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帰還
第103話
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「いいのか?」
俺は優しすぎるコグモに問う。
「はい?」
俺の問いに要領を得なかったのか、小首を傾げる彼女。
「話を聞いて良いのか?!このままだと、俺は、お前が俺を許したと思うぞ?!そうなれば、またお前を傷つけるかもしれない!」
俺は髪の糸を伸ばして、彼女の両肩を強くつかんだ。
「え……?えぇ、その程度であれば、問題はないですが……。と言うよりも、私が初めてルリ様に会った時の方が、ひどい事をしましたしね……」
苦笑して、場の空気を和らげようとするコグモ。
俺は、この感覚を知ってる……。理不尽に突き飛ばした母さんが、それでも、遅くなると、探しに来てくれた時の感覚。
「私も悪かったわ」と、言って、夕飯を用意してくれていた時の感覚だった。
生き方を変えない俺は、社会に見捨てられるように死んだ。
いじめを嫌っていた友人とは、もうそれっきりだった。
それ以外にも、色々な人が、物が、事が、俺を見捨てて行った。
それでも、母さんは、母さんだけは、いつまで経っても、何をしても、俺を待っていてくれた。
ただ、俺が臆病で、それに応えられなかっただけ。
でも、今度は、今度は間違えない。
歩み寄ろうとしてくれる人がいるなら、俺は怯えずにその手を取ろう。
「お、俺は……。俺は狩りができないんだ!他の生き物にも意志が!可能性が!心があると思うと、その命を奪えないんだ!……おかしいだろ?自分でも分かってるんだ!俺が間違ってるって!でも、でも、どうしょうも無いんだ!怖くて、気持ちが悪くて、仕方が無いんだ!」
俺はコグモに全てを話す。
俺のおかしい所、不安に思っている事、全部。
「……別に、おかしくなんて、ありませんよ。この世界に、本当に正しい事なんて、無いんですから……」
俯く俺をコグモが、優しく抱き寄せてくれる。
「それを言うなら、私だって、おかしいんですよ?私達の種族は、卵から一斉に孵って、生まれた瞬間から、お互いを食い合うのですが、私はどうも、それが、性に合わなくて……。もたもたしていた所を、兄弟たちにつまみ食いされちゃいました」
恥ずかしそうに話す彼女。
そんな、笑いながら話す話でも無いと言うのに……。
「今思うと、ただただ、空腹と、共食いの本能が弱かったんでしょうね。闘争心の無い私は、そこで死ぬはずでした。
……そんな私を糸で優しく救い上げ、壊れた体を繕ってくれたのが、お嬢様だったんです。そして、それからも、私をそばに置いて、色々な事を教えて頂いて……。
それから、私、お嬢様の役に立とうって、お嬢様の様になりたいって、思ったんです……。この格好も、その憧れからなんですよ?物は形から、って、言うらしいじゃないですか!」
そうか……。この子にとってのリミアは命の恩人であり、母親の様な物なのかもしれない。
「……って、後半の話は、全然関係ないですよね!」
コグモは「あははははは」と笑いながら頭を掻いて誤魔化す振りをする。
場の空気を換える為に、ワザと話してくれたのだろう。
「いや、話してくれて嬉しかったよ。おかげで、コグモの事をもっと知る事が出来た」
俺は泣きはらしたような笑顔で、コグモにお礼を言う。
コグモの過去が気なった時、俺は何もしなかった。
彼女に踏み込もうとはしなかった。
しかし、彼女が今、勇気をもって、俺の方へ踏み込んで来てくれなかったら、俺達の関係は、どうなっていたのだろうか?
それに、俺が、もしあの時、もっと切り込んで話をしていたら、こんなこじれ方はせずに、お互いに傷つかずに済んだのではないだろうか?
俺は、改めて、自分の臆病さを悔いた。
「ごめんな、コグモ……。それと、ありがとう」
俺は、彼女を見上げながら心からの謝罪と感謝を口に出す。
「はい!許します!」
そう言った、彼女の笑顔はいつも以上に眩しかった。
俺は優しすぎるコグモに問う。
「はい?」
俺の問いに要領を得なかったのか、小首を傾げる彼女。
「話を聞いて良いのか?!このままだと、俺は、お前が俺を許したと思うぞ?!そうなれば、またお前を傷つけるかもしれない!」
俺は髪の糸を伸ばして、彼女の両肩を強くつかんだ。
「え……?えぇ、その程度であれば、問題はないですが……。と言うよりも、私が初めてルリ様に会った時の方が、ひどい事をしましたしね……」
苦笑して、場の空気を和らげようとするコグモ。
俺は、この感覚を知ってる……。理不尽に突き飛ばした母さんが、それでも、遅くなると、探しに来てくれた時の感覚。
「私も悪かったわ」と、言って、夕飯を用意してくれていた時の感覚だった。
生き方を変えない俺は、社会に見捨てられるように死んだ。
いじめを嫌っていた友人とは、もうそれっきりだった。
それ以外にも、色々な人が、物が、事が、俺を見捨てて行った。
それでも、母さんは、母さんだけは、いつまで経っても、何をしても、俺を待っていてくれた。
ただ、俺が臆病で、それに応えられなかっただけ。
でも、今度は、今度は間違えない。
歩み寄ろうとしてくれる人がいるなら、俺は怯えずにその手を取ろう。
「お、俺は……。俺は狩りができないんだ!他の生き物にも意志が!可能性が!心があると思うと、その命を奪えないんだ!……おかしいだろ?自分でも分かってるんだ!俺が間違ってるって!でも、でも、どうしょうも無いんだ!怖くて、気持ちが悪くて、仕方が無いんだ!」
俺はコグモに全てを話す。
俺のおかしい所、不安に思っている事、全部。
「……別に、おかしくなんて、ありませんよ。この世界に、本当に正しい事なんて、無いんですから……」
俯く俺をコグモが、優しく抱き寄せてくれる。
「それを言うなら、私だって、おかしいんですよ?私達の種族は、卵から一斉に孵って、生まれた瞬間から、お互いを食い合うのですが、私はどうも、それが、性に合わなくて……。もたもたしていた所を、兄弟たちにつまみ食いされちゃいました」
恥ずかしそうに話す彼女。
そんな、笑いながら話す話でも無いと言うのに……。
「今思うと、ただただ、空腹と、共食いの本能が弱かったんでしょうね。闘争心の無い私は、そこで死ぬはずでした。
……そんな私を糸で優しく救い上げ、壊れた体を繕ってくれたのが、お嬢様だったんです。そして、それからも、私をそばに置いて、色々な事を教えて頂いて……。
それから、私、お嬢様の役に立とうって、お嬢様の様になりたいって、思ったんです……。この格好も、その憧れからなんですよ?物は形から、って、言うらしいじゃないですか!」
そうか……。この子にとってのリミアは命の恩人であり、母親の様な物なのかもしれない。
「……って、後半の話は、全然関係ないですよね!」
コグモは「あははははは」と笑いながら頭を掻いて誤魔化す振りをする。
場の空気を換える為に、ワザと話してくれたのだろう。
「いや、話してくれて嬉しかったよ。おかげで、コグモの事をもっと知る事が出来た」
俺は泣きはらしたような笑顔で、コグモにお礼を言う。
コグモの過去が気なった時、俺は何もしなかった。
彼女に踏み込もうとはしなかった。
しかし、彼女が今、勇気をもって、俺の方へ踏み込んで来てくれなかったら、俺達の関係は、どうなっていたのだろうか?
それに、俺が、もしあの時、もっと切り込んで話をしていたら、こんなこじれ方はせずに、お互いに傷つかずに済んだのではないだろうか?
俺は、改めて、自分の臆病さを悔いた。
「ごめんな、コグモ……。それと、ありがとう」
俺は、彼女を見上げながら心からの謝罪と感謝を口に出す。
「はい!許します!」
そう言った、彼女の笑顔はいつも以上に眩しかった。
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