半同棲日記

カネコネコ

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5月15日(金) 病床

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5月15日(金) 天気 曇り

 その日、珍しく彼女はなかなか起きてこなかった。

 いつもなら6時半には起きて着替えて朝ごはんを食べて8時過ぎには家を出る。
 
 なのにその日は7時半になっても寝たままだった。

 「今日、仕事やろ?起きんで大丈夫なん?」

 「何か、しんどくって起き上がれない」

 試しに熱を計ってみたが、35.8°。

 「五月病?風邪?」

 「わからん、多分、疲れが出ただけやと思う」

 「とりあえず、職場に電話して病院開いたら行ってみるわ」

 言うまでもないが僕は病院につきそうなんてことはしなかった。

 10時過ぎに彼女は這うようにして、近所の病院に行った。

 帰ってきた彼女はよりしんどそうで、直ぐに着替えて床に伏せってしまった。

 さすがの僕も少ない良心が働き、家近くのドラッグストアに行って、ポカリやゼリーを買って彼女に渡した。

 「マジで感謝しろよ、俺という看病人がいることに」

 「うん、いつもありがとうね」

 とこに伏せっている彼女のことを僕は珍しく、可愛くて愛おしいと思った。

 やっぱり彼女は元気にしているより、こうしてげんなりして、しんどそうで辛い表情をしている時の方がいい。

 「お粥ぐらいなら食べられる?」

 「うん、お願い」

 僕は卵と梅干しを入れてお粥を作った。

 我ながら、なんて良い彼氏なんだろうと自画自賛しながら。

 「お粥、おいしいわ」

 「当たり前やろ、感謝して食べや」

 食事の後に薬を飲んだ彼女はまた沈むように眠り込んだ。

 僕はいつものようにオンラインで授業を受けた。

 「次の課題はロミオとジュリエットです。課題のセリフを覚えて、来週にはテストを行います。」

 なんで、演劇の授業ってこんなにも分かりづらい演目ばかりなんだろう。

 僕が好きなのは流行りの俳優が出演する、ドラマや映画で、100年以上前の作品には心ときめかないのだ。

 テストのシーンはロミオとジュリエットの中でもいちばん知られている、どうしてあなたは、のところだった。

 彼女も明日になればいつも通りだろうから、練習の相手をしてもらおう。

 とこに伏せっている彼女の心配より、テストの方が僕にとっては重要だった。

 そして、残念というか、退屈というか、夕方過ぎに起き上がってきた彼女は妙にスッキリとした顔をしていた。

 「シュウの作ってくれたお粥とお薬のおかげでもう治っちゃったよ」

 「マフユの風邪は風邪じゃないわ」

 そうして彼女は洗濯物をしまいこんだり、普通に晩御飯の支度を始めた。

 
 


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