半同棲日記

カネコネコ

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5月5日(火) お出かけ

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5月5日(火) 天気 晴れ


 ゴールデンウィークもあと1日で終わるという日だった。

 僕は彼女と学校から言われた課題の映画を薄暗い部屋で見ていた。

 古臭い白黒の外国の映画だった。

 僕はこの手の映画が苦手だった。

 内容も分かりづらいし、絵も単調で、イマイチ話の起承転結が読めなかった。

「退屈だ」

 不思議なことに彼女はこの手の映画も、何とか理解しようと必死に見る人間だった。

 おかげで感想文をほとんど彼女の言葉で埋められるほどに。

 「これで最後の映画見終わった」

 「あっという間だったね」

 僕にとっては拷問のような時間だ。僕はしたくないことは絶対にしたくないし、人からああしろ、こうしろ言われるのも大っ嫌いだ。

 「ねぇ、せっかくのゴールデンウィークなんだし、どこか1回ぐらい出かけるのも良くないかな?」

 「どこに行きたいん?」

 「工場夜景が綺麗なところがあるんだって!今から行けば丁度、良い時間帯になると思うんだ。」

 「晩飯、そのままどっかで食べようか」

 「うん、そうしよっか」

 外が薄暗くなりかけた時に僕達は外に出た。

 バスに乗って駅まで行き、途中で乗り換えて、そこからまたバスに乗った。
 
 大きなバスターミナルでどのバスに乗ればいいのか分からなくなった。

 「しっかりしろよ、これぐらい調べておけよ」

 「ごめんて、多分このバスであってるからさ」

 あぁ、また彼女の人格を全否定したくなる。

 バスに乗って30分程たち、目的の場所に着いた。

 降りる人は僕達以外に誰もいなかった。

 外はもう夕方なのか、夜なのかよくわからない色をしていた。

 ひとまず、近くの展望台があるビルに入り、最上階で僕たちはデジカメで写真を撮った。

 30階建てのビルから見る景色は無機質で綺麗だった。

 空気が深い蒼に包まれて、重い夜が立ち込めようとしている。

 工場からは延々と白い煙が流れ出ていて、深い蒼と白い煙、灰色の工場があるおかげでこの街が夜であろうと息をしていることが実感できた。

 何枚かの写真を撮って僕は双眼鏡を眺めて海の向こうに浮かんでいるタンカー船を眺めた。

 ビルを出て近場の工業地帯に行く頃にはもう完璧な暗闇だった。

 田舎の夜とは違う不気味さが確かにあって、僕は早足で目的地に向かった。

 しかし、彼女はこんな時に限って背伸びをしてヒールの付いたサンダルを履いてる。

 「チビが悪あがきすんなや」

 「別にええやん」

 結局、僕達は2~3mほど離れて歩き続けた。

 僕はいわゆる普通の恋人達のように手を繋いだりしながら歩く心境は全く理解できなかいタイプで、たまにふざけて手なんか握られたら真っ先に振りほどいて、「きしょい」と一言、言ってしまう。

 だから、普段もお互い、最低でも1mは感覚を空けて歩く。

 目的の工業地帯は間近で工場を見ることが出来た。

 工場が緑や、赤、白の様々なライトに照らされてクリスマスとかに見るイルミネーションなんかよりよっぽど綺麗だと感じた。


 「何か、大きな生き物みたいだね」

 珍しく、彼女の意見に同意してしまった。

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