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崩壊
第121話
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「……なので、皆さん。くれぐれも、お二人には慎重なご対応を」
朝の支度を終え、用事があると言って、早めにお嬢様の部屋を出た私。
その後、二人には気付かれない様、朝から、皆に集まって貰い、ありのままの現状を説明した。
「……まぁ、そうなると、当分の間、ダンジョンの拡張工事は中止ッスね。リミア様の糸が無きゃ、補強できないッスもん」
皆が事態の深刻さに、黙りこくっている中、ウサギは「今日からボクは暇人ッスねぇ~」と言って、軽い態度を取る。
当然、そんな事をすれば、皆から批判の視線が飛んでくる訳だが、ウサギはそれを物ともしなかった。
「……ウサギさん。少しは空気と言う物をですね……」
皆を代表して、注意を促そうとする私。
「そんな空気、くそくらえッス。ボクはいつも通り、行かせてもらうッスよ。
それにボクはご主人様以外に従う気はないッス。ここを手伝っているのだって、ご主人様に会えるって言うから従ってきただけッスからね。
ボクは目標を達成して、十分、義理も果たしたと思うッス。後は、好きにやらせて貰うッスよ」
ウサギはそう言うと、「ふわぁ~」と、伸びをしながら、森の中へと消えて行く。
まぁ、私もウサギをどうこう出来るとは、端から、思っていなかった。
お嬢様命のコトリからは、途轍もない、苛立ちのオーラを感じるが、ワザワザ、ウサギの後を追う気はないらしい。
次、顔を合わせた時が心配だが、今は放って置いても問題は無いだろう。
「ゴブリンさんと、私と、お嬢様と、ルリ様。日中は、このメンバーで、訓練や、勉強会を開いていると思いますが……。後のお二方はどうされますか?」
私の問いに、コトリは飛び上がり、木の上に止まって、こちらを見た。
どうやら、監視をしていてくれるらしい。
一方、大ムカデは、前足を交差し、考える仕草を続けたのち「キシャ!」と、鳴いた。
このポンコツは意思表示が下手ので、何を言ってるか、全く分からないが、本人の中では決まった様なので、放って置いても良いだろう。
……初めから、期待など、していなかったですしね。
「キシャ……」
目ざとく、私の変化から心情を読み取ったのか、睨みを利かせて来る大ムカデ。
頭も悪ければ、速度も出ない。小回りも効かなければ、攻撃手段も、その長い胴の先に付いた、毒牙だけと来ている。
精々、硬いだけが取り柄の、負け犬に睨まれたところで、私が怯む訳が無かった。
「キシッ!」
そんな私を見て、好戦的な態度を取る大ムカデ。
「……やるんですか?」
正直、私も虫の居所は悪い。一戦交えても、良い気分だった。
「……キシッ……」
しかし、私が臨戦態勢を取ると、怯える様に、すぐ頭を引っ込める大ムカデ。
「……はぁ」
それを見た私は、すぐに毒気を抜かれてしまう。
コトリも木の上で、呆れた様に、そのやり取りを眺めていた。
……いつの間にやら、空気が重苦しい物から、いつも通りの軽い物に戻っていた。
ウサギがくそくらえ、と、言った通り、重苦しい空気よりも、こちらの方が、良いのかもしれない。
私たちにとっても、ルリ様達にとっても。
そういう意味では、いつもムードメーカーになってくれている大ムカデに、感謝しないでもない。
私はさり気なく、大ムカデを見つめる。
すると、彼は何事かと言わんばかりに「キシャ……」と、鳴いて、更に頭を引っ込めた。
……本当に、おバカさんである。
空気を読まないウサギも、お高く止まっているコトリも、大切な事に気付かない私も、真正のバカムカデも。
同じ馬鹿なら、気楽に生きたもの勝ちなのかもしれない。
「お!コグモ!いないと思ったら、先に外に来てたのか!」
瞳に感情が無いクリアの手を繋いで、家から出て来たルリ様。
「はい。皆さんにお声がけしていた物で……」
私は深い事は考えずに、心を軽くすると、笑顔で、その声に答える。
先程までよりも、自然に笑えた気がした。
朝の支度を終え、用事があると言って、早めにお嬢様の部屋を出た私。
その後、二人には気付かれない様、朝から、皆に集まって貰い、ありのままの現状を説明した。
「……まぁ、そうなると、当分の間、ダンジョンの拡張工事は中止ッスね。リミア様の糸が無きゃ、補強できないッスもん」
皆が事態の深刻さに、黙りこくっている中、ウサギは「今日からボクは暇人ッスねぇ~」と言って、軽い態度を取る。
当然、そんな事をすれば、皆から批判の視線が飛んでくる訳だが、ウサギはそれを物ともしなかった。
「……ウサギさん。少しは空気と言う物をですね……」
皆を代表して、注意を促そうとする私。
「そんな空気、くそくらえッス。ボクはいつも通り、行かせてもらうッスよ。
それにボクはご主人様以外に従う気はないッス。ここを手伝っているのだって、ご主人様に会えるって言うから従ってきただけッスからね。
ボクは目標を達成して、十分、義理も果たしたと思うッス。後は、好きにやらせて貰うッスよ」
ウサギはそう言うと、「ふわぁ~」と、伸びをしながら、森の中へと消えて行く。
まぁ、私もウサギをどうこう出来るとは、端から、思っていなかった。
お嬢様命のコトリからは、途轍もない、苛立ちのオーラを感じるが、ワザワザ、ウサギの後を追う気はないらしい。
次、顔を合わせた時が心配だが、今は放って置いても問題は無いだろう。
「ゴブリンさんと、私と、お嬢様と、ルリ様。日中は、このメンバーで、訓練や、勉強会を開いていると思いますが……。後のお二方はどうされますか?」
私の問いに、コトリは飛び上がり、木の上に止まって、こちらを見た。
どうやら、監視をしていてくれるらしい。
一方、大ムカデは、前足を交差し、考える仕草を続けたのち「キシャ!」と、鳴いた。
このポンコツは意思表示が下手ので、何を言ってるか、全く分からないが、本人の中では決まった様なので、放って置いても良いだろう。
……初めから、期待など、していなかったですしね。
「キシャ……」
目ざとく、私の変化から心情を読み取ったのか、睨みを利かせて来る大ムカデ。
頭も悪ければ、速度も出ない。小回りも効かなければ、攻撃手段も、その長い胴の先に付いた、毒牙だけと来ている。
精々、硬いだけが取り柄の、負け犬に睨まれたところで、私が怯む訳が無かった。
「キシッ!」
そんな私を見て、好戦的な態度を取る大ムカデ。
「……やるんですか?」
正直、私も虫の居所は悪い。一戦交えても、良い気分だった。
「……キシッ……」
しかし、私が臨戦態勢を取ると、怯える様に、すぐ頭を引っ込める大ムカデ。
「……はぁ」
それを見た私は、すぐに毒気を抜かれてしまう。
コトリも木の上で、呆れた様に、そのやり取りを眺めていた。
……いつの間にやら、空気が重苦しい物から、いつも通りの軽い物に戻っていた。
ウサギがくそくらえ、と、言った通り、重苦しい空気よりも、こちらの方が、良いのかもしれない。
私たちにとっても、ルリ様達にとっても。
そういう意味では、いつもムードメーカーになってくれている大ムカデに、感謝しないでもない。
私はさり気なく、大ムカデを見つめる。
すると、彼は何事かと言わんばかりに「キシャ……」と、鳴いて、更に頭を引っ込めた。
……本当に、おバカさんである。
空気を読まないウサギも、お高く止まっているコトリも、大切な事に気付かない私も、真正のバカムカデも。
同じ馬鹿なら、気楽に生きたもの勝ちなのかもしれない。
「お!コグモ!いないと思ったら、先に外に来てたのか!」
瞳に感情が無いクリアの手を繋いで、家から出て来たルリ様。
「はい。皆さんにお声がけしていた物で……」
私は深い事は考えずに、心を軽くすると、笑顔で、その声に答える。
先程までよりも、自然に笑えた気がした。
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