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第十七話
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「クリス!」
下から呼ばれて目線を下げると、そこにはウィルが居た。
「クリス、飛び降りるんだ!」
そう叫ぶウィルを見て、ウィルフレッドは笑った。
「君は何を言っているんだい?まるで僕から逃げたいみたいじゃないか。それに、クリスティーナは僕の側室になるんだ。君みたいな薄汚い人間が気軽にクリスと呼ばないでくれ」
ウィルフレッドはクリスティーナに向き直り「中に入ろう」と言って手を差し伸べる。
「クリス!」
ウィルに再び呼ばれたクリスティーナは手すりに脚をかける。スカートが捲れ上がって足が露わになると、ウィルフレッドは慌てて後ろを向いた。
「クリスティーナ、君が肌を見せていいのは僕の寝室だけだよ。早くこっちに戻るんだ」
(こんなところも王子さまで助かったわ)
横目でウィルフレッドを見た。
二階のバルコニーは地面からは高くて、いざ飛び降りようとするも足が竦んでしまったクリスティーナ。
「訓練を思い出せ!俺を信じるんだ!」
クリスティーナが両手と足に力を入れて柵を飛び越え、それをウィルが受け止めてくれる。
「お転婆な性格が役に立ったな。痛いとこ無いか?」
久しぶりに見るウィルは相変わらず優しかった。
「ありがとう。また助けられたわね。どうしてここに居るの?」
ウィルが答える前に、上から大きな声が降ってくる。
「クリスティーナ!僕の頼みを断るのかい?僕は君のことをずっと探していたんだよ。さぁ、駄々を捏ねていないで僕とイディオに帰ろう」
クリスティーナはウィルの手を取って走り出した。
城の外に向かう途中、オリバーが追い掛けて来て叫ぶ。
「ウィル!何をしているんだ!」
「悪いな」
二人はそのまま夜の暗闇に消えていった。
王城では…
怒り狂ったウィルフレッドが部屋から連れ出されるのを、ジェームズ達は隠れて見ていた。
クリスティーナの居るバルコニーにウィルフレッドが出て行くのが見えたので
慌てて助けに行こうとすると、オリバーに止められたのだ。
「私の子飼いが見ている。殿下はクリスティーナ嬢を平民だと思っているらしい。貴殿が出てしまえば気付かれてしまう。この場は任せて隠れているんだ」
事を荒立てたくないと言われてしまい、二人は見つからないように陰に隠れる。
「あの声は…」
クリスと叫ぶ声を聞いたオリバーは急いで会場を後にした。
ウィルの声だと気付いた二人は
(ウィルが居るならなんとかなるかも知れない…)
クリスティーナの無事を祈るしかなかった。
クリスティーナが攫われたと喚くウィルフレッド。
王家の使用人達に宥められ、用意された部屋に戻った。
それでも怒りは収まらない。
「クリスティーナは僕を愛しているんだ。僕のためにお洒落をして忍び込んでまで会いに来たんだ。それなのに、薄汚い平民の分際で僕からクリスティーナを奪うとは…」
「どうかお怒りを鎮めてください」
フォーリュの使者に懇願されて、ウィルフレッドは訴える。
「それならクリスティーナをここに連れて来るんだ。彼女は僕の側室だよ?薄汚い男から助け出して、僕の顔を見せて安心させなくてはいけない。わかるだろう?」
そうでなければ戦争だ。
不穏なことを言うウィルフレッドに怯えた使者はランダーズ王の元まで走る。
ランダーズとオリバーがなんとか交渉し、1ヶ月の猶予を貰いクリスティーナを探し出すと確約した。
伯爵令嬢だと知られてしまえば、婚約者のいないクリスティーナは逆らえない。
平民だと誤解されたままならば、ほとぼりが冷めるまで逃げ切ればどうにかなると思ったのだ。
とにかく、ウィルフレッドが居てはジェームズとも話ができない。時間を稼ぐことを優先した。
そして翌日の朝
ウィルフレッドは笑顔で脅しの言葉を置き土産に、イディオへと帰国する。
自分がいなくなった後にそんな恐ろしい事が起こっているとは知らないクリスティーナ。
ウィルと話しながらターナー領に向かって歩いていた。
「元気だった?」
「あぁ、クリスは?」
「私もよ。今でも羊の世話をしているの。出来た毛糸で編み物もしているわ。少しずつ売れてきているのよ?」
「そうか、頑張ってるんだな」
クリスティーナは繋がれたままの手を見る。
「どうしてあそこに居たの?」
「ちょっと野暮用でな」
「そう…。教えてはくれないのね。でも、助かったわ。ウィルがいてくれて良かった」
当たり障りのない話をして、屋敷の前まで来てしまった。
「ねぇ、ウィルはオリバー卿のご子息なの?もしそうなら、私のこん…」
「違うよ。俺は平民だ」
クリスティーナは最後まで言わせて貰えなかった。
「なんで…?どうして牧羊犬をクリスって名付けたの?」
クリスティーナは期待と不安の籠もった目でウィルを見上げる。
「あぁ、たまたまだよ。それでしか反応しなかっただけだ。特に意味はない」
まるで突き放すかのような冷たい声。
「ウィルは私の気持ちに気付いてるんでしょう?」
「気の迷いだよ。歳の近い男が珍しいだけだ。すぐにクリスに相応しい奴が現れるよ」
ウィルはそう言って握っている手を離した。
「違う。私が聞きたいのはウィルの気持ちなの。はぐらかさないで」
「悪い。クリスの気持ちには答えられない」
クリスティーナの目から涙が溢れる。
「だったら…。なんで優しくしてくれたの?なんで助けてくれるの?」
「悪い…」
ふぅ……
クリスティーナは深く息を吸って吐いた。
「ごめんなさい…。感情的になってしまったわね。送ってくれてありがとう。さようなら」
クリスティーナは無理矢理笑顔を作って、屋敷に走って行った。
扉が閉まっても、ウィルは玄関を暫く見つめていた。
(クリスに想ってもらえる程、俺は綺麗な人間じゃないんだよ…)
下から呼ばれて目線を下げると、そこにはウィルが居た。
「クリス、飛び降りるんだ!」
そう叫ぶウィルを見て、ウィルフレッドは笑った。
「君は何を言っているんだい?まるで僕から逃げたいみたいじゃないか。それに、クリスティーナは僕の側室になるんだ。君みたいな薄汚い人間が気軽にクリスと呼ばないでくれ」
ウィルフレッドはクリスティーナに向き直り「中に入ろう」と言って手を差し伸べる。
「クリス!」
ウィルに再び呼ばれたクリスティーナは手すりに脚をかける。スカートが捲れ上がって足が露わになると、ウィルフレッドは慌てて後ろを向いた。
「クリスティーナ、君が肌を見せていいのは僕の寝室だけだよ。早くこっちに戻るんだ」
(こんなところも王子さまで助かったわ)
横目でウィルフレッドを見た。
二階のバルコニーは地面からは高くて、いざ飛び降りようとするも足が竦んでしまったクリスティーナ。
「訓練を思い出せ!俺を信じるんだ!」
クリスティーナが両手と足に力を入れて柵を飛び越え、それをウィルが受け止めてくれる。
「お転婆な性格が役に立ったな。痛いとこ無いか?」
久しぶりに見るウィルは相変わらず優しかった。
「ありがとう。また助けられたわね。どうしてここに居るの?」
ウィルが答える前に、上から大きな声が降ってくる。
「クリスティーナ!僕の頼みを断るのかい?僕は君のことをずっと探していたんだよ。さぁ、駄々を捏ねていないで僕とイディオに帰ろう」
クリスティーナはウィルの手を取って走り出した。
城の外に向かう途中、オリバーが追い掛けて来て叫ぶ。
「ウィル!何をしているんだ!」
「悪いな」
二人はそのまま夜の暗闇に消えていった。
王城では…
怒り狂ったウィルフレッドが部屋から連れ出されるのを、ジェームズ達は隠れて見ていた。
クリスティーナの居るバルコニーにウィルフレッドが出て行くのが見えたので
慌てて助けに行こうとすると、オリバーに止められたのだ。
「私の子飼いが見ている。殿下はクリスティーナ嬢を平民だと思っているらしい。貴殿が出てしまえば気付かれてしまう。この場は任せて隠れているんだ」
事を荒立てたくないと言われてしまい、二人は見つからないように陰に隠れる。
「あの声は…」
クリスと叫ぶ声を聞いたオリバーは急いで会場を後にした。
ウィルの声だと気付いた二人は
(ウィルが居るならなんとかなるかも知れない…)
クリスティーナの無事を祈るしかなかった。
クリスティーナが攫われたと喚くウィルフレッド。
王家の使用人達に宥められ、用意された部屋に戻った。
それでも怒りは収まらない。
「クリスティーナは僕を愛しているんだ。僕のためにお洒落をして忍び込んでまで会いに来たんだ。それなのに、薄汚い平民の分際で僕からクリスティーナを奪うとは…」
「どうかお怒りを鎮めてください」
フォーリュの使者に懇願されて、ウィルフレッドは訴える。
「それならクリスティーナをここに連れて来るんだ。彼女は僕の側室だよ?薄汚い男から助け出して、僕の顔を見せて安心させなくてはいけない。わかるだろう?」
そうでなければ戦争だ。
不穏なことを言うウィルフレッドに怯えた使者はランダーズ王の元まで走る。
ランダーズとオリバーがなんとか交渉し、1ヶ月の猶予を貰いクリスティーナを探し出すと確約した。
伯爵令嬢だと知られてしまえば、婚約者のいないクリスティーナは逆らえない。
平民だと誤解されたままならば、ほとぼりが冷めるまで逃げ切ればどうにかなると思ったのだ。
とにかく、ウィルフレッドが居てはジェームズとも話ができない。時間を稼ぐことを優先した。
そして翌日の朝
ウィルフレッドは笑顔で脅しの言葉を置き土産に、イディオへと帰国する。
自分がいなくなった後にそんな恐ろしい事が起こっているとは知らないクリスティーナ。
ウィルと話しながらターナー領に向かって歩いていた。
「元気だった?」
「あぁ、クリスは?」
「私もよ。今でも羊の世話をしているの。出来た毛糸で編み物もしているわ。少しずつ売れてきているのよ?」
「そうか、頑張ってるんだな」
クリスティーナは繋がれたままの手を見る。
「どうしてあそこに居たの?」
「ちょっと野暮用でな」
「そう…。教えてはくれないのね。でも、助かったわ。ウィルがいてくれて良かった」
当たり障りのない話をして、屋敷の前まで来てしまった。
「ねぇ、ウィルはオリバー卿のご子息なの?もしそうなら、私のこん…」
「違うよ。俺は平民だ」
クリスティーナは最後まで言わせて貰えなかった。
「なんで…?どうして牧羊犬をクリスって名付けたの?」
クリスティーナは期待と不安の籠もった目でウィルを見上げる。
「あぁ、たまたまだよ。それでしか反応しなかっただけだ。特に意味はない」
まるで突き放すかのような冷たい声。
「ウィルは私の気持ちに気付いてるんでしょう?」
「気の迷いだよ。歳の近い男が珍しいだけだ。すぐにクリスに相応しい奴が現れるよ」
ウィルはそう言って握っている手を離した。
「違う。私が聞きたいのはウィルの気持ちなの。はぐらかさないで」
「悪い。クリスの気持ちには答えられない」
クリスティーナの目から涙が溢れる。
「だったら…。なんで優しくしてくれたの?なんで助けてくれるの?」
「悪い…」
ふぅ……
クリスティーナは深く息を吸って吐いた。
「ごめんなさい…。感情的になってしまったわね。送ってくれてありがとう。さようなら」
クリスティーナは無理矢理笑顔を作って、屋敷に走って行った。
扉が閉まっても、ウィルは玄関を暫く見つめていた。
(クリスに想ってもらえる程、俺は綺麗な人間じゃないんだよ…)
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