異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
120 / 172
帰還

第119話

しおりを挟む
 「リミア?」
 目を覚ますと、目の前には元の大きさに戻ったリミアが、俯き気味で、こちらを向いて立っていた。
 
 「リミア……。色々と悪かった。お前も納得できない事は多いかもしれないが、それでも、俺は、お前に生きていて欲しいんだ……。俺にできる事なら何でも協力する。だから、一緒に生きよう。……だって、二人だけの家族だろ?」
 俺はリミアに声を掛けつつ、歩み寄る。
 
 「………?リミア?」
 一言も話さないリミアは、俺が手の降れる距離まで近寄ると、顔を上げた。
 今度は、最後の記憶とは違う。本当に納得したような、満たされたような笑み。
 
 俺はその笑みを見て、ひどく不安に思った。
 このまま彼女が成仏してしまいそうな、消え去ってしまいそうな感覚……。
 
 「リミア?」
 俺はリミアを逃がさない様に、手を伸ばす。
 その時、彼女の口元が動いた。でも、その声は聞き取れない。
 そして、幸せそうな彼女は……
 
 「……リミアッ!」
 俺は、飛び起きる様に夢から寝覚める。
 目の前には安らかに眠るあの子と、床に座り込み、その淵に両腕を置く俺。
 窓の隙間からは、日の光が差し込んでいた。
 
 どうやら、俺は眠ってしまっていたらしい。

 ……結局、俺は、記憶の糸をリミアの中に返した。

 あの子はどうなってしまうのか、と言う葛藤もあった。
 しかし、コグモが「大丈夫です。元に戻るだけですから。……それに、このままで良いんですか?」と、俺をさとして、背中を押してくれたのである。
 
 全てが全て、納得できた訳ではない。
 でも、その全てを差し置いても、俺はリミアに戻ってきた欲しかった。

 「…………」
 俺は、優しく、幼い顔をした彼女を撫でる。
 後は、目覚めるのをただただ、待つだけだった。
 
 あの子には悪い事をした。
 許してくれなんて思わない。
 それでも、俺はリミアに再び会えるなら……。
 
 「あ………」
 彼女がもぞもぞと動きだし、欠伸をしながら、その幼い顔を手で擦った。
 
 「……おはよ。リミア」
 俺は、まだ布団から起き上がってもいない、リミアの頭を抱き寄せる。
 何よりも先に、リミアがこの場所にいると言う感覚を、確かめたかったのだ。
 
 リミアは驚いている様で、何も話さない。
 整理がついたら、色々と怒られそうだ。
 まぁ、勿論、その分、俺も怒り返してやるが。
 でも、今は、今だけは……。
 
 「……パパ。リミアって、誰?」
 俺は耳を疑った。
 俺はゆっくりと、リミアから離れる。
 
 「な、何言ってるんだよ。お前はリミアだろ?」
 俺は震えながら、確かめる様に答えた。
 
 「私……?私はクリナ……。あれ?違う、リミア……だっけ?あれ?あれ?私……。私って……」
 頭を抱え、苦しむように混乱し始める彼女。

 「パパはパパで……。何でパパなんだっけ?パパって、何だっけ?あれ?あれ?」
 彼女は脳みそをかき出すような勢いで、頭を掻きむしる。
 明らかに様子がおかしかった。
 
 「や、やめろって!」
 俺は彼女の両腕を抑え、自傷行為にも近い、それを辞めさせる。
 
 「わ、私。私って何?気持ち悪い……。気持ちが悪いのっ!!」
 何処を見るでもない彼女の瞳は他でもない自身を拒絶している様だった。
 このままでは彼女が壊れてしまう!
 
 「悪い!」
 俺は抵抗する彼女を鎮める為、糸で、その意識を断たせた。
 
 「………」
 糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちる彼女を俺は支える。
 
 ……もしかして、新しく生まれた人格と、元の人格がごちゃごちゃになってしまっているのか?

 原因は兎も角、タイミング的に、俺が彼女の記憶を含む人格を入れた事で起きた事象であることは間違いないだろう。
 
 俺は改めて、彼女の中から、入れた記憶と人格を引き抜いた。
 これで落ち着いてくれれば良いのだが……。
 
 ……でも、そうか、考えてみれば、クリナや俺の記憶を引き継いだ時は、そこに、俺らの感覚や価値観、人格という物はなかった。
 だから、リミアは自分を自分として、受け入れる事が出来ていたのだ。
 
 そこに、価値観の全く合わない、新しい人格を無理矢理入れれば、壊れてしまうのも無理はないのかもしれない。

 「……ははは。何やってんだよ、俺」
 もう少し、慎重になるべきだった。
 これじゃあ、ただ、リミアと彼女を、悪戯に苦しめただけだ。
 
 ……今、咄嗟に、先程入れた記憶と人格の糸を抜いてしまったが、大丈夫だろうか?これ以上、壊れてしまわないだろうか?
 
 「何だよ、壊れるって、人を入れ物みたいに……」
 ……いや、違う。入れ物なんだ。

 そうだ、コレは入れ物だ。
 本当のリミアは、今、俺の持っている糸の中にいる。
 俺は、この入れ物が、リミアの人格を入れても壊れない様に、人格成形をし直していかなければならない。
 
 「……そうだ。駄目になったなら、直せばいい」
 この入れ物を、直さなければ。
 リミアの形に、戻さなければ……。 
 
 俺は、その"入れ物"を抱え上げると、再び、ベッドの中へ戻す。

 「待ってろよ、リミア……」 
 俺は、事切れたかのように、眠る、大切な大切な"入れ物"の頭を、優しく、優しく、撫で続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...