4 / 40
カエルになった行商人
4.居場所のないカエル
しおりを挟む
「なあ、何とか言っておくれよ」
すっかり黙り込んでしまったメイプルを前に、ポポは言いました。
希望を捨てられずにいるポポを前に、メイプルとシロップは二人ともなかなかいい言葉が見つけられずにいたのです。彼女たちの知る答えは一つしかありません。だから、どうしたら目の前のこのカエルを傷つけずに済むか、相応しい言葉を探していたのです。
そんな二人に助け舟を出したのが、パームでした。
「無理……なのですね」
パームもまた光の国生まれ、光の国育ちでしたので、ポポの身に起きたことがどれだけ厄介な事だったのかを理解していたのです。けれど、だからこそ、パームの願いは少し違いました。
「分かっております。この呪いがとても強力であることを。けれど、それならばお願いがあります。どうか、ポポをしばらく預かってはくれないでしょうか」
「えっ!」
思わず声を上げたのはシロップでした。
あからさまに嫌な反応を示す彼女でしたが、ポポは必死にすがりつきました。
「頼む……ああ、頼むよ。オイラ、おとなしくしているからさ。なんなら、ここで色々と役立ってみせるよ。人手だっているんじゃないか。毎日、たくさんのモンスターたちのお世話をしているんだろう。カエル一匹だろうと何かしらお役に立てるはず」
「そんなの無理よ!」
シロップは即座に言いました。
「だって、あなたも言ったじゃない。カエルはご法度なのよ。もしも、兵隊さんたちに見つかったら、このお店がつぶれちゃうかもしれない」
「ああ、それはオイラだって望んじゃいないさ。だけどさ、裏方ならばどうだい? 裏で何かしらするときは一生懸命働くよ。だから、頼むこの通りだ」
何度も拝む彼と共に、シュガーもまた言いました。
「本当なら、パームだってわたし達のお店に匿いたいくらいなのよ。けれど、あのお店は色んな人が出入りするからとても危ないの」
「危ない?」
メイプルの問いに、パームは暗い顔をして頷きました。
「わたしの周りにはポポを好いている人の方が多いのだけど、彼が闇の国の人であることに引っかかる人もやっぱりいるの。そうは言っても、これまでだったら心配はいらなかったわ。けれど、これからはちょっと事情が変わってくる。ポポが闇の国の人で、見た目がカエルになってしまった今だと、さらに厳しい目を向けてくる人たちがいる……。ここ数日の両国の関係を受けて、お店でもそんな空気を感じるようになってきたの」
パームがポポと恋仲にあることは、家族や親戚はもちろん、宝石屋さんの常連さんや関係者ならばよく知っていました。
かつてはその事をみんな受け入れていたのですが、光の国と闇の国の関係がどんどん悪化し、ついにまた戦いが始まるかというニュースが広まってくると、彼女を取り巻く環境もすっかり変わってしまったのです。
まだあの闇の国の若者と付き合っているのか?
光の国の兵隊さんとのいいお見合いがあるのだがどうかしら?
それは、ここ数日の間にパームが複数の人達に言われた言葉でした。どうやら彼らはポポと別れて欲しいらしい。その空気を感じ始めていた矢先のこの出来事でした。
もしも、このことが周囲の人達に知られてしまったら。同情してくれる人だってきっとまだいるかもしれません。ですが、そうではない人達がいるだろうことをパームは悟っていました。
もちろん、ポポも同じようなことを思っていました。これではまずいと思ったのでしょう。彼はどうにか光の国へとやって来ると、こっそりとパームのもとを訪れて、別れを切り出したのです。
「オイラはパームに迷惑をかけたくなかったんだ。ああ、でも、もちろん、愛していないわけじゃない。今だってパームのことが大好きなんだ。これからも本当はずっと一緒にいたいと思っている。だけど、オイラはカエルだ。カエルの身で結婚してくれなんて言えないだろう」
鳥かごのなかでしょんぼりとする彼の姿を横目に、パームはメイプルたちに言いました。
「わたしはいいんです。彼がカエルであろうと。彼が無事でさえいれば。けれど、今の光の国はちょっと怖いんです。怖い空気が流れている。だから、この空気が薄まるまでの間、彼には安全な場所にいて欲しいんです」
切実に願うパームに続いて、シュガーもまたメイプルたちに言いました。
「お願い。どうか、二人を助けてあげて欲しいの」
「世間の空気が変わるまでの間でいいんだ」
拝みながらポポは言いました。
「王さまたちの話し合いがうまくまとまって、両国の緊張が解けてくれれば、きっとみんなの心にもゆとりが戻るだろう。そうしたらオイラも自分の口でうまいこと説明するさ。勉強不足のオイラを笑っておくれって。イタズラ妖精がこの国で有名ならば、きっと分かってくれるだろうからね。でも、今はちょっと難しそうなんだ。その時までどうか、オイラに居場所を恵んで欲しい」
切実な訴えでしたが、シロップはうんと悩みながら断る言葉を考えていました。
「事情は分かったけれど──」
と、その時でした。
「分かった。お引き受けします」
メイプルがすんなりとそう言ったのです。シロップはあっけに取られてしまいました。
「め、メイプル!」
けれど、もう引き返せません。パームも、シュガーも、そしてポポも、みんな一斉に目を輝かせてメイプルに感謝を述べていたからです。
「ありがとうございます!」
「よかった、本当にありがとう!」
「オイラ、一生懸命働くよ! 本当だよ!」
お客さん達の心から喜ぶ姿を見ていると、シロップはもう何も言えなくなってしまいました。
すっかり黙り込んでしまったメイプルを前に、ポポは言いました。
希望を捨てられずにいるポポを前に、メイプルとシロップは二人ともなかなかいい言葉が見つけられずにいたのです。彼女たちの知る答えは一つしかありません。だから、どうしたら目の前のこのカエルを傷つけずに済むか、相応しい言葉を探していたのです。
そんな二人に助け舟を出したのが、パームでした。
「無理……なのですね」
パームもまた光の国生まれ、光の国育ちでしたので、ポポの身に起きたことがどれだけ厄介な事だったのかを理解していたのです。けれど、だからこそ、パームの願いは少し違いました。
「分かっております。この呪いがとても強力であることを。けれど、それならばお願いがあります。どうか、ポポをしばらく預かってはくれないでしょうか」
「えっ!」
思わず声を上げたのはシロップでした。
あからさまに嫌な反応を示す彼女でしたが、ポポは必死にすがりつきました。
「頼む……ああ、頼むよ。オイラ、おとなしくしているからさ。なんなら、ここで色々と役立ってみせるよ。人手だっているんじゃないか。毎日、たくさんのモンスターたちのお世話をしているんだろう。カエル一匹だろうと何かしらお役に立てるはず」
「そんなの無理よ!」
シロップは即座に言いました。
「だって、あなたも言ったじゃない。カエルはご法度なのよ。もしも、兵隊さんたちに見つかったら、このお店がつぶれちゃうかもしれない」
「ああ、それはオイラだって望んじゃいないさ。だけどさ、裏方ならばどうだい? 裏で何かしらするときは一生懸命働くよ。だから、頼むこの通りだ」
何度も拝む彼と共に、シュガーもまた言いました。
「本当なら、パームだってわたし達のお店に匿いたいくらいなのよ。けれど、あのお店は色んな人が出入りするからとても危ないの」
「危ない?」
メイプルの問いに、パームは暗い顔をして頷きました。
「わたしの周りにはポポを好いている人の方が多いのだけど、彼が闇の国の人であることに引っかかる人もやっぱりいるの。そうは言っても、これまでだったら心配はいらなかったわ。けれど、これからはちょっと事情が変わってくる。ポポが闇の国の人で、見た目がカエルになってしまった今だと、さらに厳しい目を向けてくる人たちがいる……。ここ数日の両国の関係を受けて、お店でもそんな空気を感じるようになってきたの」
パームがポポと恋仲にあることは、家族や親戚はもちろん、宝石屋さんの常連さんや関係者ならばよく知っていました。
かつてはその事をみんな受け入れていたのですが、光の国と闇の国の関係がどんどん悪化し、ついにまた戦いが始まるかというニュースが広まってくると、彼女を取り巻く環境もすっかり変わってしまったのです。
まだあの闇の国の若者と付き合っているのか?
光の国の兵隊さんとのいいお見合いがあるのだがどうかしら?
それは、ここ数日の間にパームが複数の人達に言われた言葉でした。どうやら彼らはポポと別れて欲しいらしい。その空気を感じ始めていた矢先のこの出来事でした。
もしも、このことが周囲の人達に知られてしまったら。同情してくれる人だってきっとまだいるかもしれません。ですが、そうではない人達がいるだろうことをパームは悟っていました。
もちろん、ポポも同じようなことを思っていました。これではまずいと思ったのでしょう。彼はどうにか光の国へとやって来ると、こっそりとパームのもとを訪れて、別れを切り出したのです。
「オイラはパームに迷惑をかけたくなかったんだ。ああ、でも、もちろん、愛していないわけじゃない。今だってパームのことが大好きなんだ。これからも本当はずっと一緒にいたいと思っている。だけど、オイラはカエルだ。カエルの身で結婚してくれなんて言えないだろう」
鳥かごのなかでしょんぼりとする彼の姿を横目に、パームはメイプルたちに言いました。
「わたしはいいんです。彼がカエルであろうと。彼が無事でさえいれば。けれど、今の光の国はちょっと怖いんです。怖い空気が流れている。だから、この空気が薄まるまでの間、彼には安全な場所にいて欲しいんです」
切実に願うパームに続いて、シュガーもまたメイプルたちに言いました。
「お願い。どうか、二人を助けてあげて欲しいの」
「世間の空気が変わるまでの間でいいんだ」
拝みながらポポは言いました。
「王さまたちの話し合いがうまくまとまって、両国の緊張が解けてくれれば、きっとみんなの心にもゆとりが戻るだろう。そうしたらオイラも自分の口でうまいこと説明するさ。勉強不足のオイラを笑っておくれって。イタズラ妖精がこの国で有名ならば、きっと分かってくれるだろうからね。でも、今はちょっと難しそうなんだ。その時までどうか、オイラに居場所を恵んで欲しい」
切実な訴えでしたが、シロップはうんと悩みながら断る言葉を考えていました。
「事情は分かったけれど──」
と、その時でした。
「分かった。お引き受けします」
メイプルがすんなりとそう言ったのです。シロップはあっけに取られてしまいました。
「め、メイプル!」
けれど、もう引き返せません。パームも、シュガーも、そしてポポも、みんな一斉に目を輝かせてメイプルに感謝を述べていたからです。
「ありがとうございます!」
「よかった、本当にありがとう!」
「オイラ、一生懸命働くよ! 本当だよ!」
お客さん達の心から喜ぶ姿を見ていると、シロップはもう何も言えなくなってしまいました。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる