おっさん救世主はふたつの世界を救うため、両世界をまたにかけ異世界ウェディング事業を立ち上げる事にした

紅葉ももな(くれはももな)

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異世界家族旅行。

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 さて連休初日の本日、いつも通り美枝子の作ってくれたお味噌汁と、地場産の米を使った炊きたての銀シャリがテーブルにならんでいる。

 曲がりネギが入った卵焼きと縮みほうれん草のお浸しに舌鼓を打ちながら食べきり、食器の後片付けを手伝った。

 昨晩のうちに玄関先へ積まれた荷物を、せっせと愛車へ積み込むと、終わる頃に身支度を整えた美枝子と蛍が出てきた。

 美枝子はふわふわとした白いロングスカートとレースがあしらわれた衿がアクセントになっている紺色のトップスと、同じく紺色のパンプスには真珠のようなビーズがあしらわれていて可愛い。

 結婚してから伸ばしはじめた茶色い髪を顔の脇でシュシュで一つに纏め緩く胸元に流している。

 今日は外出の為か綺麗に化粧が施されて、睫毛が長くなりアイプチとやらのお陰かいつもより目がぱっちりしている。

 小振りな唇には朱がひかれていて艶々ぷるんぷるんだ。化粧技術に脱帽だな。

 ショートヘアーもボーイッシュで可愛かったがロングも良い!

「どうかしら、おかしくない?」

 クルリとその場で回って見せた美枝子はいくつになっても凄く可愛い! 

「今日も素敵だね。 本音を言えば誰にも見せたくないなぁ、いくのやめるか?」

「もう、私楽しみにしてるんだから、中止なんて嫌よ? 蛍~、そろそろ出るわよぉ」

 美枝子は玄関を覗き込みながら二階にある蛍の部屋に向かって呼び掛けた。

「いまいくー」

 スマートフォンを操作しながら現れた蛍は今日も可愛いが、歩きスマホは危ないからやめなさい。

 本日の蛍はフワフワのシフォンの白いトップスと、ミニ丈のショートパンツ。ガーターベルトをしているように見えるニーハイ風のタイツが細い足を魅惑的に演出している。

 おろした髪は弛く巻かれ、余所行きなのかいつもより綺麗に見えるのは化粧のせいだろうか。

 小振りな可愛い唇も大きな瞳も顔面パーツが出会った頃の美枝子に似ている、ショートヘアーにしたら瓜二つだろう。

 うーむ、しかしこの格好で異世界へ連れていっても大丈夫だろうか?

 昨日見た限りではあちらは基本的にロングスカートが主流のようだった。

 まぁ、露出過多なタマと比べれば問題ないのかも知れないな。

「さて、それじゃぁ行きますか」

 車の運転席に乗り込むと、助手席に美枝子、後部座席では相変わらず、蛍がスマートフォンから視線を上げない。

「運転始めるぞ? 車酔い大丈夫か?」

「んー」

 視線をあげずに生返事を返す蛍の様子に苦笑いを浮かべる美枝子と頷き合いアクセルを踏み込んだ。

 目的地まで車で五分弱……。

「着いたよ」

「は? はや! えっ、ここっ!? 目茶苦茶近所じゃん!」

 えぇ、ご近所ですよ。 間違いありません。

「さぁ、降りた降りた。 俺は先に鍵を開けてくるから」

 ボヤく蛍から逃げるように玄関扉を開け放つと、愛車から沢山の荷物を室内に運び込んだ。

「ねぇ、ママ。 パパマジでヤバイんじゃない? だって近所だよ近所! 国内旅行や友達の所に行くにしてももう少し距離あるって!」

「一成さんがあぁ言っているんだし、気がすむまで付き合ってあげましょう? もしもの時は私が家を支えるわ」

 ううぅ、絶対信じてないな!? 畜生、絶対にギャフンと言わせてやる。

「直ぐに移動するけど、あちらには水洗トイレが無いから済ませてから移動する?」

 そう、昨日あちらで借りたトイレは昔なつかし汲み取り式のトイレだった。

 せっせと荷物をエレベータールームへと運び込んでいく。 ノートパソコンをはじめとした機器は問題なく持ち込めそうだ。

 タマの話では持ち込めないものは、エレベータールーム内から持ち込んだ世界以外へ出すことが出来ないらしい。

 なんでも自分の身体は素通り出来るが、ものの見事に見えない壁のようなものに阻まれるそうだ。

 あちらからエレベーターに衣類や金貨を持ち込んだとしても、こちらへ通れるのは衣服を脱いだ裸体との事。

 タマさまが初めて地球へ来たときはエレベータールームで服を脱ぎ、裸身で屋敷へ入り裁縫道具から糸ととカーテンを数枚あちらへ持ち込み、地球用の衣服を作ったそうだ。

 しかもサイズが自動的に直る魔法までかけてあるらしい、本当に器用なことで。

 俺は本日一番の懸念だった発電機とガソリンが入った十八リットル入の携行缶をエレベータールームへ運び込んだ。

 あとはあちらへ到着してから持ち込めるかが決まる。

 持ち込めなかったらまたこの大量の荷物を下ろさなければならないと思うとゾッとする。

「一成さん、これからどうするの?」  

「ねぇ、パパ。 やっぱり私美咲と出掛けても良い?」

 愛車もこの家の戸締まりも全て済ませてある。

「美咲ちゃんは今度にしなさい。 その前に二人ともエレベータールーム内へ入れるか?」

「ん、入れるに決まってんじゃん。 何寝惚けたこと言ってるの?」

 ひょいっと美枝子と手を繋いだまま飛び乗ったのを確認してエレベーターの扉を内側から閉める。

「蛍、このレバーを下げてみてくれ」

「えー、めんどくさい! パパがやったら良いじゃん」

 手元から目を離さない蛍の様子にあきらめた俺は、昨日タマがやって見せてくれた通りに緑色の壁に埋め込まれたレバーを引き下げた。

 起動音がエレベーター内に響き少しの浮遊感の後に、下へと下りていくのがわかる。

 チーン! と言う到着を告げる聞き慣れた電子音に、扉を開けるとそこには沢山のメイドと執事が通路に並び、色々な種族が入り乱れる見事な花道が出来ていた。

『お帰りなさいませ。 救世主カズナリ・オキタ様! ようこそいらっしゃいました! オキタ救世主夫人! オキタ救世主御令嬢!』

 一子乱れぬ完璧な礼に声を揃えた出迎えはまぁ、良い。

 隣を見れば美枝子と蛍が絶句しているから、意趣返しとしては上出来だろう。

 しかし言いたい! 救世主やめれ! この歳で救世主とかなんの公開処刑じゃ! 恥ずかしすぎるわ!
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