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51 アッサム視点

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 明け方近く、カリンを部屋に送り届けた。あどけない顔で眠る彼女をベッドに横たえ、額に軽くキスをする。

 妙に冴えてしまって全く眠くないが、このまま朝を迎えるのも良くない。

 魔力が増大した結果、スキルは細かく強く使いこなせる様になった。今は色香のスキルの一部である、自分自身への羞恥心抑制を最大にまで利用している。

 先程まで油断のスキルを微調整して、カリンの抑制系の抑制には強弱をつけていた。真っ赤になっていた彼女の羞恥心抑制は軽度に抑制していて、素の彼女でいるよりは羞恥心を感じにくくしていた。
 それでもあの反応だったのだから、自分だって羞恥心抑制を切って昨夜の事を思い出しでもしたら、羞恥心で即死するに違いない。

「まだだ。もっと調整力つけねぇと」

 色香を構成してる一部を使えば、他の色香の効果も出てしまう。魅了を振り撒くと被害が多いのはナルニッサを見ていればよく分かる。昨晩も子女を相手に鬼ごっこ柄繰り広げられたに違いない。

 少し寝て、落ち着かなくては。と思い廊下を歩いていると、自分の部屋の前に雨情が座っていた。

「よぉ色男、ちょお顔かせや」

 予想はしていた。だから、部屋に招き入れた。
 内容が内容だから、もてなす気は互いにサラサラ無い。
 扉を入ったすぐ近くで、雨情は用件を済ませるつもりの様だ。

「まとまった様で、おめでとさん。カリンな、お前好きすぎで泣いとったんじゃ。痴話喧嘩も大概にしいや。せやないと、しゃしゃってくる奴もおるんやで?しんどい時にちょっと頼れるダチでいさせろや」

 表情は気の抜けた様な、ヘラヘラした笑顔だ。だが、その瞳からは刺す様な殺気を感じる。人生でこれ程の殺意を向けられた事は、無い。雨情がスッと瞬きをすると、その殺気は霧散した。

「ほな、な。それだけ。あの話もあるし、後はちゃんと仲間やったる」
「言いたい事は本当にそれだけか?」
「……俺寝てへんねん。寝る瞬間、まだ誤作動してまう時あってな、まぁそう言う事や」

 昨晩の様子を見ない様にするために、部屋の前で待っていたという事か。何か言わなくては、と思った。感謝でも謝罪でもない何かは形にならず、あくびをして去ろうとする雨情の肩を掴んだ。掴んだ瞬間その手を掴み返される。

「なんやねん?」
「お前はカリンの事を?」
「カリンには一生言うつもりはあらへん。俺が役不足なんは知っとる。アイツが笑っとったらそれでええねん。言うても困らすだけやし」

 やれやれと言った感じで、掴まれた手が緩んだ。と同時に胸ぐらを掴まれた。

「次カリン泣かせたら殺すぞ、こら」

 油断していたとは言え、体勢を崩した俺の耳元で雨情は凄んだ。こいつ……、体術のレベルが違う。

 思わず咳き込んだ俺を、投げる様に解放して、雨情は無言で扉から出て行った。

「これは、うかうかしてられねぇな」

 カリンは守る。誰にも譲らない。だが、手に入ってもなお、安心は出来なさそうだった。

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