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2章:上限突破
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今日の仕事はまず、幻力を貯めることだ。
それから召喚できるならやって、人を増やす。食事と睡眠は大事だから、食料と家具あたりの召喚もやっておきたい。ついでに私の服が欲しい。
拠点を安全そうな場所まで動かしたいし、ミッションやクエストも受けないといけないし、召喚ペナルティもあったっけ…。
やることが多すぎる。
私は夜型だから、お昼になるまでに寝たいところだけど…。
「シロ。幻力って、術力と同じだっけ?術力は100万超えてた気がするけど」
「『術力』は『術』を使うための能力だよ。『術力』が高いと、難しい術を使えたり術の効果が高くなったりするよ。『術』を使う時には『幻力』が必要なんだ。『術』を使う時に『貯蔵幻力』から引き出す事も出来るけど、ボクから離れてると引き出せないから注意してね。『幻力』が足りない時は、『術力』を一時的に消費して術を使うことも出来るよ。減った『術力』はしばらく元に戻らないから、これも注意してね」
「…術力が威力で…幻力が費用…かな。でも…『術力』を消費する何かの説明を聞いた気がするけど…」
用語と使い方の説明が多すぎて、やっぱり覚えられない。
「『限定召喚』だね。『術力』を消費して『召喚箱』に入っていないカードを『実体化』できるよ。でも長くは維持できないんだ。10分で『実体化』が解除されて『待機箱』に戻るけど、よりたくさんの『術力』を消費すれば維持時間を長くできるよ。『術力』が低くなっている間は、術の効果が低くなったり難しい術を使えなくなったりするから、『限定召喚』しすぎると術が使えなくなることもあるんだ」
「限定召喚で実体化できるカードって制限ある?例えば、【きな】みたいにレベルが足りなくて実体化できないカードとか」
「『召喚箱』に入れても『実体化』出来ないカードは『限定召喚』出来ないよ」
「他の召喚術師が実体化してるカードも?」
「他の召喚術師が『実体化』してるからヴィータが『実体化』出来ないカードは、『限定召喚』出来るよ。ヴィータのレベルが足りなくて召喚出来ないカードは、『限定召喚』出来ないよ」
じゃあ、今のところ術力について考える必要はないかな。
【きな】を呼ぶこともできないし、ラーデルに修理してもらうものもないし。
「幻力を貯めようと思うんだけど、私の今の幻力ってどれくらいかわかる?」
「…手を乗せてね」
言われて銀色の球に両手を当てた。
蝋燭の火に暗く照らされた表面には、渦のような薄い模様が出来ている。
「…ん?まだ?」
しばらく待っても案内人が何も言わないので、側面から銀の球を覗き込んでみた。うねる波に出来るぐるぐるとした渦のような模様だけが、ゆっくりと動き続けている。色んな色をぶち込んでかき混ぜたような、混沌とした色合いの渦なので、じっと見ていると酔う人もいそうだ。
「…ヴィータの『幻力』は測定不能だよ。『幻力貯蔵量』は100万が最大だから、無理に詰め込もうとしないでね」
「攻撃力と一緒の扱い?たくさんあると思って実は100万と1しか無いとか、ありそう」
この星の術はまだ使えない。私が元々持っている魔力と、この星の幻力が同じ力なら、消費してもそのうち回復するだろう。
だったら私が持ってる幻力のほとんどを費やしても問題なさそうだ。
「とりあえずテキトーに充填するから、危なそうなら途中で受け入れを止めてよ」
「…」
案内人は無言だった。
無言で、机の上から銀の球が消える。
「…シロ。充填用の球が消えたんだけど」
「…」
「何?その辺の壁にでも放出すればいい?」
そう尋ねた一瞬の後に、視界の景色が変化した。私の体は放り出されて少し落下し、地面の上に降り立つ。。
放り出されたのは私だけではない。少し離れたところで鍋を持ったドーマンと、木の器を両手で抱えたティセルも立っていた。
「あ…?ここは…外か」
「一体…。ヴィータ様。拠点が消えたようですが…」
「…そうだね」
私たちは、岩がごろごろしている大地の上にいる。2階建ての小屋の姿はどこにもなかったし、とても遠いところに薄っすらと白い影が見えた。
「ねぇ、あれ…シロかな?」
「そうですね…。全身白く尻尾も大きいようですから…昨日見せていただいた、幻獣の姿かと…」
「何があった?」
近付いて来た2人と一緒に、遠方の白い獣を見つめる。
あの案内人は元が銀の球だから匂いがない。だから目の悪い私には今一つ判別がつかないんだけど、多分本人なんだろう。
「シ~ロ~!早く戻って来ないと危ないよ~!」
「何があったんだ?」
「ん~…何だろう」
「喧嘩か?」
「幻獣を怒らせたのですか…?」
「怒ってるのかな?」
怒ってるなら至近距離で殴って来そうだ。遠距離攻撃が得意にしても様子を窺い過ぎだと思う。
「シロ~!もしかして~!壁に放出するって言ったから~!怒った~!?」
「…何を投げたのですか?」
「何やってたんだ?」
「あのさ~!追尾って知ってる~!?どこまでも的を追うヤツだけどぉ~~!」
「…何の話でしょうか」
「俺らが入れる話じゃねぇんだろ」
2人は私から少し離れ、傍観し始めた。
「どれくらい追っかけるかぁ~!試してみるぅ~!?」
大声で脅してみたけど、白っぽい塊は、動かない。
魔力はキャパオーバーしたら入れ物は爆発するけど、幻力もそういう扱いなのかな?
案内人は100万しか貯蔵できないと言ったけど、貯蔵できないだけだと思う。
神である龍神アケイドトルアが用意した案内人が、貯蔵量超えたくらいで爆発するほど柔らかいわけがない。
「…眠いんだよな…手間かけさせるなよ」
私の小さな呟きは風に乗ったのだろう。白い影は私の目では見えないくらい小さくなった。
「…幻獣、どこか行った?」
「一応、岩陰に見えるな。少し離れたか…」
多分、ティセルよりドーマンのほうが目がいいんだろう。ドーマンが目を凝らして確認してくれた方を見たけど、やっぱり姿を確認できない。
別に、眠いからってイライラしないけど、色々やることあるし、朝ごはんも食べたいし、その後すやすや寝たい。
「幻獣に逃げられちゃった召喚術師って、どうなるんだろ」
「幻獣を連れ歩いている召喚術師の話を聞いたことがありませんので…。ですが拠点も無くなるという事になるかと」
「それは困るね」
「何で幻獣は逃げたんだ?」
「ん~…」
幻力の充填が怖くて逃げたという感じだけど、昨日は何ともなかったのに、何を心配したんだろう。
「よくわからないんだよね。私の言い方が悪かったのかな」
「幻獣は人間よりも高位の生き物だと聞きます。私達だけでは幻獣が牙を剥いた時に対応できませんし、脅迫するより謝罪されたほうが良いかもしれません」
「シロ~!ちゃんと気を付けるから~!戻っておいでよ~!」
叫ばなくても聞こえているようだけど、豆粒より小さくて私には見えないから、居ると思う方向にむかって呼んでみる。
「雨が降りそうですね…」
朝の澄んだ青空の中に、暗色の雲が立ち始めた。上空の風が強すぎるのか、かなり速い速度で空を覆い始める。
「山の天気は変わりやすいと言いますが…これは…」
「何か棲んでるのか…?術にしちゃあまりに大規模すぎるだろ」
2人が不安そうに空を見上げているので、私も見てみた。
既に空は濃い灰色に覆われているが、空の高さに対してかなり低い位置にあるように感じる。この山の標高が高いからかな?
「嵐になりそうだ。拠点に入りたいなぁ」
「雨風をしのげる場所を探します」
「こんな所にあるわけねぇだろ。召喚術師殿。下りるぞ」
2人が私から離れていくのを聞きながら、私は白い獣が居るであろう方角を見据える。
「ヴィータ様。急ぎましょう」
「2人共。私から離れないでくれる?」
ティセルも私を促したのは、幻獣が思い通りになると思ってないからだろう。すぐに切り替えて自分たちで何とかしようとする潔さは良いと思う。
けれど、別行動は危険だ。ここには、風龍以外に危険なものがいる。
「シロ。戻って来なよ。召喚術師をサポートするのは、お前の役目だろ。これ以上手間をかけさせるのは契約不履行じゃないかな。契約反故は約定違反だ。わかってるよな?」
ぽつりと降って来た滴は、突然大粒の雨になった。轟音と共にすべてを叩きつける雨がこの場に降り注ぐ。
だが、同時に白い風が滑り込んできた。すぐに白い獣に変じた案内人は、私を一瞬見上げた後に少し離れ、2階建ての小屋へと変わる。
「早くしろ!」
すぐに走って来たドーマンが小屋の扉を開け、ティセルを中に入れた後、私を見た。
頷いて室内に入ると扉が勝手に閉まる。
「本当に…すごい嵐ですね…。私達は濡れなかったようですが…」
「直撃してたらケガしてたかもしれねぇな。山で遭遇する嵐はバケモンか」
窓も閉まっていて外は見えないが、音だけが建物に当たって響き渡っている。
2人は鍋と食器を持ったまま、厨房に行かず机の近くに集まっていた。動かず様子を見ているのは、何かが起こる予感を感じているのだろうか。
「シロ。動ける?」
「『無効化装備』で雨撃のダメージを無効化しているけど、あと2分で無効分を超えるよ」
「わかった。全力で逃げよう」
銀の球に触れて2階に上がる。
そのままその場で左手の指先を銀の球に置き、先端に魔力を籠めた。
測れるだろうか。短時間での出力調整は得意じゃないけど。
「ヴィータ!早いよ!」
すぐに、銀の球から悲鳴が上がる。
「いま何割?」
「幻力貯蔵量は9割。正確には88.85%。迎撃装備を発動する?」
「無効化を上げれるところまで上げて、一気に山を下りよう。速度を上げる装備は任せる」
「今の拠点強度だと高速に耐えられないよ。強度も上げるね」
「任せる」
時間がないから、会話は必要最低限だ。
互いの声が聞こえないほどの轟音の中、案内人の声は常に耳元に届く。
私が任せると言った次の瞬間、周囲の壁に金属が貼られ始めた。丸太の壁の上から鉄板のようなものが次々と貼られ、天井の内側も覆われていく。
すごく物理的な強化の仕方だなぁと思っていたら、下のほうからガガガガと地面を削るような音が聞こえ始めた。実際に削っているんだろう。振動で小屋が軽く揺れる。
だが、暢気に揺れていられたのは、そこまでだった。
不意に、小屋が加速する。
助走も無しで初動から一気に加速し、大地との摩擦音を立てながら爆速で動き出した。
加速すれば、当然その中にいるものは慣性で逆方向に動く。爆速で動き出せばどうなるかと言うと。
「…うわ」
鉄板が貼られた壁に激突することになる。
室内の机や椅子や寝台が動かないのは、床に固定されてるからかな。
壁にぴったり体を押さえつけられたまま、小屋は大地の上をガラガラ音を立てて進んだ。
時折段差があるのか床も跳ねるが、その度に私の体も跳ねることになる。
「固定具…用意できなかったのかな」
跳ねまくった末に、突然空中で体がふわりと浮かび上がった。
きっと、跳んだのだろう。
小屋が。
傍から見たらなかなか面白い光景なんだろうなぁと思いながら空中を泳ぐのも束の間、加重で体が床に叩きつけられた。
そのままゴロゴロと転がって壁で止まるが、小屋はまだ走り続けている。
床はとても斜めになっているから、多分結構な坂道だ。
「…う~ん…」
壁に背中の上半分を当てた状態で私の体は転がっている。つま先が頭の上の床まで届いているのに気付いて態勢を直し、お尻から脚全体を鉄板壁に当てた。壁に重心を支えてもらうので楽だ。
相変わらず床も壁も天井も揺れてるけど、落ち着く態勢になれたので、少し考えてみる。
これ。
1階も同じ状況なのかな?
がたがた揺られることさらに数分。
いつの間にか激しい雨音は聞こえなくなり、徐々に床の振動も落ち着いて来た。
やがて、ゆっくりと小屋は速度を落とし、そこから更に充分な距離を走ったところで、静かに止まる。
「シロ。問題ない?」
起き上がって声をかけると、少し待ってから声が聞こえた。
「山も下りたし雨から逃げきったよ」
「じゃあ、朝ごはんにしようかな」
そのまま移動して、ある程度予想していた1階の現状を見てみる。
2階と同じように、机や椅子は部屋の中心部から動いていない。
玄関側の扉付近には、鍋と木の食器転がっていた。その周囲の床や壁には液体が飛び散った跡があり、食材の塊や切れ端が散乱している。もはや原型もわからないくらい潰れてしまっているものもあったけど、多分鍋の中に入っていた今日の朝ごはんだろう。
「何とかして食べられないかなぁ…」
落ちてる肉の欠片っぽいものを摘んでみたけど、半壊していてぼたぼたと崩れていく。
「…それで、2人は?」
「衝撃に耐えられなかったみたいだね。生命力が0になったからカードに戻ったよ」
「それって死んだってことかな?死んでもカードに戻れるんだ」
「生命力が0になっても何度か呼び戻せるけど、カードの耐久度が無くなって破れてしまったら、使えなくなるね。まだ耐久度はあるし、再度実体化すればいいよ」
「簡単だね」
英雄と呼ばれ、召喚術師を支えたり手駒になったりする存在だけど、あまりに軽い命だ。
案内人は彼らを『物』として扱っているし、代替はいくらでもいる。
彼らは彼らなりの人生を歩んでいるはずだけど、この星での召喚術師システムは召喚術師を支援するためだけのもので、呼ばれる側のことなんてひとつも配慮していない。
そんな感じがした。
だから、ルーリアもゲームだと思ったんだろう。
自分が呼び出した仲間たちも、ただのゲームの駒にすぎないと、思ったんだろう。
ゲームに本気を出すのがバカらしくなったんだろう。
そんな生活の仕方だったなぁと思う。
「とりあえず…召喚とかして拠点を最低限整えたりして…それから寝るよ。昼には終わるといいけど」
雨が止んだので窓を開けてみる。
若葉の黄緑が柔らかく滴を落とす木々の隙間から、眩しい光が注ぎ込む。
そんな森の中に小屋は佇んでいるようだった。
一般的な森の中なら、食料も調達できるだろう。
私は窓を閉め、召喚をすることにした。
それから召喚できるならやって、人を増やす。食事と睡眠は大事だから、食料と家具あたりの召喚もやっておきたい。ついでに私の服が欲しい。
拠点を安全そうな場所まで動かしたいし、ミッションやクエストも受けないといけないし、召喚ペナルティもあったっけ…。
やることが多すぎる。
私は夜型だから、お昼になるまでに寝たいところだけど…。
「シロ。幻力って、術力と同じだっけ?術力は100万超えてた気がするけど」
「『術力』は『術』を使うための能力だよ。『術力』が高いと、難しい術を使えたり術の効果が高くなったりするよ。『術』を使う時には『幻力』が必要なんだ。『術』を使う時に『貯蔵幻力』から引き出す事も出来るけど、ボクから離れてると引き出せないから注意してね。『幻力』が足りない時は、『術力』を一時的に消費して術を使うことも出来るよ。減った『術力』はしばらく元に戻らないから、これも注意してね」
「…術力が威力で…幻力が費用…かな。でも…『術力』を消費する何かの説明を聞いた気がするけど…」
用語と使い方の説明が多すぎて、やっぱり覚えられない。
「『限定召喚』だね。『術力』を消費して『召喚箱』に入っていないカードを『実体化』できるよ。でも長くは維持できないんだ。10分で『実体化』が解除されて『待機箱』に戻るけど、よりたくさんの『術力』を消費すれば維持時間を長くできるよ。『術力』が低くなっている間は、術の効果が低くなったり難しい術を使えなくなったりするから、『限定召喚』しすぎると術が使えなくなることもあるんだ」
「限定召喚で実体化できるカードって制限ある?例えば、【きな】みたいにレベルが足りなくて実体化できないカードとか」
「『召喚箱』に入れても『実体化』出来ないカードは『限定召喚』出来ないよ」
「他の召喚術師が実体化してるカードも?」
「他の召喚術師が『実体化』してるからヴィータが『実体化』出来ないカードは、『限定召喚』出来るよ。ヴィータのレベルが足りなくて召喚出来ないカードは、『限定召喚』出来ないよ」
じゃあ、今のところ術力について考える必要はないかな。
【きな】を呼ぶこともできないし、ラーデルに修理してもらうものもないし。
「幻力を貯めようと思うんだけど、私の今の幻力ってどれくらいかわかる?」
「…手を乗せてね」
言われて銀色の球に両手を当てた。
蝋燭の火に暗く照らされた表面には、渦のような薄い模様が出来ている。
「…ん?まだ?」
しばらく待っても案内人が何も言わないので、側面から銀の球を覗き込んでみた。うねる波に出来るぐるぐるとした渦のような模様だけが、ゆっくりと動き続けている。色んな色をぶち込んでかき混ぜたような、混沌とした色合いの渦なので、じっと見ていると酔う人もいそうだ。
「…ヴィータの『幻力』は測定不能だよ。『幻力貯蔵量』は100万が最大だから、無理に詰め込もうとしないでね」
「攻撃力と一緒の扱い?たくさんあると思って実は100万と1しか無いとか、ありそう」
この星の術はまだ使えない。私が元々持っている魔力と、この星の幻力が同じ力なら、消費してもそのうち回復するだろう。
だったら私が持ってる幻力のほとんどを費やしても問題なさそうだ。
「とりあえずテキトーに充填するから、危なそうなら途中で受け入れを止めてよ」
「…」
案内人は無言だった。
無言で、机の上から銀の球が消える。
「…シロ。充填用の球が消えたんだけど」
「…」
「何?その辺の壁にでも放出すればいい?」
そう尋ねた一瞬の後に、視界の景色が変化した。私の体は放り出されて少し落下し、地面の上に降り立つ。。
放り出されたのは私だけではない。少し離れたところで鍋を持ったドーマンと、木の器を両手で抱えたティセルも立っていた。
「あ…?ここは…外か」
「一体…。ヴィータ様。拠点が消えたようですが…」
「…そうだね」
私たちは、岩がごろごろしている大地の上にいる。2階建ての小屋の姿はどこにもなかったし、とても遠いところに薄っすらと白い影が見えた。
「ねぇ、あれ…シロかな?」
「そうですね…。全身白く尻尾も大きいようですから…昨日見せていただいた、幻獣の姿かと…」
「何があった?」
近付いて来た2人と一緒に、遠方の白い獣を見つめる。
あの案内人は元が銀の球だから匂いがない。だから目の悪い私には今一つ判別がつかないんだけど、多分本人なんだろう。
「シ~ロ~!早く戻って来ないと危ないよ~!」
「何があったんだ?」
「ん~…何だろう」
「喧嘩か?」
「幻獣を怒らせたのですか…?」
「怒ってるのかな?」
怒ってるなら至近距離で殴って来そうだ。遠距離攻撃が得意にしても様子を窺い過ぎだと思う。
「シロ~!もしかして~!壁に放出するって言ったから~!怒った~!?」
「…何を投げたのですか?」
「何やってたんだ?」
「あのさ~!追尾って知ってる~!?どこまでも的を追うヤツだけどぉ~~!」
「…何の話でしょうか」
「俺らが入れる話じゃねぇんだろ」
2人は私から少し離れ、傍観し始めた。
「どれくらい追っかけるかぁ~!試してみるぅ~!?」
大声で脅してみたけど、白っぽい塊は、動かない。
魔力はキャパオーバーしたら入れ物は爆発するけど、幻力もそういう扱いなのかな?
案内人は100万しか貯蔵できないと言ったけど、貯蔵できないだけだと思う。
神である龍神アケイドトルアが用意した案内人が、貯蔵量超えたくらいで爆発するほど柔らかいわけがない。
「…眠いんだよな…手間かけさせるなよ」
私の小さな呟きは風に乗ったのだろう。白い影は私の目では見えないくらい小さくなった。
「…幻獣、どこか行った?」
「一応、岩陰に見えるな。少し離れたか…」
多分、ティセルよりドーマンのほうが目がいいんだろう。ドーマンが目を凝らして確認してくれた方を見たけど、やっぱり姿を確認できない。
別に、眠いからってイライラしないけど、色々やることあるし、朝ごはんも食べたいし、その後すやすや寝たい。
「幻獣に逃げられちゃった召喚術師って、どうなるんだろ」
「幻獣を連れ歩いている召喚術師の話を聞いたことがありませんので…。ですが拠点も無くなるという事になるかと」
「それは困るね」
「何で幻獣は逃げたんだ?」
「ん~…」
幻力の充填が怖くて逃げたという感じだけど、昨日は何ともなかったのに、何を心配したんだろう。
「よくわからないんだよね。私の言い方が悪かったのかな」
「幻獣は人間よりも高位の生き物だと聞きます。私達だけでは幻獣が牙を剥いた時に対応できませんし、脅迫するより謝罪されたほうが良いかもしれません」
「シロ~!ちゃんと気を付けるから~!戻っておいでよ~!」
叫ばなくても聞こえているようだけど、豆粒より小さくて私には見えないから、居ると思う方向にむかって呼んでみる。
「雨が降りそうですね…」
朝の澄んだ青空の中に、暗色の雲が立ち始めた。上空の風が強すぎるのか、かなり速い速度で空を覆い始める。
「山の天気は変わりやすいと言いますが…これは…」
「何か棲んでるのか…?術にしちゃあまりに大規模すぎるだろ」
2人が不安そうに空を見上げているので、私も見てみた。
既に空は濃い灰色に覆われているが、空の高さに対してかなり低い位置にあるように感じる。この山の標高が高いからかな?
「嵐になりそうだ。拠点に入りたいなぁ」
「雨風をしのげる場所を探します」
「こんな所にあるわけねぇだろ。召喚術師殿。下りるぞ」
2人が私から離れていくのを聞きながら、私は白い獣が居るであろう方角を見据える。
「ヴィータ様。急ぎましょう」
「2人共。私から離れないでくれる?」
ティセルも私を促したのは、幻獣が思い通りになると思ってないからだろう。すぐに切り替えて自分たちで何とかしようとする潔さは良いと思う。
けれど、別行動は危険だ。ここには、風龍以外に危険なものがいる。
「シロ。戻って来なよ。召喚術師をサポートするのは、お前の役目だろ。これ以上手間をかけさせるのは契約不履行じゃないかな。契約反故は約定違反だ。わかってるよな?」
ぽつりと降って来た滴は、突然大粒の雨になった。轟音と共にすべてを叩きつける雨がこの場に降り注ぐ。
だが、同時に白い風が滑り込んできた。すぐに白い獣に変じた案内人は、私を一瞬見上げた後に少し離れ、2階建ての小屋へと変わる。
「早くしろ!」
すぐに走って来たドーマンが小屋の扉を開け、ティセルを中に入れた後、私を見た。
頷いて室内に入ると扉が勝手に閉まる。
「本当に…すごい嵐ですね…。私達は濡れなかったようですが…」
「直撃してたらケガしてたかもしれねぇな。山で遭遇する嵐はバケモンか」
窓も閉まっていて外は見えないが、音だけが建物に当たって響き渡っている。
2人は鍋と食器を持ったまま、厨房に行かず机の近くに集まっていた。動かず様子を見ているのは、何かが起こる予感を感じているのだろうか。
「シロ。動ける?」
「『無効化装備』で雨撃のダメージを無効化しているけど、あと2分で無効分を超えるよ」
「わかった。全力で逃げよう」
銀の球に触れて2階に上がる。
そのままその場で左手の指先を銀の球に置き、先端に魔力を籠めた。
測れるだろうか。短時間での出力調整は得意じゃないけど。
「ヴィータ!早いよ!」
すぐに、銀の球から悲鳴が上がる。
「いま何割?」
「幻力貯蔵量は9割。正確には88.85%。迎撃装備を発動する?」
「無効化を上げれるところまで上げて、一気に山を下りよう。速度を上げる装備は任せる」
「今の拠点強度だと高速に耐えられないよ。強度も上げるね」
「任せる」
時間がないから、会話は必要最低限だ。
互いの声が聞こえないほどの轟音の中、案内人の声は常に耳元に届く。
私が任せると言った次の瞬間、周囲の壁に金属が貼られ始めた。丸太の壁の上から鉄板のようなものが次々と貼られ、天井の内側も覆われていく。
すごく物理的な強化の仕方だなぁと思っていたら、下のほうからガガガガと地面を削るような音が聞こえ始めた。実際に削っているんだろう。振動で小屋が軽く揺れる。
だが、暢気に揺れていられたのは、そこまでだった。
不意に、小屋が加速する。
助走も無しで初動から一気に加速し、大地との摩擦音を立てながら爆速で動き出した。
加速すれば、当然その中にいるものは慣性で逆方向に動く。爆速で動き出せばどうなるかと言うと。
「…うわ」
鉄板が貼られた壁に激突することになる。
室内の机や椅子や寝台が動かないのは、床に固定されてるからかな。
壁にぴったり体を押さえつけられたまま、小屋は大地の上をガラガラ音を立てて進んだ。
時折段差があるのか床も跳ねるが、その度に私の体も跳ねることになる。
「固定具…用意できなかったのかな」
跳ねまくった末に、突然空中で体がふわりと浮かび上がった。
きっと、跳んだのだろう。
小屋が。
傍から見たらなかなか面白い光景なんだろうなぁと思いながら空中を泳ぐのも束の間、加重で体が床に叩きつけられた。
そのままゴロゴロと転がって壁で止まるが、小屋はまだ走り続けている。
床はとても斜めになっているから、多分結構な坂道だ。
「…う~ん…」
壁に背中の上半分を当てた状態で私の体は転がっている。つま先が頭の上の床まで届いているのに気付いて態勢を直し、お尻から脚全体を鉄板壁に当てた。壁に重心を支えてもらうので楽だ。
相変わらず床も壁も天井も揺れてるけど、落ち着く態勢になれたので、少し考えてみる。
これ。
1階も同じ状況なのかな?
がたがた揺られることさらに数分。
いつの間にか激しい雨音は聞こえなくなり、徐々に床の振動も落ち着いて来た。
やがて、ゆっくりと小屋は速度を落とし、そこから更に充分な距離を走ったところで、静かに止まる。
「シロ。問題ない?」
起き上がって声をかけると、少し待ってから声が聞こえた。
「山も下りたし雨から逃げきったよ」
「じゃあ、朝ごはんにしようかな」
そのまま移動して、ある程度予想していた1階の現状を見てみる。
2階と同じように、机や椅子は部屋の中心部から動いていない。
玄関側の扉付近には、鍋と木の食器転がっていた。その周囲の床や壁には液体が飛び散った跡があり、食材の塊や切れ端が散乱している。もはや原型もわからないくらい潰れてしまっているものもあったけど、多分鍋の中に入っていた今日の朝ごはんだろう。
「何とかして食べられないかなぁ…」
落ちてる肉の欠片っぽいものを摘んでみたけど、半壊していてぼたぼたと崩れていく。
「…それで、2人は?」
「衝撃に耐えられなかったみたいだね。生命力が0になったからカードに戻ったよ」
「それって死んだってことかな?死んでもカードに戻れるんだ」
「生命力が0になっても何度か呼び戻せるけど、カードの耐久度が無くなって破れてしまったら、使えなくなるね。まだ耐久度はあるし、再度実体化すればいいよ」
「簡単だね」
英雄と呼ばれ、召喚術師を支えたり手駒になったりする存在だけど、あまりに軽い命だ。
案内人は彼らを『物』として扱っているし、代替はいくらでもいる。
彼らは彼らなりの人生を歩んでいるはずだけど、この星での召喚術師システムは召喚術師を支援するためだけのもので、呼ばれる側のことなんてひとつも配慮していない。
そんな感じがした。
だから、ルーリアもゲームだと思ったんだろう。
自分が呼び出した仲間たちも、ただのゲームの駒にすぎないと、思ったんだろう。
ゲームに本気を出すのがバカらしくなったんだろう。
そんな生活の仕方だったなぁと思う。
「とりあえず…召喚とかして拠点を最低限整えたりして…それから寝るよ。昼には終わるといいけど」
雨が止んだので窓を開けてみる。
若葉の黄緑が柔らかく滴を落とす木々の隙間から、眩しい光が注ぎ込む。
そんな森の中に小屋は佇んでいるようだった。
一般的な森の中なら、食料も調達できるだろう。
私は窓を閉め、召喚をすることにした。
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奥野細道
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都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
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定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
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盾の間違った使い方
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その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
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ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
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