39 / 172
旅立ち
第38話
しおりを挟む
《ホゾンショク。そろそろ、ナクなる》
彼女が、糸ばかり吊り下がる、天井を見て、呟く。
確かに、彼女の言う通り、天井から吊り下がっている保存食は、合わせても、一日分程度しかなかった。
(そうだな。久々に、狩りに行くか)
彼女は素直に《ウン》と、答えると、狩りの道具を選び始める。
(よしっ……!)
俺も準備を手伝おうと、重い腰を上げた。
(ウッ!!)
瞬間、腹に激痛が走り、自然と、腰が、元の位置に戻って行く。
(……大丈夫だ。すぐに……納まる……。もう、慣れた……)
自分に言い聞かせるように、呟くと、俺は、呼吸を整え、改めて、立ち上がる。
顔を上げてみれば、彼女が道具を漁る手を止め、こちらを見ていた。
(大丈夫、大丈夫。いつものだから)
俺は軽い態度で、答えると、準備の手伝いを始める。
最近は、この痛みのせいで、狩りに出るのを渋っていたが、食べ物がなくなりかけている今、動かない訳にはいかない。
それに、足手纏いだと言われて、一人で狩りへ出かけられては、堪った物ではないからな。
実際、今は痛くも痒くもないので、大丈夫と言う表現も、強ち嘘でもない。
そのまま、狩りの準備は滞りなく、進む。
彼女は、準備中も、チラチラと、こちらを見てきたが、何も言わなかった。
きっと、まだ使えると、判断してくれたのだろう。
このような点は、奴隷冥利に尽きる、数少ない状況だ。
(今は、あんまり、派手に動けねぇから、コレと、コレ……。後は、また大量に持って帰ってきたいから……)
《コレ》
俺が探していた、持ち運び用のネットを差し出してくる彼女。
(お、おう。ありがとな……)
俺は、最近の彼女の変化に驚きながらも、それを受け取る。
相変わらず、無表情だが、優しさと言うか、気配りと言うか……。そう言う事をするようになってきた気がする。
これも、擬態の練習なのだろうか?
(んじゃ、行きますか)
準備を終えた俺は、彼女に声を掛けた。
《ワカッタ》
彼女は、そう答えると、俺より先にドアに手を掛ける。
《…キョウこそ、ワタシ、ヒトリで、カリするカラ》
ドアを抜ける瞬間、急に、彼女が、そう呟いた。
(おいおい、どうしたんだよ、急に……)
俺は、戸惑いつつも、急いで後を追いかけ、宥めに掛かる。
《キュウ、チガウ。マエにもイッタ》
俺を避けるように、糸を使って、スルスルと、幹を下りて行く彼女。
(べ、別に、今まで通り、俺がやれば良いじゃないか!それに、お前だって、最初は、危険な事は、俺がやれば良いって、言ってたじゃないか!)
俺も、急いで、その後を追うが、木の幹を身重の体で、駆け降りるのは、無理があった。
《マエと、イマは、チガウ。……ソレに、イマのウチ、レンシュウ、シテ、オクしないと、ルリに、ナニか、アルしたトキ、ワタシ、コマル》
先に地面に降り立った彼女は、どんどんと先に進んでしまう。
止めたいのは山々だが、体も追いつかない上に、今、彼女の言った事は正しかった。
俺が、不意に居なくなったり、使い物にならなくなった時、狩りができなくて、困るのは彼女だ。
《ソウ。ワタシがコマル。ルリのタメ、チガウ》
誰も、俺の為だとは、言っていないが……。
でも、我儘を言わせて貰えるなら、俺が使えるうちは、使って欲しい。誰だって、自分の子を危険な目には合わせたくない。
《……ジブンのコ?》
突然、彼女の足が止まった。
(あ、い、いや、言葉の綾だ。実際に、俺の子ってわけじゃ……。って、お前なら、分かってるか)
立ち止った隙を狙って、何とか、俺は彼女の肩を掴む。
《ワタシ、コに、ミエル?》
(い、いや、お前の方が、俺より優秀だからな。子って、言うのは失礼だった……)
恥ずかしくなって、頬を掻く俺。
《……ワタシ、コにミエル……》
何やら、考え出す彼女。
こうなると、こちらから話しかけても、うんともすんとも言わない。
俺は諦めて、近くに腰を下ろす。丁度、走ってきたので、良い休憩時間ができた。
《…………ワカッタ。コンカイは、ルリのワガママ、キイて、アゲル》
しばらくして、再起動した彼女は、あっさりと、俺の要求を呑んだ。
(な、なんだ急に……。どう言う、風の吹き回しだ?)
その不気味さに、俺はついつい、探りを入れてしまう。
《……ルリのコだから、シカタナイ……》
返ってきた、小さな声。
冗談だとは分かっていても、心がかき乱されてしまう。
《…………》
(…………)
無言の空間。
ジョウダンと、返ってこないのは、そこまでを含めての、ドッキリなのだろうか?
考えれば、考える程、思考が混乱していく。
(これさえも、彼女の思う壺なのか?!)
混乱する、俺の横、俯く彼女の表情は、どこか嬉し気だった。
彼女が、糸ばかり吊り下がる、天井を見て、呟く。
確かに、彼女の言う通り、天井から吊り下がっている保存食は、合わせても、一日分程度しかなかった。
(そうだな。久々に、狩りに行くか)
彼女は素直に《ウン》と、答えると、狩りの道具を選び始める。
(よしっ……!)
俺も準備を手伝おうと、重い腰を上げた。
(ウッ!!)
瞬間、腹に激痛が走り、自然と、腰が、元の位置に戻って行く。
(……大丈夫だ。すぐに……納まる……。もう、慣れた……)
自分に言い聞かせるように、呟くと、俺は、呼吸を整え、改めて、立ち上がる。
顔を上げてみれば、彼女が道具を漁る手を止め、こちらを見ていた。
(大丈夫、大丈夫。いつものだから)
俺は軽い態度で、答えると、準備の手伝いを始める。
最近は、この痛みのせいで、狩りに出るのを渋っていたが、食べ物がなくなりかけている今、動かない訳にはいかない。
それに、足手纏いだと言われて、一人で狩りへ出かけられては、堪った物ではないからな。
実際、今は痛くも痒くもないので、大丈夫と言う表現も、強ち嘘でもない。
そのまま、狩りの準備は滞りなく、進む。
彼女は、準備中も、チラチラと、こちらを見てきたが、何も言わなかった。
きっと、まだ使えると、判断してくれたのだろう。
このような点は、奴隷冥利に尽きる、数少ない状況だ。
(今は、あんまり、派手に動けねぇから、コレと、コレ……。後は、また大量に持って帰ってきたいから……)
《コレ》
俺が探していた、持ち運び用のネットを差し出してくる彼女。
(お、おう。ありがとな……)
俺は、最近の彼女の変化に驚きながらも、それを受け取る。
相変わらず、無表情だが、優しさと言うか、気配りと言うか……。そう言う事をするようになってきた気がする。
これも、擬態の練習なのだろうか?
(んじゃ、行きますか)
準備を終えた俺は、彼女に声を掛けた。
《ワカッタ》
彼女は、そう答えると、俺より先にドアに手を掛ける。
《…キョウこそ、ワタシ、ヒトリで、カリするカラ》
ドアを抜ける瞬間、急に、彼女が、そう呟いた。
(おいおい、どうしたんだよ、急に……)
俺は、戸惑いつつも、急いで後を追いかけ、宥めに掛かる。
《キュウ、チガウ。マエにもイッタ》
俺を避けるように、糸を使って、スルスルと、幹を下りて行く彼女。
(べ、別に、今まで通り、俺がやれば良いじゃないか!それに、お前だって、最初は、危険な事は、俺がやれば良いって、言ってたじゃないか!)
俺も、急いで、その後を追うが、木の幹を身重の体で、駆け降りるのは、無理があった。
《マエと、イマは、チガウ。……ソレに、イマのウチ、レンシュウ、シテ、オクしないと、ルリに、ナニか、アルしたトキ、ワタシ、コマル》
先に地面に降り立った彼女は、どんどんと先に進んでしまう。
止めたいのは山々だが、体も追いつかない上に、今、彼女の言った事は正しかった。
俺が、不意に居なくなったり、使い物にならなくなった時、狩りができなくて、困るのは彼女だ。
《ソウ。ワタシがコマル。ルリのタメ、チガウ》
誰も、俺の為だとは、言っていないが……。
でも、我儘を言わせて貰えるなら、俺が使えるうちは、使って欲しい。誰だって、自分の子を危険な目には合わせたくない。
《……ジブンのコ?》
突然、彼女の足が止まった。
(あ、い、いや、言葉の綾だ。実際に、俺の子ってわけじゃ……。って、お前なら、分かってるか)
立ち止った隙を狙って、何とか、俺は彼女の肩を掴む。
《ワタシ、コに、ミエル?》
(い、いや、お前の方が、俺より優秀だからな。子って、言うのは失礼だった……)
恥ずかしくなって、頬を掻く俺。
《……ワタシ、コにミエル……》
何やら、考え出す彼女。
こうなると、こちらから話しかけても、うんともすんとも言わない。
俺は諦めて、近くに腰を下ろす。丁度、走ってきたので、良い休憩時間ができた。
《…………ワカッタ。コンカイは、ルリのワガママ、キイて、アゲル》
しばらくして、再起動した彼女は、あっさりと、俺の要求を呑んだ。
(な、なんだ急に……。どう言う、風の吹き回しだ?)
その不気味さに、俺はついつい、探りを入れてしまう。
《……ルリのコだから、シカタナイ……》
返ってきた、小さな声。
冗談だとは分かっていても、心がかき乱されてしまう。
《…………》
(…………)
無言の空間。
ジョウダンと、返ってこないのは、そこまでを含めての、ドッキリなのだろうか?
考えれば、考える程、思考が混乱していく。
(これさえも、彼女の思う壺なのか?!)
混乱する、俺の横、俯く彼女の表情は、どこか嬉し気だった。
0
あなたにおすすめの小説
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ある平凡な女、転生する
眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。
しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。
次に、気がついたらとっても良い部屋でした。
えっ、なんで?
※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑)
※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。
★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★
底無しポーターは端倪すべからざる
さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。
ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。
攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。
そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。
※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。
※ごくまれに残酷描写を含みます。
※【小説家になろう】様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる