Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
129 / 132
おいで。早く、おいで…。

第126話 バニヤン of view

しおりを挟む
 「キャァぁぁ!」
 私は、誰かの叫び声で目が覚める。
 目の前には、診察台に縛り付けられた、兄さま。
 …そうだ、昨晩はずっと、寺院で兄さまの看病をしていて……。

 ……なんだか、外が騒がしい気がする。何かあったのだろうか?

 「そっちに行ったわ!」
 職員の声に振り向けば、全身ローブに身を包んだ何者かが、私の眼前を、走り去って行く。
 その者には、尻尾が生えており、移動も四足で行っていた。
 
 私は、魔族だ!と、思い、警戒するが、魔族は、こちらに目もくれず、寺院の外へかけて行く。
 後から、職員も駆け付けたが、その頃には、もう、姿が見えなくなっていた。

 「なによ、あれ……」
 ぽつりと呟く私に、丁度、目の前まで、息を切らしていた、職員の一人が「さぁ?」と、首を傾げる。

  場が落ち着いた後に、詳しく話を聞くと、何でも、重症の患者に、あの魔族が、何かを飲ましていたらしい。
 
 その話を聞いた時、私の中で、様々な出来事がつながる。 
 兄が探していた、黒髪の少女。謎の流行り病。患者に何かを飲ましていた、獣型の魔族…。しばらく前に、隣村の方角で、この村に居ても確認できるほど、大きな爆発が起きた。と、言う事件もあった。
 ……これは、魔族の進行が行われているのでは、無いだろうか。
 そして、この病が、魔族の手によるものだとすれば……。

 「治らない?……」
 口をいて出た言葉に、私は、ハッとなる。
 咄嗟に、口を押えたが、もう、吐いた言葉は、戻らない。

 思っても、口に出してはいけない言葉だった気がした。
 院内は、バタバタとしており、私の発言を気にする者などいない。しかし、そう言う問題ではないのだ。
 口に出したら、認めてしまったような…。もう、兄さまが治らない事を、受け入れてしまったような…。

 ………捕まえよう。魔族を。
 魔族さえ捕まえられれば、この病気だって、治せるはずだ!

 まずは、教会。教会に申し出て、協力を仰ごう!

 寺院を勢いよく飛び出す、私。
 キャァァ!
 ウワァァァ!
 ……村は大騒ぎになっていた。

 状況を把握しようと、辺りを見回す。
 …どうやら、人が、人を襲っている様だった。

 逃げ惑う人々、それを追う人々。
 めちゃくちゃな走り方をしているにも拘らず、どういう訳か、追いかける人間の方が、明らかに、足が速かった。

 そして、捕まった人間は……。食われている。
 人間が人間に食われている。何人もの人間に押さえつけられ、たった一人の人間が、生きたまま、貪り食われる。
 
 …最後の頼みの綱だった、教会は、燃えていた。辺りの家々を巻き込んで…。

 あそこで燃えているのは、私の家ではないだろうか?
 …母さんは、上手く逃げたかな……。
 でも、外に出ていても、早く走れない母さんじゃ……。 

 「ふふふっ…」
 変な笑いが込み上げてきた。
 …魔族がその姿を現した時点で、私たちに勝ち目はなかったのだ。
 彼らは、勝ちを確信したからこそ、姿を見せたのだから。

 体から力が抜け、その場にへたり込む。
 叫び声が止まない。
 ……地獄絵図だった。

 ガシャン!ガシャン!
 「なんだ急に?!」
 「押さえつけろ!」
 「重症の患者だけか?!」
 寺院の中からも、混乱の声が上がっている。
 どうやら、重症の患者が、暴れだしたらしい。
 きっと、あの、魔族に、何かを飲まされた人々だろう。

 …あ。こっちに、人間が来る。
 
 「た、助け!」
 私は、扉を閉め、閂をかける。
 分厚い扉は、外の騒音を緩和してくれた。
 
 寺院の中では、凶暴化した人々はいた物の、皆、元々、拘束具に繋がれた重病者だったが為に、何とか、安全を保っていた。

 母さんは大丈夫だろうか。
 兄さまは助かるのだろうか。
 …………。

 ……疲れた。
 外が五月蠅い。中も五月蠅い。
 こっちは、昨晩の看病で、寝不足だと言うのに…。
 私は、ふらふらとした足取りで、兄さまの元へ向かう。

 「ムグゥ!ムググゥ!」
 この騒ぎで起きてしまったのか、木の棒を噛んで、暴れる兄さま。
 無様で、醜くて、可哀想な、私の兄さま。こんな状態になっても、私は、兄さまが愛おしくて、堪らなかった。

 ……兄さまは、魔族に変な物は飲まされていないはずだ。人間を襲ったりはしないはず。
 ……それに、襲ったから、何だと言うのだ。
 外の獲物がいなくなれば、ここも時間の問題。それに、ここには、食べ物の備蓄も無い。私たちも、狂って、食い合えば良いのか?

 苦しそうに藻掻く、兄さま。
 その理性の欠片も感じられ無い姿は、もはや、獣だった。

 可哀そうな兄さま。私の可愛い兄さま。
 どうせ終わるのなら……。

 「……ごめんなさい…。今、外してあげますね」
 私は、兄さまの拘束具に手をかける。

 もう、何もかも、どうでも良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜
ファンタジー
魔法と、魔導科学が進んだ強大な国、グランダメリス大帝国。 俺は、この国を陰からコントロールする秘密組織でエージェントとして働いている。 今回の任務は、豪華客船で行われる密売の現場を探ることだった。 その任務の途中、俺は第三継王家の王女『メリーナ・サンダーブロンド』と出会うことになる。 メリーナ王女は婚約しようとしていたのだが、俺の軽はずみな行動が彼女の運命を変えてしまった。 その後、なんやかんやあり、俺はメリーナ王女に惚れられることに……。 こんなことは、エージェントとしては絶対にあってはならないことだ。 というわけで、俺はメリーナ王女と別れ、二度と会わないよう工作をした。 それなのに、まさか再び出会うハメになるなんて……。 しかも次の任務は、メリーナを大帝王に即位させることだって!? ――これは最強のエージェントが、乙女の恋心に翻弄されながら、過去最難関のミッションに挑む物語である。 ※『ノベルアップ+』、『ネオページ』にも投稿してます。 ※『小説家になろう』『カクヨム』に投稿し、一度完結済みとなった作品です。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

処理中です...