異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
66 / 172
寄生生活

第65話

しおりを挟む
 (ご、ごしゅじんさまぁ……。これ以上は、ボク、ボクッ!!)
 ウサギのとろけるような瞳が、俺を映す。

 「はぁ…。はぁ…。なに、言ってるんだ?お前が欲しがったんだろ?」
 (ヒャン!)
 糸を軽く引っ張ると、それだけで、ウサギの体は跳ねる。
 
 (だ、ダメですっ!らさないでください!もう、ボク。頭が、頭がふわふわしてっ……おかしくなっちゃいますぅ!!)
 そんな、そんな弱々しい瞳で見られたら……。
 もっと虐めたい、もっと、もっと!!

 「てめぇは、元々おかしいだろうがぁ!!」
 俺が思いっきり糸を引っ張れば、ウサギは(あふぅぅぅ!!)と、言って果てる。
 
 「はぁ…。はぁ…。はぁ……。あはははははっ!楽しい!楽しいぞ!!!」
 果てたウサギの横で、一人笑う俺。
 度重たびかさなる、行為で、もう、完全にガタが外れていた。

 後になって、冷静になり、自分がした行為を思い出しても、ショックを受けなくなり、たまに、暴れる俺を、冷静な俺が、俯瞰ふかんして見ている感覚もある。

 「だ、ダメだ……。このままでは人で、なくなってしまう……」
 まぁ、既に人ではないのだが、そういう問題ではない。
 このままでは、人の心を持った虫でなく、虫の心を持った、ただの知能の高い虫になってしまう。
 
 「グルルルルルゥ……」
 そんな事を考えていると、性懲しょうこりもなく、オオカミが……。
 
 「グワォ!!!」
 「キュゥン!」
 俺がクマの姿になって、脅すが、今度は怯むだけで、引かない。
 そろそろ慣れ始めてしまったのか?とも思ったが、そのやせ細った姿を見れば分かった。こいつ、もう、後がないんだ。

 ……と、言っても、そこで狸寝入りを込んでいる、ウサギを食わす訳にはいかない。辺りを警戒して、耳を動かしているので、丸分かりなのだ。
 しかし、もう、警戒心は取り戻している。
 狼から逃げきるだけの脚力も、隠れるだけの知恵も、十分に手に入れた。
 
 「おぃ!ウサギ!」
 (は!はい!)
 俺の呼び声にすぐに立ち上がり、気を付けの姿勢を取るウサギ。
 俺の声は、オオカミや熊の鳴き声よりも、本能に響くらしい。
 
 「お前!もう一人でも、大丈夫だよな?!」
 (え?……えぇっ?!)
 辺りを見回しながら、戸惑うウサギ。
 
 「こいつ!もう、脅しがきかねぇ見てぇなんだ!」
 (そ、それなら、ボクの上に乗って逃げれば!)
 ウサギは必死な声で叫んでくる。
 
 正論を返され、考える俺。
 「いや!こいつは強敵だ!お前だけで行け!」
 まぁ、弱っていて、後がないので、何をしてくるか分からないと言う意味では強敵と言っても、嘘はないだろう……。嘘は。

 俺は、表情で悟れない様に、ウサギの方へは振り向かない。
 
 (そ、そんな!それならボクだって戦います!ボクの蹴りなら!)
 「さっきまで、気絶した振りをして、俺に任せようとしてたやつが、よく言うぜ!」
 俺は、何としても、このウサギから離れ、目の前にいる宿主に鞍替えしたい。
 さもないと、その内、俺はリミアの様に……。
 
 (そ、それは……)
 口ごもる、ウサギ。
 と、その時、痺れを切らした狼が、噛みつくように襲い掛かってきた。
 俺はそれを、木に張り付けた糸を素早く回収する事で、瞬時に移動し、華麗に回避していく。
 
 「悪いな!相手は待ってくれねぇ様だ!」
 俺は無理矢理ウサギを操り、俺達から離れる様に、走り出させる。
 
 (そ、そんな!待ってください!ボクが悪かったです!もう、ご主人に敵を押し付けようなんてしませんからぁ!!)
 俺は、その声を無視し、俺達の姿が見えない様に、あらかじめ、寝床と、逃げ場代わりに掘らせてあった、穴の中に、ウサギを隠れさせる。
 このモグラの巣の様に、広がる穴があれば、今後もウサギの生活は安泰あんたいだろう。
 
 (ごめんなさい!ボクが悪かったです!悪かったですからぁ!!)
 五月蠅いので、心の声を聞く糸も遮断する。
 勿論、こちらに来ない様、体も拘束したままだ。
 
 「よぉし!準備は万端だ!かかってこいや!!」
 俺は、俺の平穏の為に、オオカミと対峙する。
 
 「グルルルルゥ!!」
 唾液を垂らしながら、唸るオオカミ。

 しかし、全く恐怖がない。どちらかと言えば、あるのは、高揚感だけだ。
 この状況を抜け出せるかもしれないと言う、高揚感。

 人の欲とは強い物だと聞くが、ここまでの物だったとは……。
 自身の欲に目のくらんだ俺は、全く負ける気がしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―

やまだ
ファンタジー
12/9 一章最後に番外編『雨の日のあだ名戦争』アップしました。 ⭐︎二章より更新頻度週3(月・水・金曜)です。 朝、昼、夜を超えてまた朝と昼を働いたあの日、救急医高梨は死んでしまった。比喩ではなく、死んだのだ。 次に目覚めたのは、魔法が存在する異世界・パストリア王国。 クラリスという少女として、救急医は“二度目の人生”を始めることになった。 この世界では、一人ひとりに魔法がひとつだけ授けられる。 クラリスが与えられたのは、《消去》の力――なんだそれ。 「今度こそ、過労死しない!」 そう決意したのに、見過ごせない。困っている人がいると、放っておけない。 街の診療所から始まった小さな行動は、やがて王城へ届き、王族までも巻き込む騒動に。 そして、ちょっと推してる王子にまで、なぜか気に入られてしまい……? 命を救う覚悟と、前世からの後悔を胸に―― クラリス、二度目の人生は“自分のために”生き抜きます。 ⭐︎第一章お読みいただきありがとうございました。 第二章より週3更新(月水金曜日)となります。 お楽しみいただけるよう頑張ります!

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...