Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
128 / 132
おいで。早く、おいで…。

第125話 リリー of view

しおりを挟む
 「うっ…」
 気分が悪い。
 バランスを崩した私は、廊下の壁に寄り掛かる。

 体を預ければ、預けた分だけ、ひんやりと冷たい石壁が、私の体温を奪っていく。
 私は、石壁を押し返す様にして、体を引き離した。

 寝不足に、吐き気を催すような自己嫌悪。寝起きからの興奮に、獣用とはいえ、意識を失わせるほどの臭気。そして、今も尚、私の心身を蝕む、薄暗く、冷たい、地下の空気。

 ……あの薬で、どれだけの人が、死ぬのだろう。
 ふと、過った考えを振り解こうと、頭を左右に振る。

 そもそも、この村の住人は、彼の実験動物でしかない。死ぬのは時間の問題だった。
 それに、私の殺した、彼の最高傑作だって、あんな状態で生きていても、苦しいだけだったに決まっている。
 毛玉達だってそうだ。もう、魔力を食らう事しか考えられない脳になっていた。殺してあげた方が……。

 本当にそうなのだろうか。

 少なくとも毛玉達は、同じ容器に入っていた同族は、生きている限り襲わなかった。
 彼の最高傑作だって、私なら、治せたかもしれないのに。
 地下に捕らわれた人達や、村人だって、逃がす方法は……。

 「違う…!違う違う違う!」
 今、彼らを救って、何になる!また、何処かで、別の誰かが、犠牲になるだけだ!

 次々と湧き上がる、無駄な考えを、頭ごと、石壁に叩きつける。
 私が…。私が、今、ここで逃げたらお仕舞いだ。
 教会に追われる身になれば、こんな機会は二度と来ない。

 大丈夫。私が、権力を持てば、こんな事は止めさせられる。
 知識を付ければ、死んだ人達も蘇る。
 ……メグルにだって、会える。

 今、私にできる事は、皆の苦しみを少なくしてあげるだけ…。早く、終わらせてあげるだけ。
 本当に、皆を救いたいのなら、心を無にして、突き進むしかないのだ。

 「……いたい」
 叩きつけた部分がジンジンと痛む。
 冷たい石壁に、患部を当てると、ひんやりとして気持ちが良かった。

 …冷たさに、身を任せれば、この痛みを忘れられるのだろうか。
 このまま、何も感じなくなっていくのだろうか。
 ……それも良いのかもしれない。

 壁の冷たさに、身も心も、預けようとした時、脳裏に、お姉ちゃんの…。コランの笑顔が浮かんだ。
 あの、なにも考えていない、馬鹿みたいな笑顔だ。

 研究室で、正気を失った時も、そうだった。
 コランが。コランお姉ちゃんの笑顔が、頭に浮かんだ時、冷静になれた。

 ……私は、いつから、お姉ちゃん。と言う単語で、本当のお姉ちゃんよりも、あの阿保らしい笑顔を思い浮かべるようになったのだろうか……。

 頭の中に浮かぶ、阿保らしい笑顔が「そりゃぁ!私の方が、リリーを愛しているからだよ!」と、得意げに、のたまう。
 そんな馬鹿全開の所が、可笑しくて、温かくて……。私を凍り付かせてはくれなかった。

「……馬鹿……。痛いじゃないですか。お姉ちゃん……」
 私は、冷たい石壁から、身を剥がす。

 本当のお姉ちゃんが蘇ったら、お姉ちゃん同士で、喧嘩になるだろうなぁ…。
 だって、二人とも、馬鹿みたいに、私の事が大好きなんだもん。
 
 …まぁ、すぐに、コランお姉ちゃんが、言い包められそうだけど。
 ……でも、その日までは、その日が来るまでは、コランさんを、本当のお姉ちゃんと、認めてあげない事も無い。……可哀そうだからね。

 「クフフッ……」
 誰に言い訳をしているのかと、我ながら可笑しくなる。
 如何やら、馬鹿はうつるらしい。馬鹿の特効薬も、ついでに、開発しなければ。

 とことん、仕事を増やしてくれる、姉である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜
ファンタジー
魔法と、魔導科学が進んだ強大な国、グランダメリス大帝国。 俺は、この国を陰からコントロールする秘密組織でエージェントとして働いている。 今回の任務は、豪華客船で行われる密売の現場を探ることだった。 その任務の途中、俺は第三継王家の王女『メリーナ・サンダーブロンド』と出会うことになる。 メリーナ王女は婚約しようとしていたのだが、俺の軽はずみな行動が彼女の運命を変えてしまった。 その後、なんやかんやあり、俺はメリーナ王女に惚れられることに……。 こんなことは、エージェントとしては絶対にあってはならないことだ。 というわけで、俺はメリーナ王女と別れ、二度と会わないよう工作をした。 それなのに、まさか再び出会うハメになるなんて……。 しかも次の任務は、メリーナを大帝王に即位させることだって!? ――これは最強のエージェントが、乙女の恋心に翻弄されながら、過去最難関のミッションに挑む物語である。 ※『ノベルアップ+』、『ネオページ』にも投稿してます。 ※『小説家になろう』『カクヨム』に投稿し、一度完結済みとなった作品です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...