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そして…
部屋に差し込む光で目が覚めたオルフェウスは寝返りを打ったのだが、広いベッドには自分だけしかいなかった。
(いない…。これまでのことは夢だったのか…?)
オルフェウスはベッドから飛び起きてクロエの姿を必死に探した。しかし、部屋中を何処を探してもクロエは見当たらない。
オルフェウスは呪いが解けたという都合の良い夢を見ていたのかもしれないと焦った。
部屋に居なければ書庫か?庭か?いや、執務室に居るのかもしれない…。
だが、何処を探してもクロエは見当たらない。
クロエどころか、使用人すら誰一人としていなかった。
( まさか、これも呪いなのか…? )
オルフェウスはクロエと始めて踊ったダンスホールの扉の前に立ち、ここにもいなければ全てが夢だったのだと諦めることに決めた。
これ以上惨めな気持ちになりたくなかったのだ。
震える手で扉を開けると、そこにはクロエもトーマスも、屋敷の使用人たちが全員集合していた。
「おめでとうございます!」
部屋に入った瞬間に皆が口々に祝いの言葉を述べ、オルフェウスはぽかんと口を開けて皆の顔を見渡した。
「これは一体…?」
クロエがオルフェウスの前まで歩いて来て
「お誕生日おめでとうございます」
あの頃と変わらない優しい笑顔で一言そう告げる。
オルフェウスはやっと見つけることのできたクロエを強く抱きしめて、そこに存在しているのだと実感した。クロエの温もりが、匂いが夢ではないのだと教えてくれる。
「今日は私の誕生日だったのか…」
「えぇ、30歳の誕生日です」
両親よりも歳をとったオルフェウス。
信じられないとばかりにクロエにもう一度尋ねる。
「私は30を無事に迎えられたのか…?」
「えぇ。もう不安に思うことはないのです」
感極まっているオルフェウスの足に衝撃が走った。見下ろせば小さな子供が二人、自分の足元に抱きついている。
「お父様、お誕生日おめでとうございます!」
「ごじゃいましゅ!」
( 夢ではなかった… )
オルフェウスは両足に抱きつく小さな子供達を抱き上げた。
「クリストフ、オリビア…。ありがとう!」
「さぁ、皆でお父様のお祝いをしましょうね」
部屋の中央にはテーブルが置かれていて、大きなケーキにオルフェウスの好きな料理ばかりが並べられていた。
トーマスとアビゲイルに遊んでもらっている二人の子供を見て、オルフェウスは幸せを噛みしめる。
「呪いは、もう無くなったんだな…」
「そうですよ。オリビアが生まれた時にもそう伝えたでしょう?」
一人の男児しか生まれないという呪いなのだから呪いは完全に解けたのだとクロエが伝えても、オルフェウスはずっと不安だった。
夜中に飛び起きてクロエの姿を探し、横で眠るクロエを見つけては強く抱きしめて再び眠りにつく。
そんなオルフェウスを見ていたクロエは、怖がる必要は無いのだと安心させたかった。
マルティネス公爵家の者が誰も迎えることのできなかった30歳の誕生日を盛大に祝おうと準備をしていたのだが、ここに来るまで不安な気持ちにさせてしまった事に申し訳なくも思った。
「驚かせてしまってごめんなさい…」
「いや、良いんだ。私もクロエも、これからもずっと共に生きていけるとわかったんだ。これ以上に幸せな事はないよ」
「二人の成長を見て、孫の顔を見るって約束したではないですか」
「あぁ、そうだったな」
そんな話をしていると、クリストフとオリビアが二人に抱き着いた。
「お父様!」
「おかあしゃま!」
後ろからトーマスとアビゲイルが歩いてくる。
「いやぁ、お二人は元気が有り余っているのでこの御老体には辛いですな…」
「そう言いながら率先して遊んでますけどね…」
「二人ともありがとう」
「いえ、オルフェウス様のお子様は私にとって孫のようなものですから…」
クロエに礼を言われたトーマスは涙ぐんで答える。
「本当に良かったです。お誕生日おめでとうございます」
オルフェウスを子供の頃から見守っていたトーマスは嬉しくて仕方がない。
「トーマス泣いてるの…?何処か痛いの?」
クリストフが心配そうに尋ねて、オリビアもトーマスを見つめている。
「痛いの痛いの飛んでいけ!」
「いけー!」
二人の可愛らしいまじないの言葉がダンスホールに響き渡った。
「おや、腰の痛みがなくなった気がします。お二人の優しさのお陰ですね。どれ、またトーマスと遊んでくださいますかな?」
トーマスは喜ぶ二人を連れて遊びに行った。
「調子のいいこと言うんだから…。私も行って参ります」
そう言ってアビゲイルも三人の後を追う。
「今のはもしかして…?」
「二人の言葉にも力が宿っているのかもしれませんね」
クロエはオルフェウスの手を握って向かい合う。
「強く思えば相手にも優しい気持ちが伝わると母が…」
「そうか…」
「今は幸せですか?」
「これ以上ない程に幸せだよ」
「だから言ったでしょう?私達には絶対に幸せな未来しかないと…」
「そうだったな。クロエが言った事は全て実現するんだった」
オルフェウスが夜中に飛び起きることも、夢だと不安に思うこともなくなるだろう。
隣にはいつもクロエがいる。可愛い子供達に信頼できる使用人たち、皆が笑顔で過ごしている。
これは夢でも妄想でもない。
オルフェウスはようやく呪いの呪縛から解放され、これからの未来に向かって歩き始めたのだった。
部屋に差し込む光で目が覚めたオルフェウスは寝返りを打ったのだが、広いベッドには自分だけしかいなかった。
(いない…。これまでのことは夢だったのか…?)
オルフェウスはベッドから飛び起きてクロエの姿を必死に探した。しかし、部屋中を何処を探してもクロエは見当たらない。
オルフェウスは呪いが解けたという都合の良い夢を見ていたのかもしれないと焦った。
部屋に居なければ書庫か?庭か?いや、執務室に居るのかもしれない…。
だが、何処を探してもクロエは見当たらない。
クロエどころか、使用人すら誰一人としていなかった。
( まさか、これも呪いなのか…? )
オルフェウスはクロエと始めて踊ったダンスホールの扉の前に立ち、ここにもいなければ全てが夢だったのだと諦めることに決めた。
これ以上惨めな気持ちになりたくなかったのだ。
震える手で扉を開けると、そこにはクロエもトーマスも、屋敷の使用人たちが全員集合していた。
「おめでとうございます!」
部屋に入った瞬間に皆が口々に祝いの言葉を述べ、オルフェウスはぽかんと口を開けて皆の顔を見渡した。
「これは一体…?」
クロエがオルフェウスの前まで歩いて来て
「お誕生日おめでとうございます」
あの頃と変わらない優しい笑顔で一言そう告げる。
オルフェウスはやっと見つけることのできたクロエを強く抱きしめて、そこに存在しているのだと実感した。クロエの温もりが、匂いが夢ではないのだと教えてくれる。
「今日は私の誕生日だったのか…」
「えぇ、30歳の誕生日です」
両親よりも歳をとったオルフェウス。
信じられないとばかりにクロエにもう一度尋ねる。
「私は30を無事に迎えられたのか…?」
「えぇ。もう不安に思うことはないのです」
感極まっているオルフェウスの足に衝撃が走った。見下ろせば小さな子供が二人、自分の足元に抱きついている。
「お父様、お誕生日おめでとうございます!」
「ごじゃいましゅ!」
( 夢ではなかった… )
オルフェウスは両足に抱きつく小さな子供達を抱き上げた。
「クリストフ、オリビア…。ありがとう!」
「さぁ、皆でお父様のお祝いをしましょうね」
部屋の中央にはテーブルが置かれていて、大きなケーキにオルフェウスの好きな料理ばかりが並べられていた。
トーマスとアビゲイルに遊んでもらっている二人の子供を見て、オルフェウスは幸せを噛みしめる。
「呪いは、もう無くなったんだな…」
「そうですよ。オリビアが生まれた時にもそう伝えたでしょう?」
一人の男児しか生まれないという呪いなのだから呪いは完全に解けたのだとクロエが伝えても、オルフェウスはずっと不安だった。
夜中に飛び起きてクロエの姿を探し、横で眠るクロエを見つけては強く抱きしめて再び眠りにつく。
そんなオルフェウスを見ていたクロエは、怖がる必要は無いのだと安心させたかった。
マルティネス公爵家の者が誰も迎えることのできなかった30歳の誕生日を盛大に祝おうと準備をしていたのだが、ここに来るまで不安な気持ちにさせてしまった事に申し訳なくも思った。
「驚かせてしまってごめんなさい…」
「いや、良いんだ。私もクロエも、これからもずっと共に生きていけるとわかったんだ。これ以上に幸せな事はないよ」
「二人の成長を見て、孫の顔を見るって約束したではないですか」
「あぁ、そうだったな」
そんな話をしていると、クリストフとオリビアが二人に抱き着いた。
「お父様!」
「おかあしゃま!」
後ろからトーマスとアビゲイルが歩いてくる。
「いやぁ、お二人は元気が有り余っているのでこの御老体には辛いですな…」
「そう言いながら率先して遊んでますけどね…」
「二人ともありがとう」
「いえ、オルフェウス様のお子様は私にとって孫のようなものですから…」
クロエに礼を言われたトーマスは涙ぐんで答える。
「本当に良かったです。お誕生日おめでとうございます」
オルフェウスを子供の頃から見守っていたトーマスは嬉しくて仕方がない。
「トーマス泣いてるの…?何処か痛いの?」
クリストフが心配そうに尋ねて、オリビアもトーマスを見つめている。
「痛いの痛いの飛んでいけ!」
「いけー!」
二人の可愛らしいまじないの言葉がダンスホールに響き渡った。
「おや、腰の痛みがなくなった気がします。お二人の優しさのお陰ですね。どれ、またトーマスと遊んでくださいますかな?」
トーマスは喜ぶ二人を連れて遊びに行った。
「調子のいいこと言うんだから…。私も行って参ります」
そう言ってアビゲイルも三人の後を追う。
「今のはもしかして…?」
「二人の言葉にも力が宿っているのかもしれませんね」
クロエはオルフェウスの手を握って向かい合う。
「強く思えば相手にも優しい気持ちが伝わると母が…」
「そうか…」
「今は幸せですか?」
「これ以上ない程に幸せだよ」
「だから言ったでしょう?私達には絶対に幸せな未来しかないと…」
「そうだったな。クロエが言った事は全て実現するんだった」
オルフェウスが夜中に飛び起きることも、夢だと不安に思うこともなくなるだろう。
隣にはいつもクロエがいる。可愛い子供達に信頼できる使用人たち、皆が笑顔で過ごしている。
これは夢でも妄想でもない。
オルフェウスはようやく呪いの呪縛から解放され、これからの未来に向かって歩き始めたのだった。
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