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10話『それぞれの道』
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大型商隊が離脱する事で個人の行商人たちと小さないざこざがあったものの、勇者一行への各商隊主の挨拶は拍子抜けするほどあっさりと終了した。
もともと勇者一行と騎士団は、自分たちの後ろをぞろぞろ付いてきて諍いを起こしては騎士団の手を煩わせる商人たちに嫌気がさしていたようで、商隊から幾分かの商品を買い上げるとすぐさま騎士団に戻っていった。
どうやら騎士団は先を急ぐようで、この分岐の広場で別れる商隊を置いて出発していった。
休むつもりもない騎士団についていくことに決めた個人の行商人たちが、慌ただしく出立する姿を見送り離脱を決めた全ての商隊の従業員たちは安堵の息を吐いた。
無理に騎士団の進軍速度に合わせていたせいで、荷馬車を引く馬や徒歩の追従者の疲弊が激しい。
しかも警戒対象になっていた素行の悪い行商人たちは全て騎士団についていったため、これで少しは安心して休むことが出来るだろう。
「他の商隊主と相談してきたんだが、皆今日はここで休むことにしたようだ。 明るいうちに共同で食事の支度をして交代で休む
からそのつもりでいてくれ」
ハウンドの指示が入ると、みなそれぞれの役割通りに動き出した。
ここ二日ろくな休憩も取らず、煮炊きもできずに非常食である干し肉や固焼きのパンをかじるだけだっただけに、煮炊き班の表情も緩む。
「私もお手伝いさせてください!」
「あら、ありがとう! じゃあスープ用の野菜の皮むきをお願いできるかしら?」
「はい!」
声をかければ、お仕事を貰えたので、指定された野菜の皮を剥いていく。
「あらぁ、皮むき上手ね」
「ありがとうございます」
孤児院にいた時は食べる人数も多かったので、料理をするために剥かなければならない野菜も多かった、そしてその野菜はお店で倦厭される個性的な形の野菜や傷みが激しいフニャフニャになった芋と格闘していたおかげか、皮むきは上手になった。
必要に駆られて覚えた皮むきを、誰かに褒めてもらえるのが素直に嬉しい。
野菜と干し肉を煮込んだスープに固焼きパンを浸して口に運べば、自然と笑顔がこぼれる。
かたずけを済ませて、それぞれがくつろぎだした時を見計らってお花摘みに行くと言って商隊を離れた。
「『肝っ玉母ちゃんのマイルーム』」
周囲に人がいないのを確認してマイルームの扉を呼び出して素早く中に入り扉を閉めた。
どうやら扉を内側から閉めても扉は消えるらしい。
「本当に不思議だわ」
慌ただしく出発したことで、マイルーム内に放置した荷物を片付けようと思ったのだ。
「さて……荷物は……あれ?」
記憶が確かなら荷物は出入り口の周辺に入れていたはずなのに見当たらない。
消えた荷物も気になるけれど、とりあえずお花摘みが先だ。
建物内にある厠に駆け込み用を済ませて、手を洗うべく厨房に移動してなんとなく……食糧庫を開けて固まった。
何もなかったはずの食糧庫に買って放置した野菜が傷んだ様子なく鎮座していたのだから。
「もっ、もしかして!?」
エミーは一部屋一部屋扉を開けては中を確認していく。
「あっ、あったー!」
建物から外に通じる倉庫に農機具や種一式、シーツ類を保管していた場所に買った毛布類が収まっていた。
「あはは、自動で片付けはありがたいわ」
改めてマイルームの規格外さを実感した。
もともと勇者一行と騎士団は、自分たちの後ろをぞろぞろ付いてきて諍いを起こしては騎士団の手を煩わせる商人たちに嫌気がさしていたようで、商隊から幾分かの商品を買い上げるとすぐさま騎士団に戻っていった。
どうやら騎士団は先を急ぐようで、この分岐の広場で別れる商隊を置いて出発していった。
休むつもりもない騎士団についていくことに決めた個人の行商人たちが、慌ただしく出立する姿を見送り離脱を決めた全ての商隊の従業員たちは安堵の息を吐いた。
無理に騎士団の進軍速度に合わせていたせいで、荷馬車を引く馬や徒歩の追従者の疲弊が激しい。
しかも警戒対象になっていた素行の悪い行商人たちは全て騎士団についていったため、これで少しは安心して休むことが出来るだろう。
「他の商隊主と相談してきたんだが、皆今日はここで休むことにしたようだ。 明るいうちに共同で食事の支度をして交代で休む
からそのつもりでいてくれ」
ハウンドの指示が入ると、みなそれぞれの役割通りに動き出した。
ここ二日ろくな休憩も取らず、煮炊きもできずに非常食である干し肉や固焼きのパンをかじるだけだっただけに、煮炊き班の表情も緩む。
「私もお手伝いさせてください!」
「あら、ありがとう! じゃあスープ用の野菜の皮むきをお願いできるかしら?」
「はい!」
声をかければ、お仕事を貰えたので、指定された野菜の皮を剥いていく。
「あらぁ、皮むき上手ね」
「ありがとうございます」
孤児院にいた時は食べる人数も多かったので、料理をするために剥かなければならない野菜も多かった、そしてその野菜はお店で倦厭される個性的な形の野菜や傷みが激しいフニャフニャになった芋と格闘していたおかげか、皮むきは上手になった。
必要に駆られて覚えた皮むきを、誰かに褒めてもらえるのが素直に嬉しい。
野菜と干し肉を煮込んだスープに固焼きパンを浸して口に運べば、自然と笑顔がこぼれる。
かたずけを済ませて、それぞれがくつろぎだした時を見計らってお花摘みに行くと言って商隊を離れた。
「『肝っ玉母ちゃんのマイルーム』」
周囲に人がいないのを確認してマイルームの扉を呼び出して素早く中に入り扉を閉めた。
どうやら扉を内側から閉めても扉は消えるらしい。
「本当に不思議だわ」
慌ただしく出発したことで、マイルーム内に放置した荷物を片付けようと思ったのだ。
「さて……荷物は……あれ?」
記憶が確かなら荷物は出入り口の周辺に入れていたはずなのに見当たらない。
消えた荷物も気になるけれど、とりあえずお花摘みが先だ。
建物内にある厠に駆け込み用を済ませて、手を洗うべく厨房に移動してなんとなく……食糧庫を開けて固まった。
何もなかったはずの食糧庫に買って放置した野菜が傷んだ様子なく鎮座していたのだから。
「もっ、もしかして!?」
エミーは一部屋一部屋扉を開けては中を確認していく。
「あっ、あったー!」
建物から外に通じる倉庫に農機具や種一式、シーツ類を保管していた場所に買った毛布類が収まっていた。
「あはは、自動で片付けはありがたいわ」
改めてマイルームの規格外さを実感した。
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