異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
121 / 172
崩壊

第120話

しおりを挟む
 コンコン。
 「おはようございます。コグモです」
 私は、お嬢様の部屋のドアを叩きつつ、朝の挨拶をする。
 
 「おう!コグモか!入って良いぞ!」
 部屋の中からは、お嬢様の声ではなく、ルリ様の声が帰って来た。
 しかし、この明るい口調だと、全てが上手く行ったのかもしれない。
 
 「失礼します」
 私は、昨日の出来事を感じさせない様に、いつも通りの動作で部屋に入った。
 
 「おはよう!コグモ!」
 ベッドの淵に腰かけ、元気に声を掛けて来るルリ様。
 その、膝の上には、昨日同様、幼くなったお嬢様が腰かけていた。
 
 ……何処か、お嬢様の雰囲気が暗い気が……。
 ルリ様にこってりと絞られたのだろうか?
 
 「……ほら、クリア。コグモに挨拶は?」
 ……?
 私は聞きなれない名前に、内心首を傾げる。
 
 「おはよう……ございます」
 幼いお嬢様は、光の見えない眼差しで、私を見ると、ゆっくりと頭を下げて来た。
 それを見て「偉いぞ!」と、お嬢様の頭を撫でるルリ様。
 尋常ではない違和感が、私を襲った。
 
 「あ、あの……。これはどう言う?」
 全く状況が飲み込めない私は、二人の間で視線を漂わせつつ質問する。
 
 「あぁ。ちょっとな……。昨日、リミアの記憶の糸を戻すっていう話をしてただろ?あれが、どうやら、上手く人格や価値観が合わなかったみたいで、壊れっちまったんだ……」
 申し訳なさそうに話すルリ様。
 ただ、その態度の軽さに、私は寒気を覚える。
 
 「でも、安心しろ!この"入れ物"をリミアの様に育て上げる事で、拒絶反応なく、リミアの人格を戻せるようになるはずなんだ!」
 お嬢様……。目に生気の無い、少女の両肩に手を当てながら、誇らしげに語るルリ様。
 完全に、壊れていた。"どちらとも"。
 
 「ルリ、様……」
 私はそれに、賛同する事も、否定する事も出来ない。
 かける言葉が見つからない。
 
 「コレにも、名前が無いと呼びにくいからな!コレの名前はクリアにしたんだ!どうだ?良い名前だろう?」
 私はどう答えるべきか分からずに「えぇ、良い名前ですね」と、毒にも薬にもならない言葉を返す。
 ……今の私は、上手く笑えているだろうか?
 そもそも笑う事が正しいのかも分からない。
 
 「よし!今日からの訓練はクリアも一緒だぞ!コグモも宜しく頼むな!」
 その屈託のない表情に、それが演技でない事は見て取れた。
 今のルリ様を見ていると、心が締め付けられる。
 
 ……そもそも、ルリ様がこうなってしまった原因は私にあるのだ。
 私が、あの時、軽率に、ルリ様へ、お嬢様の記憶を戻す事を、勧めなければ良かった。
 
 何故、私はあの時、あれ程までに、馬鹿な発言をしてしまったのだろうか?
 もう少し慎重になるべきではなかったのだろうか?
 そうすれば、こんな事態は避けられたので無いだろうか?
 
 私らしくない。ルリ様をお嬢様の敵だと思って、激昂していた時も、もしもの時の為に生かして捕らえた私だ。冷静な判断ができないはずが無い。
 
 ……でも、あの時の私は、ルリ様の苦しむ表情を見ていたくなかったのだ。
 今、この瞬間、少しでも、ルリ様が楽になる様にと、その後の事まで、考えずに行動していた。
 それこそ、一番重要であるはずの、お嬢様の安全が頭から抜けるほど、おかしくなっていたのである。
 
 ……過ちを悔いていても、仕方が無い。この体験は次に生かして行こう。
 今、私ができる事は、ルリ様が、これ以上間違える事を止める。それだけだ。
 
 「ん?どうした?コグモ?」
 機械の様なクリアを撫でながら、返事の無い私を不思議がる様に、首を傾げるルリ様。
 
 「……何でもないです」
 私はそう答えると、ルリ様を心配させない様に、自然な笑みで答えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

処理中です...