とりあえず30秒でサインを書いてくださいませ

ゆるぽ

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とりあえず30秒でサインを書いてくださいませ

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「サリュス・クイックリー公爵令嬢!今この瞬間貴様との婚約を破棄することを宣言する!」



この国の対一王子ぺリウスは自身の誕生パーティで婚約破棄を宣言した。

その傍らには最近王子と懇意にしていると評判の男爵令嬢の姿もある。

男爵令嬢は王子の婚約者を奪った優越感を隠そうともしない。

その姿は物語のテンプレそのままで、誕生日を祝うために訪れた貴族たちはみなあきれ返っている。



「婚約破棄いけたまりました。こちらの書類にとりあえずとりあえず30秒でサインを書いてくださいませ!」


「今更追いすがっても無駄だぞ!貴様の悪行は…ってなんだと?」


「だから、とりあえず30秒でサインを書いてくださいませ!婚約破棄をするための手続きは膨大なのですから急がないと!」



サリュスはそういうとどこからともなく表れた従者にいくつかの書類を持たせぺリウスに渡した。



「ちょっとまてサリュスよ。なんで婚約破棄するのにこんな量の書類にサインをしなければならんのだ!」



ひい、ふう、みい…ぺリウスは渡された書類を数えるが、15枚という数は明らかに多かった。

彼は公の場で婚約破棄をする愚か者ではあるのだが、基本的な知識も持っていないほどの馬鹿でもなかった。

通常貴族同士の婚約解消や破棄に必要な書類は多くても5枚のはず。15枚は明らかにおかしい枚数であった。




「確かに通常の婚約であれば多くて5枚ですが、私と殿下の婚約には隣国とのことも含めた色々な契約が絡んでおりますので、そのあたりに影響が出ないようにするためには色々と手続きが必要なんですの」

「…な、なるほど確かになんか色々していると父上が言っていたな。わかったサインしよう!」



中身を確かめるとさらさらとサインをしていったぺリウス。ちなみに30秒はとっくに過ぎている。

書いた書類を従者に手渡すとそのまま従者はサリュスに書類を渡した。



「ちなみにそちらは早急に手続しなけらばならない物のみですでの、サインや確認していただく書類は後100枚ほどございますわ」

「ひゃひゃくまい…!」



余りの数に驚き固まるぺリウス。今更ながら自分がしていた婚約の重要性を理解し始めていた。



「(100枚以上の契約…もしかして俺はまずいことをしたんじゃあ)」

「と、とりあえず確認のために退席させていただく!クイックリー公爵令嬢済まないが書類確認に同行してくれ!」

「はい、もちろんです」




今しがた婚約破棄をしたはずの二人がそろってパーティ会場を出ていく。

婚約破棄からの主役の退席という事態に場は混乱していたが、少しあとに入場してきた陛下と王妃によって場は収められた。

その後陛下と王妃はぺリウスとサリュスを追って会場を後にする。

通常のパーティに切り替えられた会場内では先ほどの騒動についてあれやこれやと話し合う貴族たちが残されていた。


そんななか、今回の騒動の発端になった王子の浮気相手アレーナ・バースレイ男爵令嬢は一人残されてしまっていたのだが誰も気には留めなかった。




















1か月後


「本当に申し訳なかった」



王城の1室にて土下座をする王子が一人。もちろんぺリウスだ。

されている相手ももちろんサリュスである。


この1か月間各方面に影響が出ないように婚約破棄の書類を確認してサインして、場合によっては新たな契約に変更してなどとにかく大変な日々だった。

最終的に取り扱った書類は数百枚にも及ぶほどの膨大な数であったという。


最初は愛しのアレーナと結ばれるためと軽い気持ちがあったのだが、作業を続けるうちに自身の立場を思い知ったぺリウスはすっかり心を入れ替えていた。

そもそもアレーナ・バースレイ男爵令嬢をいじめたとして断罪しようとしたのだが、それも免罪であったことがわかりそういったもろもろについての謝罪である。


また、彼の変化をみたサリュスはぺリウス有責の婚約破棄から円満な婚約解消に切り変えた。



「継承権がなくなったからと言って王子であることは変わりません。どうかそのように頭を下げることはおやめください」

「…その心遣い感謝する」



サリュスの言葉に礼を述べながら立ち上がるぺリウス。

彼は婚約破棄騒動の一件で王の器ではないと判断され継承権を剥奪されていた。

正確には今回の責任を取って放棄したという方が正しい。以前の彼なら絶対にしなかった行動である。

その後二人はテーブルをはさんで向かい合うように座り、自身の状況を報告しあった。



「私はその前から思いあっていた方と縁談が決まりまして、先日婚約いたしました。今思えば別の方に心を残し殿下を無意識にないがしろにしていた私にも責任があります」

「まずは婚約おめでとう。心に別の人がいるのは仕方ないことだ、それでも君は私と違って歩み寄ろうと努力していた。そんな君に責任は問えないよ」



お互いを思いあう心がそこにあった。

もっと早くこういう関係になれれば未来は違ったのかもしれない。



「ところでアレーナ・バースレイ男爵令嬢とのことがまだ大変だとお聞きしましたが…」

「実はそうなんだ。彼女に王妃という夢を見せてしまったのは私だからできるだけ彼女の責任を軽くしようと動いてはいたのだが…」



本来であれば王子をたぶらかしたアレーナ・バースレイ男爵令嬢には厳しい処罰が下されるはずであったが、ぺリウスは彼女が身分的に拒めなかったことと、王妃になれる可能性を見せてしまったのは自身の責任として彼女の処罰をなるべく軽くしようとしていた。

が、それに納得しなかったのがアレーナ本人であった。

すべての責任は自身にあるとして継承権の放棄をすることで今回の処罰は完了していたのだが、そのことでたとえぺリウスと結ばれても王妃になれないと知ったアレーナが嘘つきと騒ぎ始めたのだ。



「今回の一件本来なら継承権の破棄だけで済んだのは本当に幸運なことなのだが、彼女はそれを理解してくれなくてね」



本来なら今回の婚約破棄はかなり厳しい処罰を下されるはずの物であった。

だが天候的理由により運よく国内の貴族だけのパーティであったことと婚約破棄ではなく解消になったことなどが幸いしたおかげで継承権の破棄だけで済んでいたのだった。

アレーナはそのことを何度も説明しても理解せず、自身が時期王妃になるべきぺリウスがそういったと主張し続けていた。



「そもそも殿下はアレーナさんを時期王妃にすると本当におっしゃったのですか?」

「実はいった覚えが無くてね困ってるんだ。私に常に付き従っている護衛たちも言っているところを見たことが無いと。だが彼女は確かに言ったと聞かないんだ」

「それは困りましたわね…彼女のこと私に任せてもらえませんか?」



サリュスの提案にぺリウスはこれ以上君に迷惑をかけるわけにはと断っていたが、最終的に押し切られるように了承してしまう。



























バースレイ男爵家




アレーナ・バースレイ男爵令嬢とサリュス・クイックリー公爵令嬢は向かい合って座っていた。



「こちらとこちらとこちらの資料がぺリウスの発言をまとめたものなりますわ」

「それが何だって言うのよ」



口をとがらせて言うアレーナの態度にふぅとため息をついてからサリュスは続ける。



「そのいずれの資料にもあなたを王妃にするという発言はございませんでした。つまりあなたは虚偽を主張しているということになります」

「その資料のほうが間違ってるのよ!私は確かに王妃になるってペリーが…」

「本当に言っていたのは殿下でしたか?こちらの資料を見てくださる?」



そういってサリュスは新しい資料をテーブルに置いた。

それはアレーナの取り巻きたちの発言をまとめたものだった。



「あなたに王妃になるかもと言っていたのはあなたの取り巻きたちですわ」

「え?うそ!本当だ!でもでもこっちの資料だって間違ってるかもしれないじゃない!」



なおも間違いを認めないアレーナ。



「残念ですねアレーナさん。この段階で間違いを認めてくだされば殿下の提案ものまま進めましたものを」



ふぅっとため息をつくサリュス。

ぺリウスは恋した人のためにほぼ処罰が無いような状態にまでしてくれていたというのに。

さすがにこれ以上ごねるようなものを許しておくわけにはいかない。



「本来あなたはかなり厳しい処分が下るはずのところをいくつか幸運と改心した殿下の慈悲によって処罰がほぼない状態でしたのよ?」

「愛する人のために頑張るのは当然じゃない?そもそも私に罪なんてないわよ?」



きょとんとして答えるアレーナにサリュスはめまいがした。

まさかここまでの人間がいるとは!

ぺリウスはすべて自身のせいだとしていたけれど、報告によるとアレーナがかなり煽っていたところもあるので正直責任としては半々といったところだった。



「(惚れた弱みというやつかしら?もっとまともな人に惚れていれば…いいえ過ぎたことね)」



改心後のぺリウスに対してかなり好意的な印象を持っていたサリュスはアレーナと彼が出会ってしまった悲劇に嘆いた。



「とりあえず30秒でサインを書いてくださいませ」



さらに一枚の書類をテーブルに置くサリュス。



「なぁあにこれ?」

「すべての人が幸せになるための書類よ。あなたのお父様はすでにサイン済みです」

「ほんと!じゃあサインするわ!」



なにも読まずにサインをするアレーナ。



「確かに。では彼女を連れて行って!」



サリュスが指をぱちんと鳴らすと数名の女性騎士が入ってきた。

彼女たちはアレーナを両脇から持ち上げて連れて行く。



「ちょっと!何なのよこいつら!私は男爵令嬢よ!無礼者!」

「彼女たちはあなたの監視よ。あなたが修道院につくまで同行するわ」

「修道院!?なんで私がそんな所に行かなきゃいけないのよ!」

「あら?さっき自分で修道院に入るための誓約書にサインしたじゃない」



アレーナのサインの入った書類をぺらっとふるサリュス。

その様子にわめきながらアレーナは連れていかれた。




「あんなにはっきりと修道院の名前が書いてあるのにろくに確認せずにサインするなんて…」























数日後



アレーナの修道院行についてぺリウスに説明するサリュス。

あれだけアレーナの罪を軽くしようと動いていたのだから、勝手に修道院行にしたことはさすがに怒るのではないかと思っていたが、彼から出た言葉は意外な物だった。



「結局君に任せてしまった。済まない」



実を言うとすでにぺリウスはアレーナに対してのだという。

本人曰く恋に恋していたのかもしれない、と。

それでも1度は恋した人であるし、王族の義務として責任を取るべきという気持ちから彼女をかばっていたのだ。




さらにその後修道院に入れられたアレーナが脱走を企てたりなどの事件があったが特に問題にはならなかった。

ぺリウスは王太子となった弟を献身的に支えているというが、あの数百枚の書類を扱って以降書類仕事になぜかはまってしまい毎日楽しそうに書類と格闘しているという。



「ごきげんよう殿下とりあえず30秒でサインを書いてくださいませ」

「任せてくれサリュス嬢!」
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