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人を傷つけるおまじない

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この世界において【おまじない】という呼称はあくまで通称にすぎない。



正式名称は【原初魔術(魔法)】であり、【簡易魔術(魔法)】の一つに分類されている。


おまじないと言えど、魔術(魔法)の一種である以上その種類は千差万別。


人を助けるものがあれば人に害を与えるものもあるのだ。






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「おのろいの出どころの調査と削除を依頼したい」


今回の依頼者は魔法局の局員だ。

幸せになるおまじないの一件で来た局員よりも立場が上の者であることが、腕の腕章からわかる。



「お呪い…ねぇ…」



厄介な案件が来た。

リーベは内心やりたくないなとつぶやいたものの、お呪いがらみを放っておくわけにもいかない。



【おのろい】


これはおまじないと同じく通称である。

他者を傷つけるおまじないに対していつの間にか使われるようになった言葉であり、出どころは不明であった。


とはいっても結局はおまじない程度の簡易魔術であるため、基本的には脅威度は低い。


だが今回は魔法の専門家である魔法局が動いている案件だ。


可愛いイタズラ程度では済まない代物なのだろう。




「内容としては他者を風邪に似た状態にさせるものだが…術式に対して効力が



このお呪いにかかったものはインフルエンザ並みの状態になるのだが、本来おまじないで出来るのは精々微熱や多少の咳やくしゃみを起こる程度しかできない。


「増幅するための遠隔魔法がダンジョンにあることは分かったのだが、我々の調査ではなぜか見つけることが出来なかった。おそらく何かしらの妨害工作をしていると思われる」


「それで俺に依頼したいってわけか」


「ああそうだ。我々の探知をかいくぐるようなものでもわかるだろう、なあ親友?」


「ハッ!悪友の間違いだろ。わかった、わかった引き受けるよ」


不機嫌を隠さずに引き受けたリーベに魔法局の男ーージェイド・ジャスティはにやりと笑った。








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「二日連続ダンジョンはマジテンション下がる」


指定された場所で無事術式を破壊したリーベ。


お呪いの増幅魔法はとても巧妙で、小さな何でもないおまじないを組み合わせることで初めて形になるようになっていた。


「(偽装のために関係ないおまじないも書いてある…これはよほどの知識があるやつか高位の解析魔法を習得してないと見破るのは難しいだろう)」


「逆に言えばこいつを仕掛けたやつは相当な魔術師ってことか…やりあいたくないね」


「こっちは殺りあいたいが?」

「!?」



リーベの背後に黒いフードをかぶった男が現れた。

瞬間赤い閃光が目に映る。


炎系の攻撃魔法だ。


紙一重でよけたリーベは素早く氷の刃を召喚しカウンターを仕掛ける。


だが、白銀の刃は黒フードの端さえもとらえることが出来なかった。



「ふむ、あれを避けるだけじゃなくて反撃もしてくるか。なかなかいいね。才能のあるやつは好きさ、今回は引いてあげよう」


反撃され殺気を向けられた状態だというのに、黒フードの男は日常会話のような軽さでいった。


「……(とんだ業務外だ。さっさと帰れ)」


対してリーベに余裕は一切なかった。

ただでさえ今回は解析重視で戦闘装備は必要最低限しか持っていない。


「じゃあ、またね」



現れたときと同じく一瞬で姿を消す黒フードの男。


一瞬の攻防だけでわかるその強さ。



「これは想像以上に面倒なもんになりそうだ」



ジェイドに報告すべくリーベは急いでダンジョンから脱出した。





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「とりあえず依頼そのものは達成だ。感謝する」


リーベから報告を受けたジェイドだが、その顔は険しい。

どちらかというと普段は余裕があり飄々とした雰囲気を持つ彼がこのような表情をしているのは珍しい。

彼を知る人が見れば、それだけ黒フードが警戒すべき相手であるということだということがわかるだろう。



「お呪いの効力も下がってるだろうからそのうち落ち着くだろ。ただ、奴に目をつけられたっぽいからいざというときは市民の俺を守れ」

「それだけ君が優れているって事さ。…それはそれとして局員としての義務は果たすよ。何かあったらすぐに言ってくれ。プライベート回線で構わない」



リーベの報告をもとにジェイドは上位解析班をつくり調査したものの、お呪いの首謀者や黒フードについては一切わからなかった。


この事件が【夜の呪術師事件】の記録上となることをまだリーベ達は知らない。


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