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130.5話-3
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セレスの話では、最後のピースはセレス自身が月子ちゃんを守り大団円を成功させると誓う事だった。
そして、私との主従契約を切ろうとした理由は、私が消える瞬間に感情のチャネルの封鎖が溶け、私の感情でセレスがニューゲームを選択してしまう可能性を消したかったからだった。海里君が愛する者に執着して心変わりしたのを間近で見たセレスは海里君達のあの別れと自分達を重ねていたのだ。
でも私の気持ちを知った今、解消する必要は最早無い。
私の魂が帰る場所はとても曖昧で、元の祠に戻るにはサンサンが旅立つ時の流れに乗っかるのが確実との事。そしてそれは、最短で四日後、最長でも一週間後だった。
残りの時間は正直、セレスと二人で過ごしたいと思ったけど、寝不足と疲労が酷く、明け方自室に戻って私は何も考えないまま泥のように眠ってしまった。
「アキ?起きて、アキ!……もぅっ!起きてよ、ママ」
「……ん?おはよ、マリちゃ……じゃなくて、はる……」
「ママ、僕、全部知ってるからね」
半覚醒だった頭がマリちゃんの言葉を理解した瞬間、思わず飛び起きてベッドに正座した。全部!?全部って何からナニ!?
「あの……」
「いーよ。Dだし。その代わり僕もする事出来たから、好きな事させてもらうからね!」
「する事?」
「僕も過去の記憶全部手に入れたの!だから旅立ちの時までは、ご主人様の所で過ごさせてもらうから!」
「ご、ご主人様?」
「あ、そうか」
ちょっとぷりぷりしていたマリちゃんは、私の反応に一瞬きょとんとしてから、とても驚いた顔になった。
「僕、今回はママの元で大きくなったけど、それまでの事はママ知らないんだった。その時は一回しか会ってなかったし。不思議だねぇ。ママは何でも知ってるつもりだったよ」
マリちゃんを育てたのは確かに今回が初めてだったけど、そのより前の回でマリちゃんと会った?記憶には無い。
「あのね、僕元々カナト様のペットだったの。その時は知能は並だっけど」
衝撃の告白に顎が、がくーんと落ちてしまった。
前回、カナトが私の元に来た時に、β種で短命のマリちゃんをペットとして所有していたらしい。それを私が可愛いと言った所、それが一族の書類に書き残されたようだ。その時も闇の国に辿り着いていた事から卵をそちらに郵送を駆使して送ったらしい。安直な名前はカナト時代からでした。
どうりでカナトももふるはずだし、妙に似ているというかシンクロしているというか……
しかし、ぼけぼけの頭ではマリちゃんの告白から導かれる可能性をすっかりさっぱり気付けずにいた。
少し寝坊した体でリビングに向かうが誰もいない。はて?と思って少し探すと、転送円の前にハルナツフユが揃っていた。それに……Dやカーク、ストラスもいる。
「えと、みんな、おはよう?」
どこかに行くの?と聞く前に、フユ、カナトが膝をついて礼を執った。
「ご結婚おめでとうございます」
さっき外れたばかりの顎がまた外れそうになり、セレスを見やる。
「言っておくが、俺から言ったわけでは無い。使令や主従契約でそこまで知れるとは思わなかった」
ナツを見ると、苦笑いしていた。
「……おめでとさん」
サタナさんとはかなり前だが恋仲になった事がある。いや、しかし彼にあの頃の記憶は無いし……今回は別になんとも無いはずなのに、なんだか凄く居た堪れない。
てゆうか、これ、もしかしなくても遠く離れたウランさん達にも筒抜けじゃ?
「と、ゆー訳で解散よ解散!甘いもの食べ損ねちゃったけど、まぁ、今回は許してあげるわ。なに?後三日?四日?で帰るんでしょ。そんな野暮はしないわよ!」
「……カークはお片づけが嫌だったんでしょ」
きぃぃっこのネズミめぇ!可愛いわねぇえ!とカークがマリちゃんをグリグリしている横で、ストラスとも最後の挨拶をした。セレスは最後の鍵の説明は済ませたらしい。
騒がしいまま一行は転送円で出て行って、静かな部屋に私達二人が残った。
セレスはこのホームの魔力や聖力を遮断する装置を切って、私の前で月子ちゃんを守る事を誓った。私の中で止まっていた砂時計が落ちる感覚がして、鍵が揃った事が分かる。その砂時計をチャネルで共有して、残りの時間は穏やかに過ごした。
時折セレスの心が乱れて、互いを強く求めたけど、私達の体が溶け合うのは一時で、時間も止まる事は無くて、私の体はどんどん透けて行った。
そして、予定の最短となる今、私は消えつつあった。セレスにとって見送れないまま腕の中で消えるのと、目の前で消えてしまうのは、どちらが後々辛いのだろう。
私を抱きしめて寝ているセレスにキスをする。セレスは愛し合った日から一睡もしていなかった。時間を惜しんで、けれど体も心も疲労がピークになり、明け方に眠ってしまったのだ。起きるはずは無い、と思っていたセレスが目を開けた。
「アキホ……?そばに……」
うん、側にいるよ。
覚醒していない彼の手は空を切った。
――――――――――――――――――――――――――
世界から落っこちるように空に向かった先で、私は最後の仕事をした。月子ちゃんはやっぱりヒロインで、ずっと私を探していてくれた事が分かった。
役割を終えた私はゆるゆると意識がぼやけていく。だけど、この世界に溶けてしまわないよう抗う。マリちゃんに会う。私は、マリちゃんと帰るんだ。
どの位漂ってていたのか分からないくらいの時間が過ぎ、私の中から声がした。私は黒の空間の一部になりつつあったけれど、その中にマリちゃんの魂が入ってきて私を呼んだ。それを核に私はまた形を持った。マリちゃんの魂は、初めて祠からこちらへ来た道を遡って行って、私達は一体になって外に飛び出した。
私が飛び出たのは、私達が異世界に行ってたった数ヶ月後の事だった。
大地君達が行方不明になって、海外から戻ってきたサンサンやひなたさんは私の両親に真実を話す事を決めた。
月子ちゃんのご両親も異世界に縁があったので、子供が行方不明になった両親勢揃いで祠に向かったそうだ。
サンサンかひなたさんが祠に触れれば何かしらの魔力的な変異が見られるだろうから、それを見せてから説明するつもりだったらしい。そして、祠に触れた瞬間祠の中から光に包まれて私が飛び出したとの事。私自身は気絶してたから知らないけど、うちの両親は異世界から娘が帰ってきた事実を受け入れざるを得ない感じだったそうだ。
それはとても私にはラッキーだった。高校は数ヶ月通った後は通信に切り替えた。将来の見通しは良くないけれど、両親を説得した。背に腹は変えられなく、サンサン達にも協力を仰ぐと、将来のキャリアの積み方も具体的なプランを出してもらえた。
異世界で愛した人がいながら帰ってきた事を知った両親は、私に無理強いはしなかった。
そして、セレスとの子を妊娠していた私は、マリちゃんを非嫡出子として産んだ。
そして、私との主従契約を切ろうとした理由は、私が消える瞬間に感情のチャネルの封鎖が溶け、私の感情でセレスがニューゲームを選択してしまう可能性を消したかったからだった。海里君が愛する者に執着して心変わりしたのを間近で見たセレスは海里君達のあの別れと自分達を重ねていたのだ。
でも私の気持ちを知った今、解消する必要は最早無い。
私の魂が帰る場所はとても曖昧で、元の祠に戻るにはサンサンが旅立つ時の流れに乗っかるのが確実との事。そしてそれは、最短で四日後、最長でも一週間後だった。
残りの時間は正直、セレスと二人で過ごしたいと思ったけど、寝不足と疲労が酷く、明け方自室に戻って私は何も考えないまま泥のように眠ってしまった。
「アキ?起きて、アキ!……もぅっ!起きてよ、ママ」
「……ん?おはよ、マリちゃ……じゃなくて、はる……」
「ママ、僕、全部知ってるからね」
半覚醒だった頭がマリちゃんの言葉を理解した瞬間、思わず飛び起きてベッドに正座した。全部!?全部って何からナニ!?
「あの……」
「いーよ。Dだし。その代わり僕もする事出来たから、好きな事させてもらうからね!」
「する事?」
「僕も過去の記憶全部手に入れたの!だから旅立ちの時までは、ご主人様の所で過ごさせてもらうから!」
「ご、ご主人様?」
「あ、そうか」
ちょっとぷりぷりしていたマリちゃんは、私の反応に一瞬きょとんとしてから、とても驚いた顔になった。
「僕、今回はママの元で大きくなったけど、それまでの事はママ知らないんだった。その時は一回しか会ってなかったし。不思議だねぇ。ママは何でも知ってるつもりだったよ」
マリちゃんを育てたのは確かに今回が初めてだったけど、そのより前の回でマリちゃんと会った?記憶には無い。
「あのね、僕元々カナト様のペットだったの。その時は知能は並だっけど」
衝撃の告白に顎が、がくーんと落ちてしまった。
前回、カナトが私の元に来た時に、β種で短命のマリちゃんをペットとして所有していたらしい。それを私が可愛いと言った所、それが一族の書類に書き残されたようだ。その時も闇の国に辿り着いていた事から卵をそちらに郵送を駆使して送ったらしい。安直な名前はカナト時代からでした。
どうりでカナトももふるはずだし、妙に似ているというかシンクロしているというか……
しかし、ぼけぼけの頭ではマリちゃんの告白から導かれる可能性をすっかりさっぱり気付けずにいた。
少し寝坊した体でリビングに向かうが誰もいない。はて?と思って少し探すと、転送円の前にハルナツフユが揃っていた。それに……Dやカーク、ストラスもいる。
「えと、みんな、おはよう?」
どこかに行くの?と聞く前に、フユ、カナトが膝をついて礼を執った。
「ご結婚おめでとうございます」
さっき外れたばかりの顎がまた外れそうになり、セレスを見やる。
「言っておくが、俺から言ったわけでは無い。使令や主従契約でそこまで知れるとは思わなかった」
ナツを見ると、苦笑いしていた。
「……おめでとさん」
サタナさんとはかなり前だが恋仲になった事がある。いや、しかし彼にあの頃の記憶は無いし……今回は別になんとも無いはずなのに、なんだか凄く居た堪れない。
てゆうか、これ、もしかしなくても遠く離れたウランさん達にも筒抜けじゃ?
「と、ゆー訳で解散よ解散!甘いもの食べ損ねちゃったけど、まぁ、今回は許してあげるわ。なに?後三日?四日?で帰るんでしょ。そんな野暮はしないわよ!」
「……カークはお片づけが嫌だったんでしょ」
きぃぃっこのネズミめぇ!可愛いわねぇえ!とカークがマリちゃんをグリグリしている横で、ストラスとも最後の挨拶をした。セレスは最後の鍵の説明は済ませたらしい。
騒がしいまま一行は転送円で出て行って、静かな部屋に私達二人が残った。
セレスはこのホームの魔力や聖力を遮断する装置を切って、私の前で月子ちゃんを守る事を誓った。私の中で止まっていた砂時計が落ちる感覚がして、鍵が揃った事が分かる。その砂時計をチャネルで共有して、残りの時間は穏やかに過ごした。
時折セレスの心が乱れて、互いを強く求めたけど、私達の体が溶け合うのは一時で、時間も止まる事は無くて、私の体はどんどん透けて行った。
そして、予定の最短となる今、私は消えつつあった。セレスにとって見送れないまま腕の中で消えるのと、目の前で消えてしまうのは、どちらが後々辛いのだろう。
私を抱きしめて寝ているセレスにキスをする。セレスは愛し合った日から一睡もしていなかった。時間を惜しんで、けれど体も心も疲労がピークになり、明け方に眠ってしまったのだ。起きるはずは無い、と思っていたセレスが目を開けた。
「アキホ……?そばに……」
うん、側にいるよ。
覚醒していない彼の手は空を切った。
――――――――――――――――――――――――――
世界から落っこちるように空に向かった先で、私は最後の仕事をした。月子ちゃんはやっぱりヒロインで、ずっと私を探していてくれた事が分かった。
役割を終えた私はゆるゆると意識がぼやけていく。だけど、この世界に溶けてしまわないよう抗う。マリちゃんに会う。私は、マリちゃんと帰るんだ。
どの位漂ってていたのか分からないくらいの時間が過ぎ、私の中から声がした。私は黒の空間の一部になりつつあったけれど、その中にマリちゃんの魂が入ってきて私を呼んだ。それを核に私はまた形を持った。マリちゃんの魂は、初めて祠からこちらへ来た道を遡って行って、私達は一体になって外に飛び出した。
私が飛び出たのは、私達が異世界に行ってたった数ヶ月後の事だった。
大地君達が行方不明になって、海外から戻ってきたサンサンやひなたさんは私の両親に真実を話す事を決めた。
月子ちゃんのご両親も異世界に縁があったので、子供が行方不明になった両親勢揃いで祠に向かったそうだ。
サンサンかひなたさんが祠に触れれば何かしらの魔力的な変異が見られるだろうから、それを見せてから説明するつもりだったらしい。そして、祠に触れた瞬間祠の中から光に包まれて私が飛び出したとの事。私自身は気絶してたから知らないけど、うちの両親は異世界から娘が帰ってきた事実を受け入れざるを得ない感じだったそうだ。
それはとても私にはラッキーだった。高校は数ヶ月通った後は通信に切り替えた。将来の見通しは良くないけれど、両親を説得した。背に腹は変えられなく、サンサン達にも協力を仰ぐと、将来のキャリアの積み方も具体的なプランを出してもらえた。
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