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1章 ようこそエルデネンスへ!

能力と協調

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「じゃあ、この世界にはチート能力を持ってる人がそこそこたくさんいるってこと?」


ユンバァの話に俺は心底がっかりした。100人に1人は結構な確率だと思う。年賀状の切手シートが当たる確率の半分くらい。そんなの年賀状をたくさんもらう人なら大抵当たる。


「そうなりますね、私も最初は結構がっかりしたんですよ?」

そういったミアナが苦笑する。そうだ、ミアナだって桃色の髪を選んだのだから多分俺と同じ異世界チートにちょっとは期待してた側の人間のはずだ。


「若者言葉でなんて言ったっけね、ちっと?まあ古い言葉で言えば女神の加護というには足らないのかも知れないけど、言い換えれば100人に1人の逸材なんだ。世界の主役にだってなれるはずだよ」

そういってユンバァは穏やかに笑う。
すると、ミアナは少しすねたような顔をする。

「それはユンバァが“持つ側”だから言えるんですよ!」

そう言えばここに来た時にミアナが何か言っていた気がする。
確か女神がどうとか……。

「そう言えばユンバァの能力ってなんなんですか?」

何かものすごく頭が良いという事は分かるが、100人に1人の割合でチーターがいるこんな世界ならそこまで珍しくはなさろうなものだが……。

「各主要国家に一人だけ存在する“女神の共有者”であり叡智の能力を授かった智の巨人、それがユンバァです。」

各国に一人だけしか居ない女神の共有者……?
それはあの石膏像と会話が出来たりということなんだろうか。預言者という事なのだろう。

「そんなに凄い事ではないよ、それに必ず主要国には一人ずつ共有者が生まれるのだからね。私はたまたまマグレで選ばれたに過ぎないの」

ユンバァはそう言って皺の寄った手でミアナの頬をなでる。

「マグレってどういう事なんですか?」

俺の問いにユンバァは柔らかく微笑む。

「共有者の命が潰えようとしている時、新たな共有者がこの世界に送られてくるの。つまりは、共有者なんてたまたま共有者が死んでしまいそうな時に死んでしまっただけの人間なんだよ」


「だからこそ、凄いんですよ。共有者に選ばれたからといってチートが強力なものになるわけではありません。ですが、ユンバァは“叡智”という強力なチートを持ってこの世界に来てるんです。――つまり、ユンバァはこの世界で最も知識を持った人間なんです」


――この世界で最も知識を持った人間

ミアナの言葉を聞くと、途端に目の前の背の低い穏やかな老婆から放射状にこちらを押し出してくるような威圧感のようなものを感じた気がした。というか威圧感に押されて4、5cmは後ろに弾かれた気がする。


「まあまあ、私の話はこんな所で良いじゃない。ケント君、貴方の能力は何なの?」

ユンバァはずるいですーと拗ねたように繰り返すミアナの頭を数度ぽんぽん、と軽く叩いた後にこちらに向き合う。

「協調……だそうです。」


俺の言葉にユンバァは一瞬驚いたような表情を浮かべた。
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