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第2話『頼れる存在』

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 はるが初めてバイトした日の翌朝。
 はるはいつも通りに学校に登校する。
 
「(よし、昨日は連絡先を交換できたから今日の目標はなつと学校で話すことだ)」

 今日の目標を決めていたはる、そこに。

「おはよー」
「あ、おはよ」

 あきが挨拶をしてきた。
 あきは自分のカバンを置き、席に座る。

「なんか今日機嫌いいね。いいことでもあったの?」

 にこやかにあきは言う。

「うん、まあね」

 らしくもない笑顔ではるはそう返す。
 
「昨日からバイト始めたんだけど、同じクラスのなつさんと仲良くなれたんだ」

 誇らしげにはるは言う。
 たとえなつのことが好きじゃなくてもこの事実はかなりうれしいことだ。
 
 そのようにはるが言うとあきは一瞬、笑顔をなくした。
 だが、すぐにいつも通りの笑顔に戻って

「そうなんだ、バイト始めたんだね」
「うん」

 バイトを始めたことが機嫌がよくなった理由ではないが訂正するまでもないので流した。
 そうして会話は終わり静寂の時間が流れる。

 するとチャイムが鳴り先生が入ってくる。
 先生はいつも通り教壇に立ち、出欠確認を始めた。
 
 「えっとなつは休みかな」

 先生がそう言った。
 確かになつの姿が見えなかった。
 昨日はあんな元気だったのに休みということにはるは疑問を感じた。
 だが、その時はあまりきにしなかった。




 なつが学校に来なくなって一週間が経つ。
 なんでも家にも帰っていないそうだ。
 はるは流石に心配になってきていた。
 
 昼休みいつものようにはるはふゆとご飯を食べていた。
 
「なあ、ふゆ。なつっていなくなる前変なとこあったか?」

 なつの彼氏なら何かしていると思いはるはそう尋ねる。
 
「なに言ってんだよ。別になかったんじゃないか」

 ふゆは少し機嫌が悪そうに見えた。
 ふゆは眉間にしわを寄せて唇を噛んだ
 
 はるはここ数日なつのことをあまり聞いていなかった。
 だがさすがに心配でしびれをきらした。

「そうか、心配だな」
「誘拐でもされたんじゃないか」

 はるは目を丸くする。
 確かにその線はあった。
 だけどそれをふゆの口から聞くことになるとは思いもよらなかった。
 冗談か本気かわからないけどふゆの心情が全くつかめない。
 
「なつとは連絡とってないのか」
「あぁ。とってないし、なつのことはなんもしらん」

 連絡を取っていないことにはるは驚いた。

「心配じゃないのか」
「ん?あぁ。別に」

 ふゆは弁当を食べながらどうでもよさそうに答えた。
 ふゆの様子はおかしかった。
 なつのことを心配しているようには見えなかった。

 それから会話はなく昼休みは終わり5時間目が始まった。
 はるは今の状況を整理することにした。

 なつはなんでも親とは連絡を取っているらしい。
 それもあってか警察はなつの捜索をしていない。
 
 家には帰っていないが親とは連絡を取っている。
 正直訳が分からなかった。
 なつの親に事情を聞こうにもはるは、なつの家を知らなかった。

「(はあ、だれか知ってる人いないかな)」

 そのように思いはるは、自分の席で肘をつきながらため息をする。

 その時1つのことに気づいた。

 自分の彼女がいなくなって心配しないほどふゆは薄情者ではない。

 はるはふゆの様子に違和感を覚えた。
 ふゆはなつの家を知っているはずだ。
 なつが家出したとしても、ふゆがそれを知らないはずがない。
 なのに、ふゆは心配そうでもなく、連絡も取っていないと言った。
 それはおかしい。

 もしかしたら、ふゆは何か知っているのではないか。
 なつが無事だと分かっているのではないか。
 それなら安心できるかもしれない。

 でも、もし逆だったらどうだろう。
 ふゆのあの表情は、心配の裏返しだったら。
 はるに不安を煽るようなことを言ったのは実際そのようなことが起きているからかもしれない。

 そう考えると、はるは冷や汗をかいた。
 ふゆや家族が巻き込まれている可能性もある。
 なつが今危険な状況にある可能性もある。

 はるはそんなことを考えてしまった。
 突拍子もない妄想かもしれない。 
 考えすぎかもしれない。

 はるは怖くなった。
 勘違いならそれが一番いい。
 だからはるは自分を安心させるため、なつが無事であると確認するため、調査を始めることを決意する。


 放課後、夕暮れ時の公園にはるは一人で座っていた。
 彼はふゆとなつが巻き込まれた謎めいた事件について調べていたが、手がかりが見つからなかった。
 そこで彼は頼りになる人物を呼び出した。
 その人物とは、かつて数々の事件を解決した天才的な頭脳を持つルーズな奴だった。
「よお。待たせて悪い」

 遅れてやってきたのは茶色い髪をボサボサにしてエメラルド色の瞳でこちらを見下ろすルーズな奴だった。
 彼は自分勝手で無責任だが、探偵ごっこが大好きで事件解決に燃える変わり者だった。
 その名前はーーー

「遅いぞ。しゅう」

 はるは彼の名前を呼んで立ち上がった。
 はるは1年の頃からしゅうと仲が良かった。
 はるにとって彼はしゅう数少ない友人であり、頼れるパートナーだった。
 しゅうは天才的な推理力と観察力を持ち、学校や町で起こった数件の事件を解決に導いたことがあった。
 しゅうは事件に興味を持つだけでなく、正義感や好奇心も強かった。

「悪いな。急に呼び出して」  

 しゅうは軽く笑って謝った。
 しゅうははるに対して特別な感情を持っていなかったが、はるのことを嫌ってもいなかった。
 はるは事件に関心があって一緒に探偵ごっこをしてくれる数少ない人物だったからだ。

「別にいいけどどうしたんだ」
 
 しゅうはベンチに座らずに立ったまま尋ねた。
 彼はベンチに座ると落ち着きがなくなってしまうタイプだった。
 彼は常に動き回って物事を調べたり考えたりすることが好きだった。
 彼の目は鋭くはるの顔を見つめていた。

「ふゆとなつのことなんだけど」

 はるはそう言ってしゅうに真剣な表情を見せた。
 彼はふゆとなつがはるの友人であり、最近行方不明になったことを知っていた。
 はるはなつが何者かに拉致されたり、殺されたりしたのではないかと恐れていた。
 はるはなつを探して助け出したかった。
 そして、もしかしたらしゅうが何か手がかりを持っているのではないかと思った。
 彼は事件に詳しく、ふゆとも仲が良かったからだ。 
 がーーー

「やっぱ帰るわ」

 しゅうはふゆとなつの名前を聞くと顔をしかめた 
 しゅうはそんなことを言いながらそっぽ向いて歩き出した。
 彼ははるに話す気がなかった。 
 その様子にはるは慌てる。

「ま、待って。まだなにも」  
 
 はるはそう言ってしゅうの後を追った。
 はるはしゅうに何か話してほしかった。
 手伝ってほしかった。
 協力してほしかった。

 「ふゆとなつのことに関しては何も言えない」 
 しゅうは冷たく言った。
 しゅうははるの目を見ようとしなかった。
 しゅうははるに危険を及ぼしたくなかった。 

「しゅう!お前何か知ってるのか!やっぱなつは今トラブルに巻き込まれてるのか!」 

 はるは声を張り上げて質問した。
 はるはなつのことが心配だった。

「俺は事件の真相を知ってあいつらを助けたいんだ!」 

 そのように言うとしゅうは足を止める。 
 だがこちらには向いてくれない。

「だから今少しでも情報が欲しい。お前の力が必要なんだ。」

 そのように言うとしゅうはこちらを向いた。  
 はるはしゅうのほうへ駆け寄っていく。  
 そして

「ふっ。一丁前に探偵気取りか?」
 
 しゅうはそんなことを言って嘲笑した。
 彼は明らかに機嫌が悪くなっていた。
 はるは彼の言葉に動揺してしまった。
 彼は思わず足を止めてしまった。

「いずれすべてわかるだろう。それまでおとなしくしてるんだ」

 しゅうは一見きつい一言を投げかけたが、その声色には少し優しさが感じられた。
 彼ははるを巻き込みたくなかったのだろう。
 はるはそんなしゅうの気持ちを察して、納得したように頷いた。

 そして、しゅうはそのまま公園から出て行ってしまった。
 はるは彼を追いかけようとしなかった。
 これ以上聞いても無駄だと思った。

 だがしゅうは明らかに何かを知っていた。
 それならふゆも何か知っているはず。
 
 はるはただただ友人の力になりたかった。
 たとえ危険だとしても。
 友人が危険な目にあっているのだから見過ごせないと。

「(明日、ふゆを尾行しよう。何かあるかもしれない)」

 もしかしたらなつの家がわかるかもしれない。
 なつに会えるかもしれない。
 
 そのようなことを考えながら、今日という一日が幕を閉じる。
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