おっさん救世主はふたつの世界を救うため、両世界をまたにかけ異世界ウェディング事業を立ち上げる事にした

紅葉ももな(くれはももな)

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黒猫亭

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第49話 黒猫亭

 黒猫亭を訪れた俺たちを出迎えてくれたのは肉付きのいい体つきをした妙齢の女性だった。

 赤褐色の髪を綺麗に編み込み纏め上げ、小鼻の上にソバカスが散っている。

「いらっしゃい! あら見ない顔ね。 黒猫亭へようこそ。 この店は初めてかしら?」

「いえ、サントスさんはいらっしゃいますか?」

「あら? 旦那の知り合い?」

「えぇ、まぁ……」

 サントスさんを旦那と呼ぶと言うことは、この女性が奥さんのパメラさんなのだろうか。

「ちょっと待っててね。 丁度昼時の忙しい時間は過ぎてるから呼んでくるわ。 好きな席へ座っていてくれる?」

「はい、ありがとうございます」

 パタパタと厨房があるバックヤードへ走っていく暫定パメラさんを見送って俺は彰吾と幸広と店の奥まった場所にあるテーブルへ陣取った。

「いやぁこの店構え、ちょっと西部劇にでも出てきそうな雰囲気はやっぱり異世界観が漂うな」

「だな、外はヨーロッパっぽい石造りの建築物やら、木造やら統一感皆無なのになんで違和感無く成り立つのか不思議だよな」

「俺も初めて街中を歩いたときに思ったな。 それ……」

 御屋敷を出るときにこちらの世界の服に着替えて来たため、危惧していたよりも周りから浮いておらず、ぱっと見ならこちらの世界の住人と変わらなく映るだろう。

「オキタさん!」

 背後から声を掛けられて振り替えれば、先日の魔道具騒動の際にお世話になったこの黒猫亭の店主兼料理人のサントスさんが調理場からこちらへやってきた。

 俺が素早く席から立ち上がると、続いて彰吾と幸広も立ち上がった。

「サントスさん、お邪魔しております。 先日は子供達の捜索にご尽力いただきありがとうございました」

 俺が深々と頭を下げれば、彰吾と幸広も頭を下げる。

「オキタさん、私達は当たり前の事をしただけです、頭を上げてください」

 困ったような顔をしたサントスさんに甘えて頭をあげれば、呼びにいってくれた女性が俺たちとサントスさんを交互にみやる。

「ねぇあんた、この人らは知り合いなのかい?」

「ん? あぁ、パメラはお会いしたことが無かったな、こちらはカズナリ・オキタさん。  ちまたで有名な救世主様だよ。 オキタさん家内のパメラです。 お見知りおき下さい」

「救世主様って、えー!? ちょっ、ちょっとお待ちくださいね、アナタ! 紙は!?」

 俺と旦那さんを交互に見比べて、パメラさんはなぜか紙を探して走っていってしまった。

「オキタさんすいません、うちの家内騒々しくて……」

「いえいえ、元気な素晴らしい奥さんじゃないですか」

「そう言っていただけると助かります。 今日はお食事されていかれますか?」

 午前中に地方裁判所に出向いたりと時間をとられて昼食を抜いていた事を思い出す。

「そうですね……どうする二人とも?」

 話の矛先を向ければ、二人とも満面の笑み。

「サントスさんにお任せしますので三人分お願いできますか?」

「あぁ、少しだけ時間をもらっても大丈夫かい?」

「えぇ、問題ありません」

 後ろの二人は間違いなく問題ないだろう。既に楽しみすぎてそわそわしているようだしな。

「それじゃゆっくりしていってくれ。 席は……もう少しすれば、地下迷宮帰りの冒険者達が来ると思うが個室じゃなくて大丈夫かい?」

 窓から室内へ差し込む光を確認するとサントスが聞いてきた。

「えっと、それじゃぁ……」

『ここがいいです!』

「だそうです」

 俺が返事するよりも早く後ろの二人が勢い良く答えた。

 まぁ二人が良いならいいかな……、前回黒猫亭を訪れた時も店内に客はおらず、美味しそうな料理ばかりが並んでいた。

 賑わいを見せる黒猫亭の様子も是非見てみたい、無数の特徴的なファンタジー種族が暮らす世界の居酒屋ならきっと面白いものが見れることだろう……と。

 そう楽観視していた自分を俺は殴ってやりたい。



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