異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

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旅立ち

第38話

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 《ホゾンショク。そろそろ、ナクなる》
 彼女が、糸ばかり吊り下がる、天井を見て、呟く。
 確かに、彼女の言う通り、天井から吊り下がっている保存食は、合わせても、一日分程度しかなかった。
 
 (そうだな。久々に、狩りに行くか)
 彼女は素直に《ウン》と、答えると、狩りの道具を選び始める。
 
 (よしっ……!)
 俺も準備を手伝おうと、重い腰を上げた。

 (ウッ!!)
 瞬間、腹に激痛が走り、自然と、腰が、元の位置に戻って行く。

 (……大丈夫だ。すぐに……おさまる……。もう、慣れた……) 
 自分に言い聞かせるように、呟くと、俺は、呼吸を整え、改めて、立ち上がる。

 顔を上げてみれば、彼女が道具を漁る手を止め、こちらを見ていた。
 
 (大丈夫、大丈夫。いつものだから)
 俺は軽い態度で、答えると、準備の手伝いを始める。
 最近は、この痛みのせいで、狩りに出るのをしぶっていたが、食べ物がなくなりかけている今、動かない訳にはいかない。

 それに、足手まといだと言われて、一人で狩りへ出かけられては、たまった物ではないからな。
 実際、今は痛くも痒くもないので、大丈夫と言う表現も、あながち嘘でもない。
 
 そのまま、狩りの準備はとどこおりなく、進む。
 彼女は、準備中も、チラチラと、こちらを見てきたが、何も言わなかった。

 きっと、まだ使えると、判断してくれたのだろう。
 このような点は、奴隷冥利みょうりに尽きる、数少ない状況だ。
 
 (今は、あんまり、派手に動けねぇから、コレと、コレ……。後は、また大量に持って帰ってきたいから……)
 《コレ》
 俺が探していた、持ち運び用のネットを差し出してくる彼女。

 (お、おう。ありがとな……)
 俺は、最近の彼女の変化に驚きながらも、それを受け取る。
 相変わらず、無表情だが、優しさと言うか、気配りと言うか……。そう言う事をするようになってきた気がする。
 これも、擬態の練習なのだろうか?

 (んじゃ、行きますか)
 準備を終えた俺は、彼女に声を掛けた。
 
 《ワカッタ》
 彼女は、そう答えると、俺より先にドアに手を掛ける。
 
 《…キョウこそ、ワタシ、ヒトリで、カリするカラ》
 ドアを抜ける瞬間、急に、彼女が、そう呟いた。
 
 (おいおい、どうしたんだよ、急に……)
 俺は、戸惑とまどいつつも、急いで後を追いかけ、なだめに掛かる。
 
 《キュウ、チガウ。マエにもイッタ》
 俺を避けるように、糸を使って、スルスルと、幹を下りて行く彼女。
 
 (べ、別に、今まで通り、俺がやれば良いじゃないか!それに、お前だって、最初は、危険な事は、俺がやれば良いって、言ってたじゃないか!)
 俺も、急いで、その後を追うが、木の幹を身重みおもの体で、駆け降りるのは、無理があった。
 
 《マエと、イマは、チガウ。……ソレに、イマのウチ、レンシュウ、シテ、オクしないと、ルリに、ナニか、アルしたトキ、ワタシ、コマル》
 先に地面に降り立った彼女は、どんどんと先に進んでしまう。
 
 止めたいのは山々だが、体も追いつかない上に、今、彼女の言った事は正しかった。
 俺が、不意に居なくなったり、使い物にならなくなった時、狩りができなくて、困るのは彼女だ。
 
 《ソウ。ワタシがコマル。ルリのタメ、チガウ》
 誰も、俺の為だとは、言っていないが……。
 
 でも、我儘わがままを言わせて貰えるなら、俺が使えるうちは、使って欲しい。誰だって、自分の子を危険な目には合わせたくない。
 
 《……ジブンのコ?》
 突然、彼女の足が止まった。
 
 (あ、い、いや、言葉のあやだ。実際に、俺の子ってわけじゃ……。って、お前なら、分かってるか) 
 立ち止った隙を狙って、何とか、俺は彼女の肩を掴む。
 
 《ワタシ、コに、ミエル?》
 (い、いや、お前の方が、俺より優秀だからな。子って、言うのは失礼だった……)
 恥ずかしくなって、頬をく俺。
 
 《……ワタシ、コにミエル……》
 何やら、考え出す彼女。
 こうなると、こちらから話しかけても、うんともすんとも言わない。
 俺は諦めて、近くに腰を下ろす。丁度、走ってきたので、良い休憩時間ができた。
 
 《…………ワカッタ。コンカイは、ルリのワガママ、キイて、アゲル》
 しばらくして、再起動した彼女は、あっさりと、俺の要求を呑んだ。
 
 (な、なんだ急に……。どう言う、風の吹き回しだ?)
 その不気味さに、俺はついつい、探りを入れてしまう。

 《……ルリのコだから、シカタナイ……》
 返ってきた、小さな声。
 冗談だとは分かっていても、心がかき乱されてしまう。
 
 《…………》
 (…………)
 
 無言の空間。
 ジョウダンと、返ってこないのは、そこまでを含めての、ドッキリなのだろうか?
 考えれば、考える程、思考が混乱していく。
 (これさえも、彼女の思うつぼなのか?!)
 
 混乱する、俺の横、俯く彼女の表情は、どこか嬉し気だった。
 
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