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それは突然起こった。
( 膝が痛い… )
いつもは朝までぐっすり眠れるのに、クロエは体の節々の痛みで目が覚めてしまう。
起き上がろうとすると、ビリッと何かが破ける音がした。
「え…?」
やってしまった…。クロエが借りている夜着の袖を恐る恐る確認すると、綺麗に袖の部分が破けている。
「ど、どうしよう…。借り物なのに駄目にしちゃったら弁償だよね…?お金なんて持っていないのに…」
クロエが焦っていると部屋の扉が開いてアビゲイルが入ってくる。
「クロエ様、今日は早くお目覚めになったのですね」
温かいお湯を持ってきたアビゲイルはクロエを見て固まってしまう。
( アビゲイルさん驚いている…。借り物の洋服を壊す人なんて普通いないよね… )
なんと言って謝ろうか考えていたクロエだったが、アビゲイルに言われた言葉でアビゲイル以上に驚いてしまう。
「あなたは誰ですか!クロエ様を何処にやったんですか!」
不審者だと叫び、慌てて人を呼びに行こうとするアビゲイル。
「あ、アビゲイルさん!待って!」
呼び止めるクロエを訝しげに見るアビゲイルは、初めて会った頃のように感情のない顔をしていた。
「何故私の名前を知っているのですか…?」
「冗談は止めてください。私はクロエです」
アビゲイルはクロエを上から下まで見たあと、憤慨したように答える。
「あなたこそ冗談は止めてください。クロエ様はもっと小さくて可愛らしい女の子です。あなたのような女性ではありません」
クロエはベッドから降りて鏡の前に立った。
夜着の破ける音が聞こえたが、そんなことよりも自分の姿を確認したい。
「え…?これが私…?」
毎日の食事で肉付きが良くなってきているとは思っていたが、一晩でかなり背が伸びている。
自分でも自分だと思えないくらいに成長していた。
「何をふざけたことをしているのですか!たとえクロエ様のお洋服を着たとしてもクロエ様にはなれないのですよ!クロエ様は何処ですか!」
詰め寄ってくるアビゲイルにタジタジになりながらも、クロエは必死に訴える。
どんなに自分がクロエだと言っても信じてくれないアビゲイル。
「アビゲイルさんがこの間教えてくれた話をしたら信じてくれますか?花屋のトニーさんが…」
クロエが言い終わらないうちにアビゲイルはクロエの口を両手で塞いだ。
「何故あなたがその話を知っているのですか!」
「他にもありますよ。オルフェウス様の執務室でお茶を零してしまった話とか、小さい頃におねしょをしていた話とか…」
クロエにしか話していない自分の失敗談を話して聞かせる眼の前の人物をまじまじと見つめ、アビゲイルは静かに尋ねる。
「本当にクロエ様なんですか…?」
「この歳になっても成長期って来るんですね…」
照れたように笑うクロエ。
「この歳にって…。クロエ様はおいくつなんですか?」
「もう少しで17ですよ」
マルティネス公爵家にアビゲイルの二度目の悲鳴が響き渡った。
「何事だ!大丈夫か?」
部屋の外からオルフェウスの心配する声が聞こえてくる。
アビゲイルはクローゼットの中から大きめのガウンを取り出してクロエに着させ、部屋の扉を開いた。
「オルフェウス様、大変な事が起きています。私も上手く状況を整理できていないのですが…」
額に汗をかくアビゲイルを見て、オルフェウスは遂にクロエにまで呪いが発症してしまったのだと思った。
「そうか。危惧していた事が起きてしまったか…」
もっと早く働き先を見つければ良かったと後悔しながら部屋に入ると、クロエの姿はどこにも見当たらない。
いるのは不安気に佇む女性。
「だ、誰だ!何処から入って来たんだ!」
怒鳴るオルフェウスを見て、また一からやり直すのかとげんなりするクロエ。
「クロエです。何故だか一晩で成長したみたいで…」
長い時間をかけて説明したのだが、オルフェウスは未だに納得してくれない。
「俄には信じがたいのだが…」
「この方はクロエ様で間違いありません」
一緒に過ごす時間が多かったからなのか、クロエしか知らない事を知っているからなのか、アビゲイルは信じてくれたようだ。
「17か…。子供ではなかったのだな…」
「一応嫁ぐように言われて来たので成人はしてますけど…」
それもそうかと納得しかけたオルフェウスだが、未だに疑問は無くならない。
「だが、一晩でこれほど変わるものなのか?昨日までは10を越したような年齢にしか見えなかったのだが…」
「美味しいご飯をお腹いっぱい食べられるからでしょうか?」
首を傾げる三人。
「ベッドが大きいからかも知れない…」
「どういう事だ…?」
小さな声で呟いたクロエにオルフェウスが尋ねる。
「ガルシア男爵家では小さな部屋で過ごしていたので、これ以上大きくなったら大変だなって思いながら寝ていたので…」
クロエは階段下の物置き部屋に住んでいた事を告げる。
話を聞くうちにどんどん表情が曇っていくオルフェウスとアビゲイル。
「信じられません!庶子だからと言ってそんな扱いをするだなんて!」
「だからクロエは小さかったのか…」
オルフェウスは遺憾に思いながらも、先日クロエが一人で呟いていた言葉を思い出していた。
『言葉には力が宿る』
大きくならないようにと願って成長しなくなった身体。
綺麗になるようにと願って変わっていくこの部屋。
もしクロエが呪いが解けるようにと願えば…?
( いや、そんな夢のような話があるはずもない… )
オルフェウスはアビゲイルを宥めるクロエを横目で見やり、そっと部屋を後にした。
( 膝が痛い… )
いつもは朝までぐっすり眠れるのに、クロエは体の節々の痛みで目が覚めてしまう。
起き上がろうとすると、ビリッと何かが破ける音がした。
「え…?」
やってしまった…。クロエが借りている夜着の袖を恐る恐る確認すると、綺麗に袖の部分が破けている。
「ど、どうしよう…。借り物なのに駄目にしちゃったら弁償だよね…?お金なんて持っていないのに…」
クロエが焦っていると部屋の扉が開いてアビゲイルが入ってくる。
「クロエ様、今日は早くお目覚めになったのですね」
温かいお湯を持ってきたアビゲイルはクロエを見て固まってしまう。
( アビゲイルさん驚いている…。借り物の洋服を壊す人なんて普通いないよね… )
なんと言って謝ろうか考えていたクロエだったが、アビゲイルに言われた言葉でアビゲイル以上に驚いてしまう。
「あなたは誰ですか!クロエ様を何処にやったんですか!」
不審者だと叫び、慌てて人を呼びに行こうとするアビゲイル。
「あ、アビゲイルさん!待って!」
呼び止めるクロエを訝しげに見るアビゲイルは、初めて会った頃のように感情のない顔をしていた。
「何故私の名前を知っているのですか…?」
「冗談は止めてください。私はクロエです」
アビゲイルはクロエを上から下まで見たあと、憤慨したように答える。
「あなたこそ冗談は止めてください。クロエ様はもっと小さくて可愛らしい女の子です。あなたのような女性ではありません」
クロエはベッドから降りて鏡の前に立った。
夜着の破ける音が聞こえたが、そんなことよりも自分の姿を確認したい。
「え…?これが私…?」
毎日の食事で肉付きが良くなってきているとは思っていたが、一晩でかなり背が伸びている。
自分でも自分だと思えないくらいに成長していた。
「何をふざけたことをしているのですか!たとえクロエ様のお洋服を着たとしてもクロエ様にはなれないのですよ!クロエ様は何処ですか!」
詰め寄ってくるアビゲイルにタジタジになりながらも、クロエは必死に訴える。
どんなに自分がクロエだと言っても信じてくれないアビゲイル。
「アビゲイルさんがこの間教えてくれた話をしたら信じてくれますか?花屋のトニーさんが…」
クロエが言い終わらないうちにアビゲイルはクロエの口を両手で塞いだ。
「何故あなたがその話を知っているのですか!」
「他にもありますよ。オルフェウス様の執務室でお茶を零してしまった話とか、小さい頃におねしょをしていた話とか…」
クロエにしか話していない自分の失敗談を話して聞かせる眼の前の人物をまじまじと見つめ、アビゲイルは静かに尋ねる。
「本当にクロエ様なんですか…?」
「この歳になっても成長期って来るんですね…」
照れたように笑うクロエ。
「この歳にって…。クロエ様はおいくつなんですか?」
「もう少しで17ですよ」
マルティネス公爵家にアビゲイルの二度目の悲鳴が響き渡った。
「何事だ!大丈夫か?」
部屋の外からオルフェウスの心配する声が聞こえてくる。
アビゲイルはクローゼットの中から大きめのガウンを取り出してクロエに着させ、部屋の扉を開いた。
「オルフェウス様、大変な事が起きています。私も上手く状況を整理できていないのですが…」
額に汗をかくアビゲイルを見て、オルフェウスは遂にクロエにまで呪いが発症してしまったのだと思った。
「そうか。危惧していた事が起きてしまったか…」
もっと早く働き先を見つければ良かったと後悔しながら部屋に入ると、クロエの姿はどこにも見当たらない。
いるのは不安気に佇む女性。
「だ、誰だ!何処から入って来たんだ!」
怒鳴るオルフェウスを見て、また一からやり直すのかとげんなりするクロエ。
「クロエです。何故だか一晩で成長したみたいで…」
長い時間をかけて説明したのだが、オルフェウスは未だに納得してくれない。
「俄には信じがたいのだが…」
「この方はクロエ様で間違いありません」
一緒に過ごす時間が多かったからなのか、クロエしか知らない事を知っているからなのか、アビゲイルは信じてくれたようだ。
「17か…。子供ではなかったのだな…」
「一応嫁ぐように言われて来たので成人はしてますけど…」
それもそうかと納得しかけたオルフェウスだが、未だに疑問は無くならない。
「だが、一晩でこれほど変わるものなのか?昨日までは10を越したような年齢にしか見えなかったのだが…」
「美味しいご飯をお腹いっぱい食べられるからでしょうか?」
首を傾げる三人。
「ベッドが大きいからかも知れない…」
「どういう事だ…?」
小さな声で呟いたクロエにオルフェウスが尋ねる。
「ガルシア男爵家では小さな部屋で過ごしていたので、これ以上大きくなったら大変だなって思いながら寝ていたので…」
クロエは階段下の物置き部屋に住んでいた事を告げる。
話を聞くうちにどんどん表情が曇っていくオルフェウスとアビゲイル。
「信じられません!庶子だからと言ってそんな扱いをするだなんて!」
「だからクロエは小さかったのか…」
オルフェウスは遺憾に思いながらも、先日クロエが一人で呟いていた言葉を思い出していた。
『言葉には力が宿る』
大きくならないようにと願って成長しなくなった身体。
綺麗になるようにと願って変わっていくこの部屋。
もしクロエが呪いが解けるようにと願えば…?
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