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ダメ!それは私の!
第49話 セッタと葛藤
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森の様子がおかしい。
メグルと別れてしばらく経ってからの事。
シバを探し、山奥に向かっていると、辺りから嫌な臭いが立ち込めてきた。
これは普通の匂いではない。魔力の香りだ。
しかし、いつものように食欲をそそるようなものでなく、吐き気すら覚える様な黒くてドロドロとした異臭。
嫌な臭いに感じるという事は体が危険信号を発している証拠だ。
はやく退いた方が良い。
獣の勘が行くなと言っている。
しかし私は獣ではない。もうあの頃の私ではないのだ。
それを証明するように前に足を進める。
家族として、姉として。
弟を迎えに行くために。
先に進むほど濃くなる悪臭。
鼻の利かないこの状態は、それだけで危険だ。
ましてや何が潜んでいるかもわからないこの現状。
唯一の救いはメグルを連れてこなかった事か。
こんな状況でも。
いや、こんな状況だからこそ、シバはこの先にいるファイストのそばを離れないだろう。
なんせ、ファイストはシバの実の母親だ。
仮令もう二度と動く事は無くとも…。
墓場の近く、佇むシバの姿が見えてくる。
臭気はあの場から放たれているようだった。
ファイストはこの場でシバを庇う様に死んだ。
辺りに植物が生えていないのはシバが母親を森に帰したくない一心で腐敗しない土を集めてきたからである。
後にメグルが「粘土だ!」と言って大量に集めていたが、私達の体の構造で土を持ち運ぶことは容易でない。
それこそ口に含んで持ち歩く他ないのだ。
一度で運べる量は微々たるもの。
それをここまで集めたのだから、シバの執念は途方もないものがあるだろう。
そして今も尚、他の生き物に掘り返されぬように見張り、時折生えてくる植物の芽もむしり取っているのだ。
当時、私はその執着に恐怖した。
いや、正直に言えば今も怖いのだ。
なんせ、あの時シバを見捨てたのは私で、それを庇った結果、ファイストが死ぬ破目になったのだから。
始めの内、私はシバが付きまとう事を当てつけの一種だと考えていた。
何故なら、それだけ愛していた母親を殺したも同然の相手なのだから。
しかし、あの場を最小の犠牲で乗り越えるにはシバを見捨てるのが最適解だったのだ。
私達は群れで生きるもの。それを理解していると思い込んでいた。
ある日、突然母さんが帰ってこなくなった。
匂いは雨のせいで散り、増水した川で完全に途絶えていた。
私は群れを招集して捜索したが、一向に見つかる気配がなく、皆諦めた様な雰囲気だった。
雨で増水した川に流されたのだろう。
そうなれば助からない。
それよりも私たちの食糧を用意しなければ。
皆がそう言いたげだった。
それだけはあり得ない。あり得てはいけない。
私は昼も夜もなく一人探し続け、群れの皆も去っていった。
その時ようやく理解したのだ。
理解したつもりになっていたシバの気持ちを。
シバは聡明だ。
群れとして私のとった行動に理解を示してくれている。
ただ、今も帰らぬ人を待ち続けているのだけ。
ただそれだけ、それだけなのだ。
結論から言えば十数日後に母さんは一人で洞窟に戻ってきた。
母さんは迷っていた所をシバに見つけてもらい、ここまで送ってきてもらった。と話していた。
しかし、そんな事は当時の私の頭には入らなかった。
元気そうな母さんの顔を見る事ができた。
それだけで一杯いっぱいだったのである。
私は全ての疲労から解放され、倒れるように眠った。
母さんの体からは知らない人間の血の匂いが漂っていた。
しかし、笑顔で帰ってきた。それだけで十分だったのだ。
…きっとシバにとってもそれだけで十分なのだ。
…何となく察していた。この異臭の元凶。
今のシバの横にはおどろおどろしい魔力を帯び、ボロボロになったファイストが立っている。
シバが”ソレ”に安心したような表情で顔を擦り付けていた。
甘えているシバを見るのは何年ぶりだろうか。
対する”ソレ”に表情はない。唯、立っているだけ。
そう思わせる程に生気が感じられなかった。
シバは優しい子だ。母さんが森を彷徨っている時、洞窟まで誘導してくれた。
人間嫌いの彼が、母親を殺したも同然な私の願いを叶えてくれたのだ。
しかし、シバにそんな気はないだろう。
知っている相手が前にいた。
助けらそうだったから助けた。
ただ、それだけなのだ。
それから私は群れをつくるのを止めた。
皆が互いに互いを大切に思える相手。家族を集めた。
それが今の形なのである。
今でもシバの優しさは変わらない。
人間とは言え、自分と似た。年齢に対して分不相応に聡明なメグルを放っておけなかった。
他にも弱い群れを援助していることだって知っている。本当に優しい子なのだ。
そんな彼がこちらに気づき、鋭い眼光で私を睨みつける。
優しいシバにそんな顔をさせているのは今の私だ。
…私が悪かった。
彼を見殺しにした事も、彼の苦しみに気づけなかったことも、それに気づいた後、今の今まで向き合う事から逃げ続けていたことも。
彼女の魔力は不安定だ。
早急にその魔力を安定させなければ、彼女はただの屍に戻ってしまうだろう。
それは彼にとって望まない事だ。
私は伏せて身を差し出す。
私ごとその魔力を食らえば彼女は安定する。そう思ったのだ。
しかし、彼は私を一頻り睨んだ後、彼女を連れて山を下りて行った。
何をする気なのかは何となく予想がついている。
人間の村を襲いに行くつもりなのだろう。
奴らはシバの仇であり、今の彼女の魔力を安定させる良い食糧だ。
しかし今、村にはメグルがいる可能性がある。
私はシバを止めようとした。
…足が動かなかった。
シバの気持ちを考えるととてもではないが止められない。
かと言ってこのままではメグルとシバ、双方が悲しむことになる。
ただ、人間の村を襲わなかった場合、いくら動物たちを早く狩った所でファイストの崩壊には間に合わないだろう。
どうする?!どうすれば良い!
結局私はその場から一歩も動く事ができなかった。
メグルと別れてしばらく経ってからの事。
シバを探し、山奥に向かっていると、辺りから嫌な臭いが立ち込めてきた。
これは普通の匂いではない。魔力の香りだ。
しかし、いつものように食欲をそそるようなものでなく、吐き気すら覚える様な黒くてドロドロとした異臭。
嫌な臭いに感じるという事は体が危険信号を発している証拠だ。
はやく退いた方が良い。
獣の勘が行くなと言っている。
しかし私は獣ではない。もうあの頃の私ではないのだ。
それを証明するように前に足を進める。
家族として、姉として。
弟を迎えに行くために。
先に進むほど濃くなる悪臭。
鼻の利かないこの状態は、それだけで危険だ。
ましてや何が潜んでいるかもわからないこの現状。
唯一の救いはメグルを連れてこなかった事か。
こんな状況でも。
いや、こんな状況だからこそ、シバはこの先にいるファイストのそばを離れないだろう。
なんせ、ファイストはシバの実の母親だ。
仮令もう二度と動く事は無くとも…。
墓場の近く、佇むシバの姿が見えてくる。
臭気はあの場から放たれているようだった。
ファイストはこの場でシバを庇う様に死んだ。
辺りに植物が生えていないのはシバが母親を森に帰したくない一心で腐敗しない土を集めてきたからである。
後にメグルが「粘土だ!」と言って大量に集めていたが、私達の体の構造で土を持ち運ぶことは容易でない。
それこそ口に含んで持ち歩く他ないのだ。
一度で運べる量は微々たるもの。
それをここまで集めたのだから、シバの執念は途方もないものがあるだろう。
そして今も尚、他の生き物に掘り返されぬように見張り、時折生えてくる植物の芽もむしり取っているのだ。
当時、私はその執着に恐怖した。
いや、正直に言えば今も怖いのだ。
なんせ、あの時シバを見捨てたのは私で、それを庇った結果、ファイストが死ぬ破目になったのだから。
始めの内、私はシバが付きまとう事を当てつけの一種だと考えていた。
何故なら、それだけ愛していた母親を殺したも同然の相手なのだから。
しかし、あの場を最小の犠牲で乗り越えるにはシバを見捨てるのが最適解だったのだ。
私達は群れで生きるもの。それを理解していると思い込んでいた。
ある日、突然母さんが帰ってこなくなった。
匂いは雨のせいで散り、増水した川で完全に途絶えていた。
私は群れを招集して捜索したが、一向に見つかる気配がなく、皆諦めた様な雰囲気だった。
雨で増水した川に流されたのだろう。
そうなれば助からない。
それよりも私たちの食糧を用意しなければ。
皆がそう言いたげだった。
それだけはあり得ない。あり得てはいけない。
私は昼も夜もなく一人探し続け、群れの皆も去っていった。
その時ようやく理解したのだ。
理解したつもりになっていたシバの気持ちを。
シバは聡明だ。
群れとして私のとった行動に理解を示してくれている。
ただ、今も帰らぬ人を待ち続けているのだけ。
ただそれだけ、それだけなのだ。
結論から言えば十数日後に母さんは一人で洞窟に戻ってきた。
母さんは迷っていた所をシバに見つけてもらい、ここまで送ってきてもらった。と話していた。
しかし、そんな事は当時の私の頭には入らなかった。
元気そうな母さんの顔を見る事ができた。
それだけで一杯いっぱいだったのである。
私は全ての疲労から解放され、倒れるように眠った。
母さんの体からは知らない人間の血の匂いが漂っていた。
しかし、笑顔で帰ってきた。それだけで十分だったのだ。
…きっとシバにとってもそれだけで十分なのだ。
…何となく察していた。この異臭の元凶。
今のシバの横にはおどろおどろしい魔力を帯び、ボロボロになったファイストが立っている。
シバが”ソレ”に安心したような表情で顔を擦り付けていた。
甘えているシバを見るのは何年ぶりだろうか。
対する”ソレ”に表情はない。唯、立っているだけ。
そう思わせる程に生気が感じられなかった。
シバは優しい子だ。母さんが森を彷徨っている時、洞窟まで誘導してくれた。
人間嫌いの彼が、母親を殺したも同然な私の願いを叶えてくれたのだ。
しかし、シバにそんな気はないだろう。
知っている相手が前にいた。
助けらそうだったから助けた。
ただ、それだけなのだ。
それから私は群れをつくるのを止めた。
皆が互いに互いを大切に思える相手。家族を集めた。
それが今の形なのである。
今でもシバの優しさは変わらない。
人間とは言え、自分と似た。年齢に対して分不相応に聡明なメグルを放っておけなかった。
他にも弱い群れを援助していることだって知っている。本当に優しい子なのだ。
そんな彼がこちらに気づき、鋭い眼光で私を睨みつける。
優しいシバにそんな顔をさせているのは今の私だ。
…私が悪かった。
彼を見殺しにした事も、彼の苦しみに気づけなかったことも、それに気づいた後、今の今まで向き合う事から逃げ続けていたことも。
彼女の魔力は不安定だ。
早急にその魔力を安定させなければ、彼女はただの屍に戻ってしまうだろう。
それは彼にとって望まない事だ。
私は伏せて身を差し出す。
私ごとその魔力を食らえば彼女は安定する。そう思ったのだ。
しかし、彼は私を一頻り睨んだ後、彼女を連れて山を下りて行った。
何をする気なのかは何となく予想がついている。
人間の村を襲いに行くつもりなのだろう。
奴らはシバの仇であり、今の彼女の魔力を安定させる良い食糧だ。
しかし今、村にはメグルがいる可能性がある。
私はシバを止めようとした。
…足が動かなかった。
シバの気持ちを考えるととてもではないが止められない。
かと言ってこのままではメグルとシバ、双方が悲しむことになる。
ただ、人間の村を襲わなかった場合、いくら動物たちを早く狩った所でファイストの崩壊には間に合わないだろう。
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