異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
56 / 172
自立

第55話

しおりを挟む

 「……はい。小鳥ちゃん」
 私は集めた虫と木の実を小鳥ちゃんの前に、ばら撒く。 
 
 小鳥ちゃんは、こちらを警戒しつつも、餌の方をちらちらと見た。
 私は、その場にしゃがみ込むと、頬杖をついて、小鳥ちゃんを観察する。
 
 時間が経つにつれ、段々と、餌を見る頻度が増えて行く、小鳥ちゃん。
 その内に、素早く餌を突っつき、私を見る、素早く餌を突っつき、私を見る、を繰り返し始める。
 警戒心は段々と薄まってきている様だった。
 
 昨日とは違い、今日は大ムカデも、外に出て、私たちを見守っている。
 木々の木漏れ日が、心地よい、正午のひと時だった。
 
 風と、静寂が気持ち良い。
 今なら、飛べる気がした。
 
 私は小鳥ちゃんから離れると、翼を広げ、助走をつける。
 そのまま、地面を蹴りつつ、翼に力を入れて、羽ばたけば……。
 
 「へぶしッ」
 ずざっーっと、地面を滑り、落ち葉に埋もれる私。
 気分で乗り切れるほど、世界は甘くなかった。
 
 あと、大ムカデ。今笑ったから罰だ。

 「キチキチキチッ!!」
 突然暴れ出す大ムカデに、驚く小鳥ちゃん。
 
 私は、そんな二人を無視して、もう一度、翼を開く。
 失敗はしたが、さっきの感覚は悪くなかった。
 力み過ぎず、羽ばたきすぎず、空気に乗る感じで……。翼はもうちょっと大きめにしよう。
 
 そんな事をしている間に、あっという間に一日が過ぎる。
 そして、また一日が始まって、ゆっくり過ごして………。
 
 「おいで、小鳥ちゃん」
 
 私が呼ぶと、小鳥ちゃんがチョンチョンと、跳ねる様に寄ってくる。
 可愛かった。
 
 私は小鳥ちゃんのふわふわな背中に乗って、獲物を探す。
 鬱蒼とした森の中と違って、上空は気持ちが良かった。
 飛行の下手な私では、ここまで上がってこれないので、小鳥ちゃんのおかげである。
 
 大ムカデは、最近、意中の相手ができたらしく、今日も出かけているのだ。
 野生動物らしく、実力行使で行けばよいと言うのに、伝わるかも分からない贈り物を届けたり、プロポーズをしたり。本当に、面倒くさい奴だ。
 ……でも、そう言う所、嫌いじゃない。

 「……あっ、ルリちゃん人形……」
 私はいつの間にか、いつも、肌身離さず持っていたはずの、人形を無くしていた。
 いつなくなったのかすら気が付かなかった。
 
 ………でも、もう良いのかも知れない。
 
 小鳥ちゃんが、どうしたのかと、こちらを気にしてくる。
 「なんでもない」
 私は、そう答えると、森を見渡す。

 どこまでも、どこまでも、続くと思っていた森は、案外ちっぽけだった。
 外に目を向けてみれば、田畑や集落、原っぱや、岩山、大きな川に、人工的な道も見える。色々な物があるのだ。
 
 「あ、あそこ」
 今日の獲物を見つけた私たちは、森の中へ、ゆっくりと降りて行く。

 「ばいばい」
 私は小さく呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...