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崩壊
第120話
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コンコン。
「おはようございます。コグモです」
私は、お嬢様の部屋のドアを叩きつつ、朝の挨拶をする。
「おう!コグモか!入って良いぞ!」
部屋の中からは、お嬢様の声ではなく、ルリ様の声が帰って来た。
しかし、この明るい口調だと、全てが上手く行ったのかもしれない。
「失礼します」
私は、昨日の出来事を感じさせない様に、いつも通りの動作で部屋に入った。
「おはよう!コグモ!」
ベッドの淵に腰かけ、元気に声を掛けて来るルリ様。
その、膝の上には、昨日同様、幼くなったお嬢様が腰かけていた。
……何処か、お嬢様の雰囲気が暗い気が……。
ルリ様にこってりと絞られたのだろうか?
「……ほら、クリア。コグモに挨拶は?」
……?
私は聞きなれない名前に、内心首を傾げる。
「おはよう……ございます」
幼いお嬢様は、光の見えない眼差しで、私を見ると、ゆっくりと頭を下げて来た。
それを見て「偉いぞ!」と、お嬢様の頭を撫でるルリ様。
尋常ではない違和感が、私を襲った。
「あ、あの……。これはどう言う?」
全く状況が飲み込めない私は、二人の間で視線を漂わせつつ質問する。
「あぁ。ちょっとな……。昨日、リミアの記憶の糸を戻すっていう話をしてただろ?あれが、どうやら、上手く人格や価値観が合わなかったみたいで、壊れっちまったんだ……」
申し訳なさそうに話すルリ様。
ただ、その態度の軽さに、私は寒気を覚える。
「でも、安心しろ!この"入れ物"をリミアの様に育て上げる事で、拒絶反応なく、リミアの人格を戻せるようになるはずなんだ!」
お嬢様……。目に生気の無い、少女の両肩に手を当てながら、誇らしげに語るルリ様。
完全に、壊れていた。"どちらとも"。
「ルリ、様……」
私はそれに、賛同する事も、否定する事も出来ない。
かける言葉が見つからない。
「コレにも、名前が無いと呼びにくいからな!コレの名前はクリアにしたんだ!どうだ?良い名前だろう?」
私はどう答えるべきか分からずに「えぇ、良い名前ですね」と、毒にも薬にもならない言葉を返す。
……今の私は、上手く笑えているだろうか?
そもそも笑う事が正しいのかも分からない。
「よし!今日からの訓練はクリアも一緒だぞ!コグモも宜しく頼むな!」
その屈託のない表情に、それが演技でない事は見て取れた。
今のルリ様を見ていると、心が締め付けられる。
……そもそも、ルリ様がこうなってしまった原因は私にあるのだ。
私が、あの時、軽率に、ルリ様へ、お嬢様の記憶を戻す事を、勧めなければ良かった。
何故、私はあの時、あれ程までに、馬鹿な発言をしてしまったのだろうか?
もう少し慎重になるべきではなかったのだろうか?
そうすれば、こんな事態は避けられたので無いだろうか?
私らしくない。ルリ様をお嬢様の敵だと思って、激昂していた時も、もしもの時の為に生かして捕らえた私だ。冷静な判断ができないはずが無い。
……でも、あの時の私は、ルリ様の苦しむ表情を見ていたくなかったのだ。
今、この瞬間、少しでも、ルリ様が楽になる様にと、その後の事まで、考えずに行動していた。
それこそ、一番重要であるはずの、お嬢様の安全が頭から抜けるほど、おかしくなっていたのである。
……過ちを悔いていても、仕方が無い。この体験は次に生かして行こう。
今、私ができる事は、ルリ様が、これ以上間違える事を止める。それだけだ。
「ん?どうした?コグモ?」
機械の様なクリアを撫でながら、返事の無い私を不思議がる様に、首を傾げるルリ様。
「……何でもないです」
私はそう答えると、ルリ様を心配させない様に、自然な笑みで答えた。
「おはようございます。コグモです」
私は、お嬢様の部屋のドアを叩きつつ、朝の挨拶をする。
「おう!コグモか!入って良いぞ!」
部屋の中からは、お嬢様の声ではなく、ルリ様の声が帰って来た。
しかし、この明るい口調だと、全てが上手く行ったのかもしれない。
「失礼します」
私は、昨日の出来事を感じさせない様に、いつも通りの動作で部屋に入った。
「おはよう!コグモ!」
ベッドの淵に腰かけ、元気に声を掛けて来るルリ様。
その、膝の上には、昨日同様、幼くなったお嬢様が腰かけていた。
……何処か、お嬢様の雰囲気が暗い気が……。
ルリ様にこってりと絞られたのだろうか?
「……ほら、クリア。コグモに挨拶は?」
……?
私は聞きなれない名前に、内心首を傾げる。
「おはよう……ございます」
幼いお嬢様は、光の見えない眼差しで、私を見ると、ゆっくりと頭を下げて来た。
それを見て「偉いぞ!」と、お嬢様の頭を撫でるルリ様。
尋常ではない違和感が、私を襲った。
「あ、あの……。これはどう言う?」
全く状況が飲み込めない私は、二人の間で視線を漂わせつつ質問する。
「あぁ。ちょっとな……。昨日、リミアの記憶の糸を戻すっていう話をしてただろ?あれが、どうやら、上手く人格や価値観が合わなかったみたいで、壊れっちまったんだ……」
申し訳なさそうに話すルリ様。
ただ、その態度の軽さに、私は寒気を覚える。
「でも、安心しろ!この"入れ物"をリミアの様に育て上げる事で、拒絶反応なく、リミアの人格を戻せるようになるはずなんだ!」
お嬢様……。目に生気の無い、少女の両肩に手を当てながら、誇らしげに語るルリ様。
完全に、壊れていた。"どちらとも"。
「ルリ、様……」
私はそれに、賛同する事も、否定する事も出来ない。
かける言葉が見つからない。
「コレにも、名前が無いと呼びにくいからな!コレの名前はクリアにしたんだ!どうだ?良い名前だろう?」
私はどう答えるべきか分からずに「えぇ、良い名前ですね」と、毒にも薬にもならない言葉を返す。
……今の私は、上手く笑えているだろうか?
そもそも笑う事が正しいのかも分からない。
「よし!今日からの訓練はクリアも一緒だぞ!コグモも宜しく頼むな!」
その屈託のない表情に、それが演技でない事は見て取れた。
今のルリ様を見ていると、心が締め付けられる。
……そもそも、ルリ様がこうなってしまった原因は私にあるのだ。
私が、あの時、軽率に、ルリ様へ、お嬢様の記憶を戻す事を、勧めなければ良かった。
何故、私はあの時、あれ程までに、馬鹿な発言をしてしまったのだろうか?
もう少し慎重になるべきではなかったのだろうか?
そうすれば、こんな事態は避けられたので無いだろうか?
私らしくない。ルリ様をお嬢様の敵だと思って、激昂していた時も、もしもの時の為に生かして捕らえた私だ。冷静な判断ができないはずが無い。
……でも、あの時の私は、ルリ様の苦しむ表情を見ていたくなかったのだ。
今、この瞬間、少しでも、ルリ様が楽になる様にと、その後の事まで、考えずに行動していた。
それこそ、一番重要であるはずの、お嬢様の安全が頭から抜けるほど、おかしくなっていたのである。
……過ちを悔いていても、仕方が無い。この体験は次に生かして行こう。
今、私ができる事は、ルリ様が、これ以上間違える事を止める。それだけだ。
「ん?どうした?コグモ?」
機械の様なクリアを撫でながら、返事の無い私を不思議がる様に、首を傾げるルリ様。
「……何でもないです」
私はそう答えると、ルリ様を心配させない様に、自然な笑みで答えた。
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