階段下の物置き令嬢と呪われた公爵

LinK.

文字の大きさ
4 / 22

しおりを挟む
マルティネス公爵家に来てから三日目の朝、クロエは未だに居候中だ。

とろっと半熟の目玉焼きに焦げ目の付いた白いパン。シャキシャキレタスのサラダにプリッとした歯ごたえの鶏肉のソーセージまで付いた豪華な朝食を食べ終わると…

トントン_

扉を機械的に叩く音の後にくぐもった声が聞こえた。

「クロエ様、旦那様から言付けを預かっております」

扉を開けると初老の執事が立っており、焦点の定まらない目でクロエを見ている。

なんでもクロエの職探しに難航しているらしく、もう暫く待っていてほしいとの事。

自分で探しに行くと言っても納得してくれないようで、オルフェウスの部屋以外なら屋敷のどこを歩いても構わないから自由に過ごして欲しいと言われてしまう始末。


「そこまでしてもらわなくても大丈夫なのに…」

「年端も行かないご令嬢を無一文で追い出すような真似はできませんよ」

食べ終わった食器を片付けに来たアビゲイルがクロエの独り言に答えた。

「あ、アビゲイルさん。いつもすみません…」

「いえ、お気になさらずともよろしいですよ」



今日は他にも仕事があるというアビゲイルは部屋を出ていき、クロエは部屋の隅にある小さな本棚の整理を始めた。

手に取った背表紙の黒い本をぱらぱらと捲ってみると、中の紙は白くて安心した。

( 流石に中まで黒かったら文字が読めないよね… )

だが、どれも呪われた話や厄災だの血塗られただのと、背筋がゾッとするような題名の本だった。


二段あるうちの一段の本を取り除いて、棚の中を拭くクロエ。
本がぎっしり詰まっていたからか、少しホコリが被っている程度でそこまで汚れは無さそうだ。

乾いた布で本の背表紙を拭いていくと、年代物なのか暗い臙脂色《えんじいろ》や深緑色に変わっていく。
全て棚に仕舞って下段の本も同様に出して棚を拭き、背表紙のホコリを払った。

どれも暗い色の背表紙だったが、元々の色は黒ではなさそうだった。本を流し読みながら下段に仕舞っていく。

趣味の幅が広いのか客人をもてなすためなのか、先程とは打って変わって下段の本は恋愛物や冒険談が多かった。


次は何をしようかと考えていると小さな音でお腹が鳴り、クロエは自分の事なのに驚いてしまう。
普段よりも食べている量は多いのにお腹が空いてしまった。食べる量が増えたから、お腹が空くのも早いのだろうか…?

どこに行っても良いなら、厨房に行こう。

( 図々しいって怒られるかな…? )

アビゲイルに教えてもらった記憶を頼りに、クロエは薄暗い廊下を進んでいく。


ガチャガチャと鍋を動かす音が聞こえてきて、そっと顔を覗かせると
陽気そうな中年の男が鍋をお玉で掻き混ぜていた。

「もしかしてクロエ様ですか?」

視線に気が付いた男はクロエを手招きをして側に来るように呼ぶ。

「こんなところに来てどうしたんでしょうか?ここは火を扱っているから危ないですよ」

男は公爵家の料理人をしているガイウスと名乗り、クロエに優しく接する。

「あの…、お腹が空いてしまって…」

恥ずかしそうに答えるクロエを見て、ガイウスは豪快に笑った。

「食べ盛りですからね。何かお出ししますから、もう少し我慢できますか?」

ガイウスはコクコクと頷くクロエの頭を撫でる。


小腹が空いた時用に焼いたというクッキーを持って、丸椅子に並んで座る二人。

「クロエ様と同じくらいの歳の息子が居るんですよ。あいつもよくお腹が空いたと言って菓子を強請りに来るんです」

「そうなんですか?甘い物が好きな男性は珍しいですね」

クロエの言葉にガイウスはきょとんと瞬きをしてから「あぁ」と一人で納得していた。

「あれくらいの歳の子は大抵甘い物が好きだと思いますよ。でも、数年後にはどうなっているかわからないですけどね。好きでも格好つけて隠す人もいるくらいですし…」

「そういうものなんですね…」


ガルシア男爵家の二人はどうだっただろうか…。

弟のアドニスが小さい頃は甘いお菓子をたくさん食べていた気はするが、父カイロスも大きくなったアドニスも、甘い物には手を付けずに肉や揚げ物ばかりを好んで食べている。

色んな人がいるんだろう。小さな世界で生きてきたクロエは男性の好みなど知らない。


「さてと、そろそろ夕食の支度を始めるとしますか」

立ち上がったガイウスにクロエが手伝いを申し出たのだが、遊びじゃないのだと言われて厨房から追い出されてしまった。

「食事の量を少し増やしますから、よく食べてよく寝てください。クロエ様だってすぐに大きくなりますよ」

「ありがとうございます…?」


ガイウスの言った通り、その日の夕食はいつもより量が多かった。

( どうして食事の色が変わったのか聞けばよかった。ガイウスさん、黒に飽きちゃったのかな…?)

今日も美味しい食事を食べて、幸せな気持ちでベッドに入るクロエ。

明日もここに滞在するならベッドのフレームを綺麗にしよう。
贅沢を言えば白いシーツが欲しいけど、居候の身でそこまでは頼めない。

フカフカのベッドに身体を沈ませて、クロエは明日に備えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

その執事は、十三番目の愛を叫ぶ

れおぽん
恋愛
「貴女を愛しています。……ええと、お名前は?」 次期皇女を決める最終儀式の場。 並み居る高貴な皇配候補たちは、誰一人として花嫁の名前を答えられなかった。 彼らが愛していたのは「皇女」という肩書きであり、彼女自身を見てはいなかったからだ。 場が凍りつく中、国は体裁を保つために「偽の名前」を彼女に与えようとする。 だが、その時――。 「ふざけるなッ!!」 乱入してきたのは、薄汚れた一人の使用人だった。 彼は知っていた。彼女がどんな時に笑い、どんな時に傷つき、そして本当はどんな名前なのかを。 地位も名誉もない使用人の「真摯な愛」が、薄っぺらな貴族たちの求婚を論破する。 身分差×主従×逆転劇。魂を揺さぶるヒューマンドラマ。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

傾国の王女は孤独な第一王子を溺愛したい

あねもね
恋愛
傾国の王女と評判のオルディアレス王国の第一王女フィオリーナが、ラキメニア王国の第一王子、クロードに嫁ぐことになった。 しかし初夜にクロードから愛も華やかな結婚生活も期待しないでくれと言われる。第一王子でありながら王太子ではないクロードも訳ありのようで……。 少々口達者で、少々居丈高なフィオリーナが義母である王妃や使用人の嫌がらせ、貴族らの好奇な目を蹴散らしながら、クロードの心をもぎ取っていく物語。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

全てを諦めた私は、自由になります

天宮有
恋愛
 侯爵令嬢の私ルリサには特殊な力があって、国を繁栄させていた。  私の力で国が繁栄していたから、ゼノラス王子が婚約者になる。  その後――私の力は危険だと思い込んだ国王に、私は国外追放を言い渡されてしまう。  ゼノラスは私の妹サレアを好きになったようで、私との婚約が破棄されることを喜んでいた。  私が消えれば大変なことになると話しても、誰も信じようとしない。  誰も信じてくれず全てを諦めた私は、国を出て自由になります。

【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
 世間から見れば、普通に暮らしている伯爵家令嬢ルイーズ。  けれど実際は、愛人の子ルイーズは継母に蔑まれた毎日を送っている。  継母から、されるがままの仕打ち。彼女は育ててもらった恩義もあり、反抗できずにいる。  継母は疎ましいルイーズを娼館へ売るのを心待ちにしているが、それをルイーズに伝えてしまう。  18歳になれば自分は娼館へ売られる。彼女はそうなる前に伯爵家から逃げるつもりだ。  しかし、継母の狙いとは裏腹に、ルイーズは子爵家のモーガンと婚約。  モーガンの本性をルイーズは知らない。  婚約者の狙いでルイーズは、騎士候補生の訓練に参加する。そこで、ルイーズと侯爵家嫡男のエドワードは出会うことになる。  全ての始まりはここから。  この2人、出会う前から互いに因縁があり、会えば常に喧嘩を繰り広げる。 「どうしてエドワードは、わたしと練習するのよ。文句ばっかり言うなら、誰か別の人とやればいいでしょう! もしかして、わたしのことが好きなの?」 「馬鹿っ! 取り柄のないやつを、俺が好きになるわけがないだろう‼ お前、俺のことが分かっているのか? 煩わしいからお前の方が、俺に惚れるなよ」  エドワードは侯爵家嫡男の顔の他に、至上者としての職位がある。それは国の最重要人物たちしか知らないこと。  その2人に、ある出来事で入れ替わりが起きる。それによって互いの距離がグッと縮まる。  一緒にいると互いに居心地が良く、何の気兼ねも要らない2人。  2人で過ごす時間は、あまりにも楽しい…。  それでもエドワードは、ルイーズへの気持ちを自覚しない。  あるきっかけで体が戻る。  常々、陛下から王女との結婚を持ち掛けられているエドワード。  彼の気持ちはルイーズに向かないままで、自分の結婚相手ではないと判断している。  そんななか、ルイーズがいなくなった…。  青ざめるエドワード。もう会えない…。焦ったエドワードは彼女を探しに行く。  エドワードが、ルイーズを見つけ声を掛けるが、彼女の反応は随分とそっけない。  このときのルイーズは、エドワードに打ち明けたくない事情を抱えていた。 「わたし、親戚の家へ行く用事があるので、あの馬車に乗らないと…。エドワード様お世話になりました」 「待てっ! どこにも行くな。ルイーズは俺のそばからいなくなるな」  吹っ切れたエドワード。自分はルイーズが好きだと気付く。  さらに、切れたエドワードは、ルイーズと共に舞踏会で大騒動を起こす!  出会うはずのない2人の、変わり身の恋物語。 ※常用漢字外はひらがな表記やルビを付けています。  読めるのに、どうしてルビ? という漢字があるかもしれませんが、ご了承ください。

処理中です...