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アーティファクト?
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第25話 アーティファクト?
さて俺は自分の持てる全てのスルースキルを振り絞り、サントスさんの絶品料理に全力で現実逃避中。
タマさまが迎えに来るって事はどらちゃんがこの平和な酒場にやって来るわけでして……。
「うわっ! どっ、どどどドラゴンだ!」
「なんで空の覇者がこんな街中に!?」
あーぁ、店の外から悲鳴と困惑が聞こえてくるけど気が付かなかったことにしよう。
「オキタさん、お迎えが来たようですよ?」
俺ひとりでエールを飲むのも寂しかったので、晩酌に付き合ってもらいすっかり意気投合したサントスさんが両開きの扉に視線を送る。
「うー、行きたくない。 サントスさん代わってくださいよ」
「代われるものなら代わりたいところですけどねぇ。 残念ながら俺はしがない酒場の店主なんでね。 頑張って下さい、丸く収まったら旨い飯でもご馳走しますから」
「はぁぁぁぁ、約束ですよ? 今度は俺も妻と娘を連れてきますから」
「はははっ! それは光栄ですね。 救世主様御一家に黒猫亭を利用していただけるならこれ以上光栄なことはないですね」
豪快に笑うサントスさんに、ジト眼を向けると同時に背後の扉が勢いよく開かれた。
「黒猫亭とはここか!? カズナリ殿!」
飛び込んできたのはメロンでも入っているのではなかろうかと言わんばかりの胸部を惜しげもなく七割晒しだす大胆なデザインのドレスを纏った三毛猫獣人のタマさまだった。
身体のラインにぴったりと沿うように作られたドレスは細く括れたウエストや女性らしいまろやかな線を描き出す臀部を蠱惑的に見せるのだが、急いできたためか顔は……自主規制。
幼女よどこいった。
「サントスさん、エールをおかわり」
「無視ですか!?」
騒がしいタマさまは放置してサントスさんにおかわりを要求すると後ろでキャンキャン騒いでいる。
猫なのに……。
「カズナリ殿! そんなことをしている余裕はありませんぞ! すぐに王城へ戻るのじゃ!」
「え~!」
「え~! じゃありませんぞ! 美枝子殿がどうなっても知りませんぞ!?」
ムムムッ、それは一大事。
「サントスさん! 御馳走様でした。 また後日改めてお邪魔します」
「あぁ、まえもって連絡をくれれば貸しきりにしておくよ」
貸し切りかぁ、それも悪くないけど……。
「わかりました。 予約なしで突然きますね」
どうせなら人では溢れかえる賑やかな黒猫亭で食事がしてみたい。
「ははははっ! それでこそオキタさん。 かわってらっしゃる。 パメラといつでもお待ちしております」
「それではまた。 ほら、摘まみ食いしてないで急ぐんだろう?」
ちゃっかり川魚の姿揚げのような料理を摘まんで食べようとしているタマさまの尻尾を掴んで引っ張って移動を促した。
「……はぁっ……!」
艶を含んだ嬌声にも聞こえかねない吐息を吐いて床に崩れ落ちた。
「あっ、やべ。 すっ、すすすすいません! 大丈夫ですか?」
右手の中でぴくんぴくんと震える三毛のすべらかな尻尾を放すとタマさまが涙目で見上げてきた。
床に手を突いて両胸を腕で挟み込むようにして横座りするタマさまの絶景。
うわぁ色っぽいなぁ……。
……ハッ! 俺は一体なにを!?
あまりの色気に意識を持っていかれかけた。
こっ、これはあくまでも浮気じゃないぞ! わざとじゃないんだ! 掴むゆとりのない服を掴むのはセクハラになりそうでつい目の前にあった尻尾を掴んでしまっただけなんだ。
「……はぁ、カズナリ殿……尻尾は辞めてくだされ、力が抜けるのでの」
「すっ、すいません」
必死に上がってしまった吐息を落ち着けるとタマさまが立ち上がった。
「分かれば良いのじゃ。 さぁ王城へ行きますぞ」
気を取り直して勢いよく立ち上がり、まるで何事もなかったように、それが当たり前であるとでも言うように外へと続く扉へ歩き出したタマ様に俺は言いたい。
「なぜ当たり前のように姿揚げの盛り付けられた皿をもって店の外へとむかってるんですか? じゃなくて両手が塞がってたらどらちゃんに乗れませんよ?」
「……」
暫し温かな湯気が立ち上る姿揚げの皿と外へ続く扉を交互にみやり黙考した末に、皿を持ってカウンターへ戻ってきた。
コトリと皿を置くと左手の中指に嵌まった指輪を撫でたあと、徐に左手を上げてまるでそこに壁でもあるかのように垂直
に撫で下ろした。
すると撫で下ろした場所に先程までは確かになかった裂け目が発生した。
「タマ様! それなに!?」
「これかの? 凄いじゃろう。古代ダンジョンから発掘されたアーティファクトじゃ! 装着者の魔素を利用して魔素の所有量に比例して時空をねじ曲げ、あるはずがない空間を造り出す指輪じゃ! 中身は時間が停まるのでいつでも入れた時の状態のまま取り出せる! 凄いじゃろう」
自慢げに俺の前に見せびらかしてきたタマさまの白く美しい指に嵌まったあまりにも不釣り合いな六角形をした燻し銀の武骨な指輪……。
……ナット!?
さて俺は自分の持てる全てのスルースキルを振り絞り、サントスさんの絶品料理に全力で現実逃避中。
タマさまが迎えに来るって事はどらちゃんがこの平和な酒場にやって来るわけでして……。
「うわっ! どっ、どどどドラゴンだ!」
「なんで空の覇者がこんな街中に!?」
あーぁ、店の外から悲鳴と困惑が聞こえてくるけど気が付かなかったことにしよう。
「オキタさん、お迎えが来たようですよ?」
俺ひとりでエールを飲むのも寂しかったので、晩酌に付き合ってもらいすっかり意気投合したサントスさんが両開きの扉に視線を送る。
「うー、行きたくない。 サントスさん代わってくださいよ」
「代われるものなら代わりたいところですけどねぇ。 残念ながら俺はしがない酒場の店主なんでね。 頑張って下さい、丸く収まったら旨い飯でもご馳走しますから」
「はぁぁぁぁ、約束ですよ? 今度は俺も妻と娘を連れてきますから」
「はははっ! それは光栄ですね。 救世主様御一家に黒猫亭を利用していただけるならこれ以上光栄なことはないですね」
豪快に笑うサントスさんに、ジト眼を向けると同時に背後の扉が勢いよく開かれた。
「黒猫亭とはここか!? カズナリ殿!」
飛び込んできたのはメロンでも入っているのではなかろうかと言わんばかりの胸部を惜しげもなく七割晒しだす大胆なデザインのドレスを纏った三毛猫獣人のタマさまだった。
身体のラインにぴったりと沿うように作られたドレスは細く括れたウエストや女性らしいまろやかな線を描き出す臀部を蠱惑的に見せるのだが、急いできたためか顔は……自主規制。
幼女よどこいった。
「サントスさん、エールをおかわり」
「無視ですか!?」
騒がしいタマさまは放置してサントスさんにおかわりを要求すると後ろでキャンキャン騒いでいる。
猫なのに……。
「カズナリ殿! そんなことをしている余裕はありませんぞ! すぐに王城へ戻るのじゃ!」
「え~!」
「え~! じゃありませんぞ! 美枝子殿がどうなっても知りませんぞ!?」
ムムムッ、それは一大事。
「サントスさん! 御馳走様でした。 また後日改めてお邪魔します」
「あぁ、まえもって連絡をくれれば貸しきりにしておくよ」
貸し切りかぁ、それも悪くないけど……。
「わかりました。 予約なしで突然きますね」
どうせなら人では溢れかえる賑やかな黒猫亭で食事がしてみたい。
「ははははっ! それでこそオキタさん。 かわってらっしゃる。 パメラといつでもお待ちしております」
「それではまた。 ほら、摘まみ食いしてないで急ぐんだろう?」
ちゃっかり川魚の姿揚げのような料理を摘まんで食べようとしているタマさまの尻尾を掴んで引っ張って移動を促した。
「……はぁっ……!」
艶を含んだ嬌声にも聞こえかねない吐息を吐いて床に崩れ落ちた。
「あっ、やべ。 すっ、すすすすいません! 大丈夫ですか?」
右手の中でぴくんぴくんと震える三毛のすべらかな尻尾を放すとタマさまが涙目で見上げてきた。
床に手を突いて両胸を腕で挟み込むようにして横座りするタマさまの絶景。
うわぁ色っぽいなぁ……。
……ハッ! 俺は一体なにを!?
あまりの色気に意識を持っていかれかけた。
こっ、これはあくまでも浮気じゃないぞ! わざとじゃないんだ! 掴むゆとりのない服を掴むのはセクハラになりそうでつい目の前にあった尻尾を掴んでしまっただけなんだ。
「……はぁ、カズナリ殿……尻尾は辞めてくだされ、力が抜けるのでの」
「すっ、すいません」
必死に上がってしまった吐息を落ち着けるとタマさまが立ち上がった。
「分かれば良いのじゃ。 さぁ王城へ行きますぞ」
気を取り直して勢いよく立ち上がり、まるで何事もなかったように、それが当たり前であるとでも言うように外へと続く扉へ歩き出したタマ様に俺は言いたい。
「なぜ当たり前のように姿揚げの盛り付けられた皿をもって店の外へとむかってるんですか? じゃなくて両手が塞がってたらどらちゃんに乗れませんよ?」
「……」
暫し温かな湯気が立ち上る姿揚げの皿と外へ続く扉を交互にみやり黙考した末に、皿を持ってカウンターへ戻ってきた。
コトリと皿を置くと左手の中指に嵌まった指輪を撫でたあと、徐に左手を上げてまるでそこに壁でもあるかのように垂直
に撫で下ろした。
すると撫で下ろした場所に先程までは確かになかった裂け目が発生した。
「タマ様! それなに!?」
「これかの? 凄いじゃろう。古代ダンジョンから発掘されたアーティファクトじゃ! 装着者の魔素を利用して魔素の所有量に比例して時空をねじ曲げ、あるはずがない空間を造り出す指輪じゃ! 中身は時間が停まるのでいつでも入れた時の状態のまま取り出せる! 凄いじゃろう」
自慢げに俺の前に見せびらかしてきたタマさまの白く美しい指に嵌まったあまりにも不釣り合いな六角形をした燻し銀の武骨な指輪……。
……ナット!?
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