元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね?

紅葉ももな(くれはももな)

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お医者さまはどこですか?

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 突然部屋に飛び込んで来た私に、説教でもするつもりだったのだろう。

 私の剣幕にただならぬ事態だと察したのか、クロードは直ぐに小さな煉瓦造りの暖炉へ薪を数本放り込んだ。

 クロードはパチパチと火が弾ける音がしている暖炉の前へ、部屋に備え付けられた長いソファーをズルズルと引き摺っていく。

 すぐさま寝台に駆け寄り毛布を剥がすとソファーへと持ってくる。

「殿下、ここへ」

「うん」

 外套から現れた子供の姿にクロードが息を飲む。

「子供!? いったいどこから攫ってこられたのですか! 直ぐに保護者に返してきてください!」

 動揺しているのかトンチンカンな事を言い始めた。

「返してくるも何も……この子は奴隷で」

「奴隷!?」

 バッ! と勢い良く私の腕の中で眠り続ける幼児を確認した。

 確かに驚くよね、こんな小さな子供が奴隷なんて。

「クロード、この子を医師に見せたい、この街にいると思う?」

「いいえ……たぶん居ないと思います」

 医師になるには多くの知識と経験が必要だ。

 もともと患者の人数に対して医師の数が圧倒的に少なく、また知識の共有や患者数の多い都市部へ自然と医師が集まって行くのだ。

 そのためこの国境にある街のように小さな所では常駐する医師が居ないことが多い。

「ここから一番大きな街まで騎馬で走り通しても一日、この弱った子供を連れて行かれるなら馬車で二日は掛かります」

 渋面を浮かべたクロードが痛ましげに私の腕の中のでぐったりと身体を預ける子供を見た。

「外の大雪を考慮すれば更に一日掛かるでしょう……しかもドラグーン王国では……」

 ドラグーン王国で国王が戦の為に集めたのは農兵ばかりではない、従軍医師も相当数集められていたのだ。

 このスノヒス国との国境に来るまでに立ち寄った街で実際に医師は存在せず、治療が受けられる状態にないのもこの目で確認している。
 
 かと言ってスノヒス国へ向かおうにも、医師が在中する都市までこの街よりも更に雪深い街道を行かねばならず、どれだけの時間が掛かるか検討もつかない。

 また私にはなにも出来ないのか……

 記憶を持ったまま二度目の人生を得て、王子……正確には王太子なんて特権階級中の特権階級に産まれたのに、私には何もできない。

 自分の甘さで大切なもう一人の父親と呼べるロンダークを失い、またこの小さな命を救うことも出来ない……
 
 不甲斐ない自分に、下唇に歯を立てる。

 熱が上がってきているのか荒い息を繰り返す子供を力強く抱きしめる。

「キュ~」

 それまで背中に隠れていたサクラが、私の身体をよじ登り、私の口元を小さな舌でペロリと舐めた。

 まるで励ますようなその仕草に少しだけ癒されたような気がする。

「ありがとうサクラ……慰めてくれるのか?」

 私の頬に身体を擦り付けてくるサクラの紅の身体を撫でる。   

「サクラ……、そうだサクラだ! サクラがいる!」

 空を自由に舞う事が出来るサクラなら騎馬や馬車のように地形に左右されず、最短距離をレイナス王国まで、それも確実に医師がいる王城まで一日でたどり着ける。

「クロード、この子お願い!」

「シオル殿下!?」

 クロードに子供を押し付けて、私は部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。


 

 
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