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第1話『終わりゆく日常』

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 衝撃の真実から数分後、はるたちはホームルームの時間になり先生の話を聞いていた。
 はるの席は窓際の一番後ろでふゆの席ははるの二個前の窓際だった。
 
 女子たちの視線が窓際の席に集まっていた。
 そこに座っているふゆはかなりのイケメンだった。
 整った顔立ち、すらっとした体型に、丁寧にセットしたウェーブの髪型、そして青い海のような瞳。  

 はるはその二個後ろの席から彼を見つめていた。
 そして視線を下に落とす。
 
「大体伝えることは伝えたけどまだ時間が余ってるな、よしじゃあ隣の人に自己紹介でもしてみようか」

 教壇に立っている先生からそのようなことが言われる。 
 グレーのスーツを身にまとい、眼鏡をかけており、教壇の椅子にかける。
 己の茶色い髪をかき、何か名簿のようなものを見ている。

「あの・・・」

 隣の席から小さな声が聞こえるがはるは振り返りもしなかった。  
 無心だった。
 何も考えられなかった。
 何も感じられなかった。
 親友だったふゆが彼女と付き合っていたという事実だけでもおなか一杯なうえに初めて恋した人・なつと付き合っていたなんて、一度に全てを飲み込めなど無茶な話である。

 初恋の人・なつはロングヘアで顔立ちはよく身長は女子の平均ぐらいといったところだ。  
 ピンク色の髪と瞳が特徴的で男子から多大な人気を誇っている。

 はるは自分の学ランや真っ黒な髪の毛をさわり、黒い瞳はより一層光をなくしていた。 
 下を向いていた、いろいろどうでもよくなっていた。

「あのー生きてますか?」

 はるは隣から自分を呼ぶ声に気が付き、隣に目をやる。

 自分の銀髪の髪をいじりながら優しく話しかけてくる。
 彼女はすらりと伸びた手足や白い肌や髪が目立っていた。 
 髪は短く顔はかなり整っている。 
 水色の瞳は星屑のようにきらめき、見つめる者を深い世界に誘う。

「あ、やっとこっち向いてくれた」
 
 彼女はこちらを向いていて優しく微笑んでいる。
 まるで太陽のように輝いていた。
 
 そのときのはるは生きる意味すらなくしていた状態だったがこの世界捨てたもんじゃねえなと思った。
 この男、はるはとてもちょろいのだ。

「あ、え、あ、すみません。気づいてませんでした」
「あ、んーん、いいよ。なにか考え事してたみたいだから」

 ここではるの人見知りが発動する。
 だが隣の天使のような少女はそのことに一切触れない。
 さらにこちらが無視してしまったことに関して寛大な心で許してくれた。
 はるの心が少しざわつく。

「ありがとうございます。それで、えっとなんですか」
「うん、えっと、先生が隣の人と自己紹介してって言ってたから」
「あ、そういうことですか」

 周りを見渡せば皆隣の人と自己紹介をしていた。
 ようやくはるは、今の現状を把握することになる。

「えっと俺はるって言います。好きなことはゲームやアニメを見ることです。よろしくお願いします」
「へえーはるくんかー。よろしくね」

 にっこりと笑いそのように隣の女子が言ってくる。
 正直できのいい自己紹介とは言えないがとりあえず乗り切った。

 そして・・・

「えっと、じゃあ次はあたしの番だね」

そのように言うと彼女は自分の胸に手を当てる。
 
「あたしあき。気軽に呼び捨てで呼んでね。あと敬語も堅苦しいからなしで!趣味は音楽を聴くことと、ゲームやアニメを見ることだよ。これからよろしくね」 

 そのように言うと彼女は嬉しそうに笑って握手を求めてくる。 
 彼女の手は冷たくて柔らかくて小さく、はるの手より一回り小さい。

 女子の手など握ったことのないはるは彼女の手が自分の手にぴったり合っている感じがした。
 その瞬間は永遠に続けばいいと思った。

(女子の手ってこんなにやわらかいんだ・・・)  

 はるの新学期初日の記憶には、二人の女性が強く刷り込まれた。

 ◇

 三日後、はるはふゆと昼ご飯を一緒に食べていた。

「それにしても、はるに初日から女子の友達ができるなんて泣けるよ」
「うるさい」

 昼の教室で机を向かい合わせにしながら、ふゆの席で一緒にご飯を食べていたらそのような皮肉を言われた。
 
 (まあ正直、俺も驚いてるけど)

 正直、はるは自分の気持ちがわからずにいた。
 もちろんなつのことは今でも好きだ。
 だけど話したこともないし、ふゆの彼女、正直付き合えるビジョンが見えない。
 それにあきにも同じような感情を抱いたのも確かだ。
 
 一度自分の気持ちを整理する必要があるとはるは考えた。
 話してみないことにはわからない。
 もしそれで本当になつのことがすきになってしまったら、正直にこの思いを伝えよう。

「そういえばさ、はるってバイトしてんの」
「いや、してないよ」

 お弁当をカバンの中に入れながらふゆがそのようなことを聞いてくる。 

「うちのバイト先今人手不足だからうちでバイトしてみない?」

 そのようなことをふゆがいってくる。
 正直バイトはあまり乗り気がしない、自分の時間を取られるからだ。
 ここは穏便に断ろうと思った瞬間、ふゆが思いもよらない情報を口にする。
 
「なつもいるから仲良くやれるだろうし友達も増えるよ」 

 その言葉に思わず目が飛び出そうになった。
 バイトをすればなつと話すチャンスがやってくる。
 これは思わぬ好機だと思ったはる。
 
「わかった。やる」
「おっけえ。店長に言っとくわ」

 二つ返事でうれしかったのかふゆは嬉しそうにそういった。
 こちらとしても好都合、このバイトで自分の気持ちを理解したい。

 そのように思い、バイトまでの日を過ごしたはる。
 そしてバイトの日はやってくる。

 ◇

 学校が終わりバイト初日、はるはかなり気合を入れていた。
 出勤の20分前にはもうすでについておりいつでも仕事ができる状態だった。

 ふゆとなつの勤めているバイト先は個人経営の飲食店であるにも関わらずそれなりに人気の店だった。
 今日のシフトにはふゆはおらずなつがはるの教育係になったと聞いた。
 正直豪運過ぎて怖い。

 はるが休憩室で待機していると扉が開く音がする。

「あ、早いね」

   そういって扉を閉め自分のロッカーへと向かうのは、なつだ。

「今日からよろしくね、はるくん」
 おしとやかな声で着替えながら彼女はそう言う。

「ふゆから話聞いてるよ。これからよろしくね」
「はい!」

 どこか落ち着く声、あきさんとはまた違った声だ。
 
 そこからはるのバイトは始まった。
 
 マニュアルを一通り教えてもらい今日のバイトは終わる。
 
 ◇
 休憩室にてはるとなつは変える支度をしていた。

「はるくんは物覚えが早くて助かるね」
「いえそんな、なつさんの教え方がうまいだけです」

 謙遜しているように見えるが事実、なつの教え方はかなりうまかった。
 それにわからないことがあればいつでも聞いてねと言われ心強かった。
 なんとなく自分の気持ちに整理がついた気もした。
 
「なつさん、連絡先交換しない?」

 携帯を出し思い切って連絡先を聞くはる。
 連絡が取れなければ前に進めないと思い勇気を出した。

「いいよ」

 返事はあっさりOK、なんか最近うまくいきすぎてると思った。
 けどここからが勝負と思い、一緒に帰ろうと踏み出そうとした。

「あ、あ、」

 声が出ない。
 それもそのはず、はるは人生で一度も女子と帰ったことなどない。
 ましてや付き合うなど・・・

「それじゃ私帰るね。お疲れ様!また明日ね!」

 そういい、扉の前に立ちこちらを向いてにこやかに笑う。

「うん。また明日」
 今日のところは仕方ないとにげるはるだった。
 そしてなつは扉を閉め家に帰った。



 はずだった。

 翌日、なつが行方不明になった。
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