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崩壊

第122話

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 「じゃあ、この問題は……。クリア」
 問題を書き上げたルリ様が、回答者にクリアを指名する。
 
 「36、です」
 クリアは初めに教えられた通り、指名されると、その場で立ち上がって、問題に回答した。

 クリアは、ルリ様達の持つ、知識だけは持ち合わせている様なので、簡単な問題なら、即座に正解を導き出す事が出来るらしい。
 
 「流石、クリア!正解だ!」
 ルリ様は、問題に正解したクリアを撫でる。
 問題に正解できると言うのは、当然の結果なのだが、ルリ様は皆と同じ事をやらせ、同じように褒める事で、感情を戻そうと試みているらしい。
 
 しかし、まだその効果は表れていないのか、クリアの顔は相変わらず無表情。
 その瞳からは、一切の感情を垣間かいま見る事は出来ず、撫でられている間も、されるがまま。
 まるで、人形の様だった。
 
 「んじゃ……。次は、この問題だ。ゴブリン」
 「ンヴゥ……」
 ゴブリンは木の板に白い石で数字を書くと、それをルリに見えるように掲げた。
 
 「おぉ!正解だ!お前も、すごいな!」
 純粋にゴブリンの成長を喜ぶルリ様。
 その喜び加減は、クリアに見せた物と大差ない様に見える。
 何も知らないゴブリンも、嬉しそうだった。
 
 本人がそう見える様にしていると言ってこなければ、私でも、気に留めは、しなかっただろう。
 
 入れ物の成長としてではなく、実は、本当に、クリアの成長を喜んでいるのではないかと言う、淡い期待が胸を掠める。
 そうなれば、ルリ様が正気に戻りかけていると言う事だ。

 ……でも、それは、同時に、ルリ様を苦しめる結果にもなる。
 何故ならば、お嬢様を復活させるためには、クリアを育て、入れ物として使う外、ないからだ。
 
 消えてしまった、お嬢様を取るか。今を生きるクリアを取るか。
 そんな辛い選択をするぐらいなら、壊れたままでいるのも、ルリ様の為なのかもしれない。
 
 「んじゃ、次、コグモな」
 「は、はい!」
 ルリ様の黒い板を見ていなかった私は、急いで立ち上がると、問題を読む。
 
 「56……ですか?」
 自身の板で、視界の下半分を隠しつつ、うかがうように答える私。
 
 「……正解だ。……では、次の問題に移る」
 その答えに、私は、ホッと安堵の息を吐く。
 
 ……それにしても、私の正解の時だけ、対応がドライではないだろうか?
 別に良いのだが、なんか、こう……。もやもやする。
 
 「……ん?どうしたんだ?コグモ」
 私の視線に気が付いたのか、不思議そうに質問してくるルリ様。
 
 「別に……。何でもないです」
 私は、もやもやを抑え込むと、その場にしゃがんだ。
 
 しかし、他の子が褒められる度に、そのもやもやは大きくなる。

 結局、今日の座学には、あまり集中できなかった事は勿論、その他の考え事も、気付いた頃には頭から消えてなくなっていた。
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