最強の異世界チートを考える会エルデネンス支部

プロローグ

意味

それは突然の事だった。
目の前に車が飛び出して来ただとか、高いところから落ちただとか理由があるわけでもないのに突然頭に激痛が走った。

かと思うと、何やら身体が底の無い穴の中をずっと落ちていくような感覚に襲われた。

暗闇の中でここ数年間の苦いような甘酸っぱいような思い出が走馬灯のように駆け巡る。

直感した。自分は死んだのだと。


“矢張賢人ヤハリケント”

俺は、自分でも名前負けしていると思うこの名前で、何度もからかわれてきた。
偏差値で言うところのだいたい53くらいが俺の知力。普通だ。
賢人というほど賢くはないし、大馬鹿になれるわけでもなかった。

人より早かった中二病のせいでうんこやちんこからは早々に卒業し、中学受験で私立に進んだ。勉強だって人並みには努力した。
でも地頭がダメだった。

『ヤッパリバカ人』

それが私立の偏差値70前後の同級生から付けられた愉快なニックネームだった。

“中”も“上”の中では“下”なのである。


しかし、身長が入学時に183cm……17歳の現在は197cmある上、スポーツは人並み以上にできたのでいじめには発展しなかった。
学校生活においてパワーは力だったのだ。


さらに、部活動の関係で知り合った女子（色白で巨乳。黒髪ロングヘアー）と先週メールアドレスを交換し、デートの約束まで取り付けた。


最も、何の進展もないまま死んだわけだが。


「俺の人生の意味って何だったんだよ……」

思わず頬を涙が伝う。

その瞬間だった。


「人の一生に意味などありません。しかし、貴方にはあるかもしれません」


目の前が白い光に包まれたかと思うと、目の前に青い水晶玉を抱えた、女性を模した石膏像のようなものが浮かんでいた。


「貴方は不運にも早くにその一生を終えてしまいました。しかし貴方に待っているのは賽の河原の石積みでも、天国逝きでもありません」

何もない白だけの空間に浮かぶ女性の像と俺。
あぁ、これは去年の暮れにみた異世界転生チーターアニメにそっくりな展開だ……


思わず頬がほころんだ。

「やっぱり人は死んだらずっと夢を見てるような状態になるんだなぁ」

よかった。無ではなかった。そう安堵が込み上げてきた。


「いいえ、人は死んだら無にかえります。貴方はもう一度人生をやり直すのですよ。あなた方の言う“お約束通り”の世界で」

女性の像がそう言うとあたりが一層光を増し、とうとう像の姿まで見えなくなった。


＜＜選べるのはただひとつだけ……望み通りの容姿です＞＞

まるで風呂場の歌声のように声が響いた。

「望み通りの容姿？つまり俺も青髪サラサラヘアの180cm細身切れ長イケメンになれるっていうのか！？」


＜＜えぇ、ですがなんでそこまで具体的に……＞＞

「キャラメイクできるゲームではいつもこの容姿なんだよ！！」


ついつい熱を込めすぎてしまったようで、声が若干引き気味だった。
でもそんなことは今はどうでも良かった。


＜＜では思い描きなさい、ケント＞＞


声の指示通りに祈り、姿を思い描く。
いつもゲームで眺めてきた姿だ。簡単に思い描くことができた。


周囲から生暖かい風が流れ込んできているのがわかった。
微かに、青臭い芝のような匂いが漂ってくる。

＜＜ではお行きなさい、ケント。……貴方の能力は『協調』＞＞


薄れ行く景色の中で、そんな声が響いた気がした。