どうじょうしてくれる人だってきっとまだいるかもしれません。ですが、そうではない人達がいるだろうことをパームはさとっていました。
 もちろん、ポポも同じようなことを思っていました。これではまずいと思ったのでしょう。彼はどうにか光の国へとやって来ると、こっそりとパームのもとをおとずれて、別れを切り出したのです。

「オイラはパームに迷惑めいわくをかけたくなかったんだ。ああ、でも、もちろん、愛していないわけじゃない。今だってパームのことが大好きなんだ。これからも本当はずっと一緒にいたいと思っている。だけど、オイラはカエルだ。カエルの身で結婚してくれなんて言えないだろう」

 鳥かごのなかでしょんぼりとする彼の姿を横目に、パームはメイプルたちに言いました。

「わたしはいいんです。彼がカエルであろうと。彼が無事でさえいれば。けれど、今の光の国はちょっとこわいんです。怖い空気が流れている。だから、この空気がうすまるまでの間、彼には安全な場所にいて欲しいんです」

 切実に願うパームに続いて、シュガーもまたメイプルたちに言いました。

「お願い。どうか、二人を助けてあげて欲しいの」
「世間の空気が変わるまでの間でいいんだ」

 拝みながらポポは言いました。

「王さまたちの話し合いがうまくまとまって、両国の緊張きんちょうけてくれれば、きっとみんなの心にもゆとりがもどるだろう。そうしたらオイラも自分の口でうまいこと説明するさ。勉強不足のオイラを笑っておくれって。イタズラ妖精がこの国で有名ならば、きっと分かってくれるだろうからね。でも、今はちょっとむずかしそうなんだ。その時までどうか、オイラに居場所をめぐんで欲しい」

 切実なうったえでしたが、シロップはうんとなやみながらことわる言葉を考えていました。

「事情は分かったけれど──」

 と、その時でした。

「分かった。お引き受けします」

 メイプルがすんなりとそう言ったのです。シロップはあっけに取られてしまいました。

「め、メイプル!」

 けれど、もう引き返せません。パームも、シュガーも、そしてポポも、みんな一斉いっせいに目を輝かせてメイプルに感謝かんしゃべていたからです。

「ありがとうございます!」
「よかった、本当にありがとう!」
「オイラ、一生懸命働くよ! 本当だよ!」

 お客さん達の心からよろこぶ姿を見ていると、シロップはもう何も言えなくなってしまいました。
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