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プロローグ 『初めての気持ち』

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 新学期の初日。

 それは誰もが期待と不安を抱く日。



「おはよう、はる」



 後ろからそんな声がした。

 ふゆだ。



「おはよう」



 ふゆは俺の数少ない信頼できる友人。



「今年も同じクラスか! よろしくな!」



「うん」



 明るくて、優しい奴だ。

 こんな口数の少ない俺にも話しかけてくれる。

 ぼっちにならなかったのは、ふゆのおかげだ。



「そういえば、しゅうは別のクラスなんだな」

「そうみたいだね」



 1年の頃はよく三人で遊んだものだ。

 しゅうがいないのは残念だけどこればかりは仕方ない。



 その時だった。

 1人の女子生徒が教室に入ってきたのだ。

 その刹那、はるの視界に入ってきたのは、可憐な少女。

 その時、はるは思考を停止。

 否、放棄したのだ。



「それでさー、母さんが……」

「……」

「って、おーい聞いてるか?」



 耳に入るわけもない。

 はるにとってそれは初めての感覚。

 体は熱くなり、己の鼓動が高鳴り彼女からは目を離せない。



 (なんだこれ、新手の金縛りか……?)



 この現象、事象の正体はなんなのか。

 それはすぐに分かった。



 それは一目惚れ。

 そして初恋である。



「だ、大丈夫かはる。すげえ顔赤いぞ」

「えっあ、あぁ」



 慌てて我に返る。

「大丈夫。大丈夫なんでもないよ」

「そうか、ならよかったけど」



 ばれるわけにはいかない。

 なぜならそれは、恥ずかしいから。

 好きな人ができたなんて恥ずかしくて言えない。

 名前も知らない人を好きになったなんて言えない。



 はるは、心の中で深く誓った。



 あの子を彼女にできたらすべて言おう。



 と決意した。

 その時だった。

 ふゆは俺の視線のほうに目を向けた。



「あ、なつも一緒のクラスじゃん、やった」

「え」



 ふゆは浮ついた声ではるが見ていた女性を見ながら言った。

 彼女の名前がわかった。

 だがそれ以上に。

 

「知り合いなの?」



 動揺しながらはるは聞いた。



 怖くなったのだ。

 もしふゆとなつという子が仲が良かったら。

 もしどちらかがどちらかを好きだったら。



 それはとても耐えがたいことなのだから。

 だがふゆからはそれ以上の答えが返ってきた。



「うん、付き合ってんだよね」

 

 思考停止。

 頭が真っ白になる。



 一瞬、ふゆの言っていることが理解できなかった。



 だってそれは考えもしないような。

 いや、考えないようにしていたことだから。



「は、はああああああああああああああああああああ!?」



 この日、はるは初恋と失恋を経験した。
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