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日焼け止めのおまじない

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リーベがシンシアの依頼を受けているころ、シンシアもまた別の依頼を受けていた。


フィリアとリーベが暮らしている国は多民族・多種族が集まった国である。


そのためフィリアとリーベも多種族の血を受け継いでいるわけだが、種族や民族の特性が悪く働くこともある。





「このままじゃ海に行けないんです~!」




フィリアの前で涙を浮かべる女性は今回の依頼者で名前はララという。


彼女は極寒地に住むスノーリア人の血を引く女性だ。


スノーリア人の住んでいる極寒地は1年のほとんどが雪と雲に覆われている。


そのためスノーリア人は太陽の光に浴びる機会が少なく、結果として太陽光にとても弱いという特徴を持っているのだ。


実はフィリアもスノーリアの特徴を受け継いでいるので太陽光に弱く、別の種族の影響が強く出ているリーベは太陽光に強かったりする。




話を戻すとスノーリア人の血を引くララも太陽光に弱く、常に日焼け止めのおまじないをしていたのだが、ここ数日なぜかおまじないがうまくできなくなってしまっているのだという。





「見てくださいよ!この腕!ちゃんとおまじないしたはずなのにちょっと赤くなってる!」


びええと泣き出しそうな顔のララ。

本来雪のように白いはずの肌が痛々しく赤くなっている。





「とりあえずここでおまじないをもう一度かけてみてくれますか?」



この手の依頼で最も多いのがまじないの仕方を間違えているケースだ。


慣れているおまじないであるほど、思い込みによるミスは起こりやすい。


だがララが使ったおまじないは何一つ間違えていなかった。




「見た感じ手順にまじないはありません…とすると別のまじないで相殺されてるか…誰かに妨害されているかになりますね」


「妨害…ですか!?何それ怖い!」


なんだか一々反応が大げさだなぁ…という気持ちは心にしまって、フィリアは続ける。


「あくまで可能性の一つですから!とりあえずほかのおまじないがかかっていないか調べてみますね!」


そういって調べてみたもののララには日焼け止めのおまじない以外の痕跡は見つけられなかった。


彼女は誰かに妨害されている。








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おまじないを含む魔術の妨害の方法は複数ある。

簡単なものであれば、対象者に直接魔法などが使えないようにする妨害用の魔法などをかけることで妨害を行う。

遠隔での妨害は難易度が高く、かなりの使い手でなければ使用できない。



ララの場合は明らかに遠隔型の妨害だ。


相手はかなりの使い手であり、慎重に対処しなければならない。



そのためまずはララが狙われた理由を調べることにしたが、ララの調査については驚くほど簡単だった。





小さな商会の娘で明るい独特な性格から友達の多い人気者。

家族の仲もよく、特に父親からは若干溺愛されているとのことだ。


「特にトラブルもない所からおそらく一方的な妬み?でも決め付けは良くない、術師をみつけないと…」




だが、ララに術をかけた魔導士もあっさり見つかった。



国公認の魔術屋…その名の通り魔術をかけたり、魔術関連の問題を解決したりとおまじない専門のフィリアたちよりも幅が広い店だ。



【おまじない相談所】もそうだが、魔術にかかわる商売をしているところには不正魔術行使禁止法という特別な法律が存在する。

その中で不正魔術が行使された可能性がある場合に、依頼内容の詳細を他者に開示することが出来るというものがある。


今回フィリアは魔術屋が関わっているとわかった時点で、不正魔術行使禁止法の確認手続きを行った。





「はぁ~~~~~~~~~つまり娘が心配だから守護のまじないを施してもらったら、害のないおまじないまで弾くようになっちゃったってことなのね?」

「そうなりますね。依頼者様からは指定が無かったので弾く対象がすべてになっていたようです。」




「守護」それはおまじないや魔術の基本。

一説によれば戦いに出る夫の無事を祈り願掛けをしたのが、おまじないの起こりであり魔術の源流とさえ言われている。



また「守護」にも種類があり物理的な脅威から守るものもあれば、目に見えない災いから守るものもある。



今回ララに施されていたものは後者であった。


本来なら細かく対象指定をするものなのだが、依頼者であるララの父親は魔術に関して詳しくないため自身で施すおまじないでさえ弾くようになってしまったというのが今回の顛末である。














「とりあえずそちらと合わせてララさんとララさんのお父さんに対しての報告書を作成しないといけませんね」











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「お父さんがごめんなさい!!」


頭を抱えて謝るララ。


「本当に申し訳ない!!」


と深く頭を下げるララの父親ロロ。




あれから合同で報告書を作りララとロロに送付した。


良かれと思ってしたことが逆に娘を困らせていたことを知ったロロは魔術屋に再度赴いて、無害なおまじないは弾かないようにした新しい守護の魔法をかけてもらったという。





「まさかこんなことになるとは知らず…守護の魔法さえかければ安心だろうと…」

「せめて一言言ってくれてたら良かったんですけど、パパったら私に何も言わずに魔法をかけてもらってたんですよ!」



頬をぷっくり膨らませて怒るララだが、特に怖さなどは無くむしろかわいらしく見えた。




「親子だったからよかったものの、基本的に他者へのおまじないなどの魔術の行使は同意がないとダメなんですよ?」


「そうだったんですか?いやー無知で面目ない」




ロロのようなタイプは意外と多い。

今回は親子であったため本人の同意なしでも行えたケースではあるが、基本的には家族であっても事前に許可や説明はしておかなければいけない。


【おまじない相談所】にくる依頼にはこういった無知によるうっかりが原因の物も少なくはないのだ。





「もしおまじないについて解らないことがあれば私たちや魔術屋さんにご相談してくださいね?基本的なことであれば大体は無料で説明してもらえるはずですよ」


「ええ、そうしもらいます」




そういって笑うロロはララとよく似ていた。

今回は父の愛情がから回ってしまっただけの微笑ましいケースだが、世の中には子を子と思わぬ、親を親と思わぬようなケースも存在する。



いつもこんなうっかりであればいいのに、そう思うフィリアだった。
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