141 / 172
向上心
第140話
しおりを挟む
「もう、血なまぐさくはねぇか……」
流石の俺でも、皆の前に毛皮の羽織り物で一つで出るのはどうかと思い、結局、血染の赤黒い服を着る羽目になった。
なんとか血の色を洗い流そうとしたのだが、落ちたのは表面に付着している、吸収しきれなかった分の血液だけ。
俺の糸と同じ材質なので、繊維が吸収した血液は、そう簡単には離さないらしく、洗っても、服自体の色は落ちなかった。
しかし、完全に繊維の中に血液を封じ込めている為か、匂いもしなければ、乾いてパリパリになる事も無いので、まぁ、こういう色の服だと思えば、着れなくもなかった。
それに、この服の中に溜め込まれた血液。俺の糸を接続し直せば、吸い取る事も出来、非常食にもなるようだった。
そう考えると、この服が便利な代物に、見えなくも無い。
……いや、その分、重いので、どっこいどっこいか?
そんな事を考えながら、俺はクリアと手を引いて、家の方向へと向かう。
クリアの抱き着き攻撃が収まったのは本当に助かった。
「……お。何やってんだ?」
家の前の広場には、ゴブスケと少数のゴブリンの姿が見える。
どうやら、ゴブスケは、残ったゴブリン達の前で投網を披露している様だった。
ゴブスケも一緒に居ると言う事は、安全な奴らなのだろう。
「お~い!ゴブリン達~!」
懇親会ぽい事を行っているのかもしれない。と思った俺は、友好的な態度を示す為、その集団へと、手を振って歩き出す。
「ヴワゥ!」
俺の声に気が付いたのか、ゴブスケがこちらに向けて、片腕を上げ、それに答えた。
他のゴブリン達も、こちらをじっと見つめるが、やはり敵意は無いらしい。
「何してたんだ?」
俺が聞くと、ゴブスケは白い石と板を取り出して、何かを書いていく。
どうやら、糸での伝言はなく、文字で言葉を伝えたい様だった。
授業の時以外で、ゴブスケが文字を書くのは初めて見る。きっと、皆の前で、自身の覚えた事を見せたいのだろう。
俺は、せかさず、ゆっくと、ゴブスケが文字を書き終えるのを待った。
「ヴァゥ!」
完成したのか、板を差し出してくるゴブスケ。
俺はその木の板を受け取ると、その拙い文字と、にらめっこを始めた。
他のゴブリン達も、それを神妙な面持ちで見守る。
ふむふむ……。
文字の解読に、少し時間がかかったが、文章自体はしっかりとしているので、何とか読み解く事が出来た。
なんでも、ここに残ったゴブリン達は俺らの生活に興味があるらしい。
主な面倒はゴブスケが見るので、ゴブリン達を授業等に参加させて欲しいとのお願いだった。
「……まぁ、良いんじゃないか?」
俺は板を返しつつ、ゴブスケに答える。
そして、ゴブスケは、静かに、ゴブリン達にそれを伝えた。
それを真剣な表情で見つめるゴブリン達。
ゴブリン達のコミュニケーションを見ていると、声に感情表現以外の意味は無いらしく、ジェスチャーが主な情報の伝達手段の様に見えた。
「ヴァゥ!」「ヴァゥ!」「ヴワァァゥ!」
ゴブスケのジェスチャーを見終えたゴブリン達が、沈黙を破り、嬉しそうに騒ぎ出す。
多分、あのジェスチャーが、OKと言う意味なんだろうな。
それにしても、そこまで喜んでもらえるとは。
こちらとしても、教え甲斐がありそうで、楽しみだ。
俺はその後も、ゴブスケと筆談を行い、正式に、ゴブスケの名前を授与した。
そして、ゴブスケが、このゴブリン達のリーダーとして、自身の覚えている文字や、道具の使い方を教えると言う事を中心に、地下室の空き家を貸して欲しい事、不足している道具を用意して欲しい等の要求も含め、色々と話し合った。
その結果、物を覚えたゴブリン達も、俺らの生活に貢献してくれると言う。
これは、一気に有能な人材がゲットできるチャンスだった。
良い人材が集まって、生活が楽になれば、コグモも、もっと楽できるだろう。
それに戦力が増えれば、何かあった時にも、それなりの対応できる。
「……よし。じゃあ、後は頼んだぞ」
そう言うと、俺はゴブリン達の件をゴブスケに一任して、家に戻ろうとする。
ふと、社畜時代に部下に仕事を任せた思い出がよみがえった。
あいつは報連相ができずに、プロジェクト大コケさせて、相当迷惑を掛けられたが、俺もちゃんと積極的に話を聞いて、相談に乗ってやれば良かったな……。
「……それと、何か協力して欲しかったら、遠慮せず言えよ?対応できるかは分からないが、言わないと伝わらないし、言うだけならタダだしな」
俺は振り返ると、気負わせない様、ゴブスケに軽く伝えて置く。
「ヴァゥ!」
それを聞いたゴブスケは嬉しそうに叫ぶと、仲間の元へ走って行った。
俺は、その楽しそうな後姿を見送ると、再び家へと足を向ける。
クリアは、俺の腕をつかみながら、そんなゴブリン達を見えなくなるまで、じっと見つめていた。
流石の俺でも、皆の前に毛皮の羽織り物で一つで出るのはどうかと思い、結局、血染の赤黒い服を着る羽目になった。
なんとか血の色を洗い流そうとしたのだが、落ちたのは表面に付着している、吸収しきれなかった分の血液だけ。
俺の糸と同じ材質なので、繊維が吸収した血液は、そう簡単には離さないらしく、洗っても、服自体の色は落ちなかった。
しかし、完全に繊維の中に血液を封じ込めている為か、匂いもしなければ、乾いてパリパリになる事も無いので、まぁ、こういう色の服だと思えば、着れなくもなかった。
それに、この服の中に溜め込まれた血液。俺の糸を接続し直せば、吸い取る事も出来、非常食にもなるようだった。
そう考えると、この服が便利な代物に、見えなくも無い。
……いや、その分、重いので、どっこいどっこいか?
そんな事を考えながら、俺はクリアと手を引いて、家の方向へと向かう。
クリアの抱き着き攻撃が収まったのは本当に助かった。
「……お。何やってんだ?」
家の前の広場には、ゴブスケと少数のゴブリンの姿が見える。
どうやら、ゴブスケは、残ったゴブリン達の前で投網を披露している様だった。
ゴブスケも一緒に居ると言う事は、安全な奴らなのだろう。
「お~い!ゴブリン達~!」
懇親会ぽい事を行っているのかもしれない。と思った俺は、友好的な態度を示す為、その集団へと、手を振って歩き出す。
「ヴワゥ!」
俺の声に気が付いたのか、ゴブスケがこちらに向けて、片腕を上げ、それに答えた。
他のゴブリン達も、こちらをじっと見つめるが、やはり敵意は無いらしい。
「何してたんだ?」
俺が聞くと、ゴブスケは白い石と板を取り出して、何かを書いていく。
どうやら、糸での伝言はなく、文字で言葉を伝えたい様だった。
授業の時以外で、ゴブスケが文字を書くのは初めて見る。きっと、皆の前で、自身の覚えた事を見せたいのだろう。
俺は、せかさず、ゆっくと、ゴブスケが文字を書き終えるのを待った。
「ヴァゥ!」
完成したのか、板を差し出してくるゴブスケ。
俺はその木の板を受け取ると、その拙い文字と、にらめっこを始めた。
他のゴブリン達も、それを神妙な面持ちで見守る。
ふむふむ……。
文字の解読に、少し時間がかかったが、文章自体はしっかりとしているので、何とか読み解く事が出来た。
なんでも、ここに残ったゴブリン達は俺らの生活に興味があるらしい。
主な面倒はゴブスケが見るので、ゴブリン達を授業等に参加させて欲しいとのお願いだった。
「……まぁ、良いんじゃないか?」
俺は板を返しつつ、ゴブスケに答える。
そして、ゴブスケは、静かに、ゴブリン達にそれを伝えた。
それを真剣な表情で見つめるゴブリン達。
ゴブリン達のコミュニケーションを見ていると、声に感情表現以外の意味は無いらしく、ジェスチャーが主な情報の伝達手段の様に見えた。
「ヴァゥ!」「ヴァゥ!」「ヴワァァゥ!」
ゴブスケのジェスチャーを見終えたゴブリン達が、沈黙を破り、嬉しそうに騒ぎ出す。
多分、あのジェスチャーが、OKと言う意味なんだろうな。
それにしても、そこまで喜んでもらえるとは。
こちらとしても、教え甲斐がありそうで、楽しみだ。
俺はその後も、ゴブスケと筆談を行い、正式に、ゴブスケの名前を授与した。
そして、ゴブスケが、このゴブリン達のリーダーとして、自身の覚えている文字や、道具の使い方を教えると言う事を中心に、地下室の空き家を貸して欲しい事、不足している道具を用意して欲しい等の要求も含め、色々と話し合った。
その結果、物を覚えたゴブリン達も、俺らの生活に貢献してくれると言う。
これは、一気に有能な人材がゲットできるチャンスだった。
良い人材が集まって、生活が楽になれば、コグモも、もっと楽できるだろう。
それに戦力が増えれば、何かあった時にも、それなりの対応できる。
「……よし。じゃあ、後は頼んだぞ」
そう言うと、俺はゴブリン達の件をゴブスケに一任して、家に戻ろうとする。
ふと、社畜時代に部下に仕事を任せた思い出がよみがえった。
あいつは報連相ができずに、プロジェクト大コケさせて、相当迷惑を掛けられたが、俺もちゃんと積極的に話を聞いて、相談に乗ってやれば良かったな……。
「……それと、何か協力して欲しかったら、遠慮せず言えよ?対応できるかは分からないが、言わないと伝わらないし、言うだけならタダだしな」
俺は振り返ると、気負わせない様、ゴブスケに軽く伝えて置く。
「ヴァゥ!」
それを聞いたゴブスケは嬉しそうに叫ぶと、仲間の元へ走って行った。
俺は、その楽しそうな後姿を見送ると、再び家へと足を向ける。
クリアは、俺の腕をつかみながら、そんなゴブリン達を見えなくなるまで、じっと見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる