真夜中少女は眠れない

みや

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真夜中少女は眠れない

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目が覚めた。

ついさっきまで眠りについていたのだが、昨日や一昨日と同じく眠る気にはなれず、しょうがないので理良りらはゆっくりとベッドから起き上がった。

寝起きにしては冴えた目で時計を見やると、針は午前1時半をさしている。はあっと無意識に溜め息が漏れてしまう。今日も、眠れなかった。

最近、理良は眠れずにいた。昨日も、一昨日も、今日のような時間に起き、そのまま朝を迎えた。その前は確か眠れたんだっけ、その前は眠れなかったな······。まあとにかく、最近眠れていないのだ。

その理由は、きっと自分で分かっている。でも、自分でどうにかできる問題ではない。理良は再び溜め息をついた。

眠れないことに対して開き直った理良は、顔を上げ、ふと思い出す。


「星······」


───夜中の1時から3時が、いちばん星がきれいに見えるんだよ。

“彼”は優しい声で、そう教えてくれた。急に何を言うんだろう、と不思議に思った理良に、“彼”はこう続けた。

───11時から12時の、人が起きている時間は、人間が生活する明かりで見えないでしょ。
───でも、4時になると太陽が出始めて明るくなってきちゃうから、その間の時間。

そうだね、と相槌を打つ理良の横で、“彼”は言った。「いつか、見に行こうね」と。

そう、それは、数年前にした遠い約束だった。

今も覚えてるなんて────


「笑っちゃう」


自嘲を含んだ声が、暗い部屋に響く。理良の声以外には何も聞こえず、また、それはただ孤独を一層理良に感じさせるのだった。



“彼”は、理良が小学生の頃の同級生で、星や空が好きな男の子だった。

小学5年生のときに“彼”が向かいの家に引っ越して来てから一緒に帰るようになり、優しかった“彼”はその度に、理良に星の話をしてくれた。

寝る前の短い時間に、2人で家の近くの丘に行き、“彼”と何回も星を見た。

星の話をしているときも、空を見上げているときも、理良は楽しかった。

だが、中学生になる前、仕事で忙しかった“彼”の父は転勤することになり、“彼”と“彼”の母を連れて、遠くの町へ引っ越してしまった。

“彼”がいなくなり、理良はとても寂しかった。

しかしそれから5年が経ち、高校3年になった理良の元に、“彼”は再びやって来たのだ。“彼”は理良の学校に転入してきた、しかも同じクラスだ。再会を果たし、理良はとても嬉しかった。

でもそれは束の間の幸せだった。“彼”は理良のことを覚えていなかったのだ。

話し掛けても、昔のあだ名で呼んでも、“彼”は思い出してはくれなかった。それどころか“彼”は、理良を避けるようになっていった。

“彼”は男子だけでなく女子にも人気で、“彼”に避けられると同時に、理良はクラスの女子達の反感を買うようになっていった。それはだんだんと目に見えないものから物理的なものに変わっていく。面白いと思ったのか、いつからか男子達も一緒に〈嫌がらせ〉をするようにもなっていったのだった。

ごみ箱に捨てられた上履き、油性ペンで表紙に暴言を書かれたノート。

理良はそれでも、“彼”の顔を見るために毎日学校に通った。

しかし理良は昨日、知ってしまったのだ。

“彼”がこの〈嫌がらせ〉をするように指示していたこと、
そして"彼"は1年前、交通事故で両親も記憶も失っていたこと。



眠れなくなり始めた頃、否、〈嫌がらせ〉が始まった頃は、孤独に耐えることができずに、怒りや悔しさ、空しさをほぼ毎日、ハサミやカッター、カミソリで自らの左腕にぶつけていた。 ───今もたまに、やってしまうのだが。

人差し指で傷痕をなぞる。こうすると落ち着くこともあるし、切ったときの暗い感情が蘇ることもある。切ると落ち着くが、出来るだけ切りたくはない。理良は傷に触れるのをやめた。

しかし、こうしてベッドの上にじっと座って朝を待つのも退屈だ。そう思い理良は、ぱっと思い浮かんだ曲のサビを、この世界の誰も起こさないように気を付けながら口ずさんでみた。


「月がーあたしにほほえむー」


女性が歌う、今はもう引退してしまった5人組バンドの曲。


「おひさまーはしーずんで見ーえーなーい」


“彼”と一緒に聴いた、穏やかなテンポの優しい曲。


「あなーたが、遠くなってーも」


今の自分と同じ、失恋してしまった真夜中の女の子の曲。


「あたーしは、前を向く」


声が震える。自分でも泣きそうなのが分かった。

月があたしに微笑む、
お日様は沈んで見えない。
あなたが遠くなっても───


「私は、前を向く」


ぽろぽろと雫が落ちる。落ちても落ちても溢れて止まらないそれは、じわじわと服の袖を濡らしていく。

泣いたのは久し振りだった。否、やっと泣けたのだろうか。


「ありがとう、大好きだったよ、 “彼” くん」


この日から、理良は落ち着いて眠れるようになった。

しかし、“彼”が理良のことを思い出すことは、これからも無いのだった。



                                   ───Fin
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