13 / 22
13
最近は何もかもうまく行かない。
あの役立たずがいなくなってから幸せな日常に戻ったというのに、束の間の幸せだった。
屋敷は汚れ始め、ヘラは苛立つようになり
アドニスの我が儘は酷くなり、自分も太ってきた。
ヘラの命令で食事は野菜だけになって味気ない。
( 肉が食べたい。ソースがたっぷりかかったステーキ…。鴨の丸焼き…。肉汁の滴るハンバーグ… )
お腹が鳴っても食べるものがない。自分が食べないからと皆の間食も禁止され、カイロスはお茶を飲んで腹を膨らませる。
いきなり変わったのは何故だ?
クロエがいなくなったから…?
カイロスは最後に会った時に言われたクロエの母親の言葉を思い出していた。
『この子は魔女の血を引く子。大事に育ててください。粗末に扱えばあなたが不幸になります』
確かに年齢もわからないくらいに美しい女だった。
だが、いくら美しいからと言って自分を魔女だというのは些か大袈裟だろう。
大人しい性格の女中だと思えば自身に溢れた女だったのか。
大切に扱って欲しいのなら愛想くらい振りまけば良いものを、自分を邪険にする女中とクロエを大事にできるわけないだろう。
それに、ヘラがクロエを階段下の物置に閉じ込めても何も起こらなかった。
今更何が起こるというのだ。馬鹿馬鹿しい。
ただでさえ空腹で苛々しているというのに、届いた知らせはカイロスを激高させる。
「何をしに来た。この屋敷から出て行ったはずだろう?」
カイロスが睨みつけるのはダンテとマチルダ。
「旦那様の為にあの公爵家に支度金の催促をしに行ったのです!」
「そうです!それなのにあの不気味な公爵は…」
二人は公爵家で働こうと目論んでいた事は伏せ、有る事無い事をカイロスに伝えた。
「なんだと!馬鹿にしよって!いくら公爵家といえども許せん!」
マルティネス公爵家が支度金を払うつもりはないと聞かされたカイロスは叫ぶ。
「旦那様の為に少しでも情報を得ようと思ってあの屋敷を窺っていたのですが、あの出来損ないがまるで母親の生き写しのように美しく成長していたのです。公爵は金が惜しくなって嘘をついているのでしょう」
あの子供のまま成長が止まったクロエが美しく成長したと聞き、カイロスはある考えが思い浮かんだ。
( 金持ちの後妻として高値で売れるのではないか? )
この二人が生きて帰ってきたのだ。呪いなど所詮噂に過ぎない。大金を得ればヘラの癇癪も収まるだろう。
「あの…。命がけで公爵家に行ったのですから、また私共はここで働けるのですよね?」
手を揉みながら尋ねるマチルダにカイロスは少しばかりの小銭を投げつける。
「これで充分だろう」
すぐにでも公爵家に手紙を出さねばとカイロスは屋敷へと戻っていった。
「これっぽっちしか貰えてないなんて、私達はどうやって生活していけばいいのよ!」
悪態をつくマチルダを横目に、ダンテは獲物を見つけた。
「坊ちゃん!アドニス坊ちゃん!」
「お前はダンテか!お前はが居なくなってから食事が野菜だけになってしまったんだ!」
ドカドカと走っているのかわからない速さで歩いて来るアドニス。最後に見た時よりもお腹がはち切れそうにパンパンになっている。
「坊ちゃんが奥様に言ってくだされば、また毎日美味しい料理を提供できます!」
「最近のママは怖いからな…。そうだ、ママに内緒でこっそりとお前の作った料理を持ってくれれば良い!」
アドニスはふんぞり返って言う。
「いかほど貰えるのですか?」
「僕から金を取るのか?」
「食材を買うのにもお金がかかりますし、坊ちゃんに食べて貰うには最高級の品を用意しなければと思いまして…」
アドニスは少し考えてから大きく頷く。
「僕のお小遣いから出そう」
値段も何もわからないアドニスはダンテの給料よりも高い額を支払うことになるのだが、教えてくれる者はここにはいなかった。
毎日肉料理を届ける約束をしたダンテは顔を綻ばせながら家路につく。
「これで良いだろう?」
「あなたが旦那で良かったわ」
安い肉を買って味付けを更に濃くして肉本来の味を誤魔化して浮いたお金で豪遊する二人だったが、何日か経った日にカイロスに見つかってしまう。
肉に飢えていたカイロスは自分の分も作るように命じたのだが、アドニスよりも金にうるさかった。
材料費をちょろまかしていたので給金としては充分に与えられていたのだが、一度豪遊に目覚めてしまった二人には到底足りない。
もっと金が欲しい。もっと遊びたい。買い物がしたい。
他に仕事の見つからない…、というよりも探すことなどしていなかった二人には金の出処など無かった。
そんなある日、ガルシア男爵家に肉料理を届けた帰りのことだった。
年老いた男性を見つけてダンテは立ち止まる。
( あれは確か一人暮らしの爺さんか… )
金が無いのならあるところから奪えばいい。
その日の夜、ダンテはマチルダと二人で老人の家に忍込んで有り金を奪った。
捕まらなければ大丈夫。
誰にも見られなければ問題ない。
この日から二人は金が無くなると人の家に忍び込んで盗むようになっていく。
あの役立たずがいなくなってから幸せな日常に戻ったというのに、束の間の幸せだった。
屋敷は汚れ始め、ヘラは苛立つようになり
アドニスの我が儘は酷くなり、自分も太ってきた。
ヘラの命令で食事は野菜だけになって味気ない。
( 肉が食べたい。ソースがたっぷりかかったステーキ…。鴨の丸焼き…。肉汁の滴るハンバーグ… )
お腹が鳴っても食べるものがない。自分が食べないからと皆の間食も禁止され、カイロスはお茶を飲んで腹を膨らませる。
いきなり変わったのは何故だ?
クロエがいなくなったから…?
カイロスは最後に会った時に言われたクロエの母親の言葉を思い出していた。
『この子は魔女の血を引く子。大事に育ててください。粗末に扱えばあなたが不幸になります』
確かに年齢もわからないくらいに美しい女だった。
だが、いくら美しいからと言って自分を魔女だというのは些か大袈裟だろう。
大人しい性格の女中だと思えば自身に溢れた女だったのか。
大切に扱って欲しいのなら愛想くらい振りまけば良いものを、自分を邪険にする女中とクロエを大事にできるわけないだろう。
それに、ヘラがクロエを階段下の物置に閉じ込めても何も起こらなかった。
今更何が起こるというのだ。馬鹿馬鹿しい。
ただでさえ空腹で苛々しているというのに、届いた知らせはカイロスを激高させる。
「何をしに来た。この屋敷から出て行ったはずだろう?」
カイロスが睨みつけるのはダンテとマチルダ。
「旦那様の為にあの公爵家に支度金の催促をしに行ったのです!」
「そうです!それなのにあの不気味な公爵は…」
二人は公爵家で働こうと目論んでいた事は伏せ、有る事無い事をカイロスに伝えた。
「なんだと!馬鹿にしよって!いくら公爵家といえども許せん!」
マルティネス公爵家が支度金を払うつもりはないと聞かされたカイロスは叫ぶ。
「旦那様の為に少しでも情報を得ようと思ってあの屋敷を窺っていたのですが、あの出来損ないがまるで母親の生き写しのように美しく成長していたのです。公爵は金が惜しくなって嘘をついているのでしょう」
あの子供のまま成長が止まったクロエが美しく成長したと聞き、カイロスはある考えが思い浮かんだ。
( 金持ちの後妻として高値で売れるのではないか? )
この二人が生きて帰ってきたのだ。呪いなど所詮噂に過ぎない。大金を得ればヘラの癇癪も収まるだろう。
「あの…。命がけで公爵家に行ったのですから、また私共はここで働けるのですよね?」
手を揉みながら尋ねるマチルダにカイロスは少しばかりの小銭を投げつける。
「これで充分だろう」
すぐにでも公爵家に手紙を出さねばとカイロスは屋敷へと戻っていった。
「これっぽっちしか貰えてないなんて、私達はどうやって生活していけばいいのよ!」
悪態をつくマチルダを横目に、ダンテは獲物を見つけた。
「坊ちゃん!アドニス坊ちゃん!」
「お前はダンテか!お前はが居なくなってから食事が野菜だけになってしまったんだ!」
ドカドカと走っているのかわからない速さで歩いて来るアドニス。最後に見た時よりもお腹がはち切れそうにパンパンになっている。
「坊ちゃんが奥様に言ってくだされば、また毎日美味しい料理を提供できます!」
「最近のママは怖いからな…。そうだ、ママに内緒でこっそりとお前の作った料理を持ってくれれば良い!」
アドニスはふんぞり返って言う。
「いかほど貰えるのですか?」
「僕から金を取るのか?」
「食材を買うのにもお金がかかりますし、坊ちゃんに食べて貰うには最高級の品を用意しなければと思いまして…」
アドニスは少し考えてから大きく頷く。
「僕のお小遣いから出そう」
値段も何もわからないアドニスはダンテの給料よりも高い額を支払うことになるのだが、教えてくれる者はここにはいなかった。
毎日肉料理を届ける約束をしたダンテは顔を綻ばせながら家路につく。
「これで良いだろう?」
「あなたが旦那で良かったわ」
安い肉を買って味付けを更に濃くして肉本来の味を誤魔化して浮いたお金で豪遊する二人だったが、何日か経った日にカイロスに見つかってしまう。
肉に飢えていたカイロスは自分の分も作るように命じたのだが、アドニスよりも金にうるさかった。
材料費をちょろまかしていたので給金としては充分に与えられていたのだが、一度豪遊に目覚めてしまった二人には到底足りない。
もっと金が欲しい。もっと遊びたい。買い物がしたい。
他に仕事の見つからない…、というよりも探すことなどしていなかった二人には金の出処など無かった。
そんなある日、ガルシア男爵家に肉料理を届けた帰りのことだった。
年老いた男性を見つけてダンテは立ち止まる。
( あれは確か一人暮らしの爺さんか… )
金が無いのならあるところから奪えばいい。
その日の夜、ダンテはマチルダと二人で老人の家に忍込んで有り金を奪った。
捕まらなければ大丈夫。
誰にも見られなければ問題ない。
この日から二人は金が無くなると人の家に忍び込んで盗むようになっていく。
あなたにおすすめの小説
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。
朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。
ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
【感謝】
第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。
ありがとうございます。
【完結】悪役令嬢は番様?
水江 蓮
恋愛
ある日ぼんやり鏡を見ていたら、前世の記憶を思い出したツェツリア8歳。
この世界は人気乙女ゲームの世界であり自分の役どころは悪役令嬢だと…。
まだ悪役令嬢として活動していないから、まだ挽回できるはず!
え?
誰が誰の番?
まず番って何?
誰か何がどうなっているのか教えて!!