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捕食生活
第74話
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「クソッ!!」
俺は、ムカデが狩れない、小鳥が狩れない、ウサギが狩れない、オオカミが狩れない。
そして、あの日以降、全ての生物が狩れなくなっていた。
奴らにも、俺にとっての、リミアやクリナのような存在がいると思うと、糸を操作する手が止まってしまうのだ。
もしかしたら、今まで、俺が奪ってきた、命の中にも……。
「ワゥ……」
宿主は、落ち込む俺を優しく頬擦りしてくれた。
こんな俺を見捨てないでくれるのは、何故だろう……。
「ごめんな……」
宿主の頬を撫で返す俺。
まるで、子どもを心配する、母親の様だった。
宿主は俺の見えない所で、狩りと食事を済ませてくれている。
栄養を奪うどころか、狩りもできない上に、宿主に気まで使わせて……。
今の俺は寄生虫以下だ。
一時期、ニートや自宅警備員になりたいと思っていた時期もあったが、好意を持つ相手に迷惑を掛けたくない俺には、結局、向いていなかったらしい。
いや、母の心配そうな笑顔を見るのが嫌になり、実家を出たと言う時点で、なんとなく、察しはついていたのだが。
せめて、せめて、足止めぐらいしないと……。
「うわっと」
一人焦る俺を咥え上げ、背中に乗せる宿主。
「ワゥ!」
どうやら、獲物のいる場所まで連れて行ってくれるらしい。
「……悪いな。気ぃ、遣わせて……」
口では、ありがたそうな事を言うが、やはり、気は進まない。
変な事を考えるな!これは、生きる為だ!
それに、相手は、本能で生きているだけだ!何も考えちゃいない!
本当にそうだろうか?
皆、最低限、生きたいと言う、強い意志があるように思える。
意志と本能の境目は、何なのだろうか?
例えば、その辺りを歩いている虫。
彼らは何かを考える事なく、一定の反応に従って、逃げ出したり、捕食したり、自身の意思など存在せず、プログラム的に動いている。
では、ウサギはどうだろうか。
あいつは、俺が庇護下に置いた場合、他の物を一切恐れなくなった。
それは、本能から逸脱しているのではないか?
それとも、本能の中に、慣れというものがプログラムされているのだろうか?
……そうだ。本能は、その生物が生きる為に組み込まれた、プログラムなのだ。
つまり、前の宿主である、オオカミはそれから、逸脱していたと言う事になる。
なんせ、死よりも、醜い生を恐怖していたのだから。
逆に過去の俺はどうだろうか?生きる為に働く毎日。そこに意思等あっただろうか?意志を持てるほどの知能があっても、意思を持たない者もいる。
では、俺のような人間は食って良いのか?
それは、また、違う話な気がしてくる。
相手にだって、意思を持つ可能性があるのだ。
そうだ、可能性があると言うのに、それを潰すのは……。
「ワゥ」
どうやら、目的の場所に着いたらしい。
糸を広げ、辺りを探知すると、どうやら、イノシシの群れがいる様だった。
ブタに近い、イノシシなら狩れるか?
と言うか、そもそも、どうして、畜産家の人達は、飼っていたブタを、食肉にできるのだろうか?
ニワトリだってそうだ。あんなに可愛いのに、殺して肉にするなんて、考えられない。
……でも、俺は、それを疑問に思う事はあっても、結局は忘れて、スーパーや、飲食店で、普通に肉を購入し、食べていた。
食べていたんだ。あんな怠惰だった俺が、直接ではないと言え、生物の死に加担していたんだ。
でも、それは生きる事に必要な事で、でも、あの頃の俺に、そこまでして、生きる価値なんて……。いや、それは今関係ない!今の俺の話をしているんだ!
今俺は!今俺は……。
やっと、縞模様の抜けたウリ坊が、群れの大人に甘えている。
……俺には、無理だ……。
「グルルルルゥ!」
そんな俺の横で、突然、威嚇を始める、宿主。
その視線の方向には、俺と同じような、小さな人型をした生物が立っていた。
俺は、ムカデが狩れない、小鳥が狩れない、ウサギが狩れない、オオカミが狩れない。
そして、あの日以降、全ての生物が狩れなくなっていた。
奴らにも、俺にとっての、リミアやクリナのような存在がいると思うと、糸を操作する手が止まってしまうのだ。
もしかしたら、今まで、俺が奪ってきた、命の中にも……。
「ワゥ……」
宿主は、落ち込む俺を優しく頬擦りしてくれた。
こんな俺を見捨てないでくれるのは、何故だろう……。
「ごめんな……」
宿主の頬を撫で返す俺。
まるで、子どもを心配する、母親の様だった。
宿主は俺の見えない所で、狩りと食事を済ませてくれている。
栄養を奪うどころか、狩りもできない上に、宿主に気まで使わせて……。
今の俺は寄生虫以下だ。
一時期、ニートや自宅警備員になりたいと思っていた時期もあったが、好意を持つ相手に迷惑を掛けたくない俺には、結局、向いていなかったらしい。
いや、母の心配そうな笑顔を見るのが嫌になり、実家を出たと言う時点で、なんとなく、察しはついていたのだが。
せめて、せめて、足止めぐらいしないと……。
「うわっと」
一人焦る俺を咥え上げ、背中に乗せる宿主。
「ワゥ!」
どうやら、獲物のいる場所まで連れて行ってくれるらしい。
「……悪いな。気ぃ、遣わせて……」
口では、ありがたそうな事を言うが、やはり、気は進まない。
変な事を考えるな!これは、生きる為だ!
それに、相手は、本能で生きているだけだ!何も考えちゃいない!
本当にそうだろうか?
皆、最低限、生きたいと言う、強い意志があるように思える。
意志と本能の境目は、何なのだろうか?
例えば、その辺りを歩いている虫。
彼らは何かを考える事なく、一定の反応に従って、逃げ出したり、捕食したり、自身の意思など存在せず、プログラム的に動いている。
では、ウサギはどうだろうか。
あいつは、俺が庇護下に置いた場合、他の物を一切恐れなくなった。
それは、本能から逸脱しているのではないか?
それとも、本能の中に、慣れというものがプログラムされているのだろうか?
……そうだ。本能は、その生物が生きる為に組み込まれた、プログラムなのだ。
つまり、前の宿主である、オオカミはそれから、逸脱していたと言う事になる。
なんせ、死よりも、醜い生を恐怖していたのだから。
逆に過去の俺はどうだろうか?生きる為に働く毎日。そこに意思等あっただろうか?意志を持てるほどの知能があっても、意思を持たない者もいる。
では、俺のような人間は食って良いのか?
それは、また、違う話な気がしてくる。
相手にだって、意思を持つ可能性があるのだ。
そうだ、可能性があると言うのに、それを潰すのは……。
「ワゥ」
どうやら、目的の場所に着いたらしい。
糸を広げ、辺りを探知すると、どうやら、イノシシの群れがいる様だった。
ブタに近い、イノシシなら狩れるか?
と言うか、そもそも、どうして、畜産家の人達は、飼っていたブタを、食肉にできるのだろうか?
ニワトリだってそうだ。あんなに可愛いのに、殺して肉にするなんて、考えられない。
……でも、俺は、それを疑問に思う事はあっても、結局は忘れて、スーパーや、飲食店で、普通に肉を購入し、食べていた。
食べていたんだ。あんな怠惰だった俺が、直接ではないと言え、生物の死に加担していたんだ。
でも、それは生きる事に必要な事で、でも、あの頃の俺に、そこまでして、生きる価値なんて……。いや、それは今関係ない!今の俺の話をしているんだ!
今俺は!今俺は……。
やっと、縞模様の抜けたウリ坊が、群れの大人に甘えている。
……俺には、無理だ……。
「グルルルルゥ!」
そんな俺の横で、突然、威嚇を始める、宿主。
その視線の方向には、俺と同じような、小さな人型をした生物が立っていた。
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