異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

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向上心

第145話

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 「……できた」
 俺は剥がれたシカの皮を、とりあえず、川の水で洗い流す。

 ゴブリン達を含めた皆が、俺の作業風景を見続けていた。
 皆には肉の端材や内臓でも食べていれば良いと勧めたのだが、本人たちが見ていたいと言うのだから、仕方が無い。
 
 「昨日より、綺麗に出来ましたね」
 洗い終えた皮を、適当な木の枝にかけて干していると、コグモが褒めてくれた。
 まぁ、確かに、昨日よりは上手くできている……のか?
 まぁ、どうせ、多少脂が残っても良いと思った為か、皮自体をあまり痛めてはいないが、正直、肉と脂のこべり付き具合を見ると、昨日とどっこいどっこいな気がする。
 
 「……まぁ、作業はこれで終わりだ。本来は、最初に、川の中で、動物の臓器などを洗い流しつつ、血抜きをするんだが、今回は俺が全部糸で吸い取ったからな」

 おかげで、朝の分の血もまだ残っている俺の体は、とうとう黒髪までを赤黒く染め、膨張した糸のせいで、身長が2倍近く伸びてしまった。
 因みに、この、血を吸い取った糸は、重たくなって、動かしにくくなるので、一概に、常に満タンにしておけば良いという物でもない。

 なので、第三の手にもあたる髪の糸までを赤黒く染めた俺の今の状況は、正直、好ましくない。
 好ましくは無いが、殺したからには全てを頂いておきたかった。
 
 「んじゃ、食事の準備をするか」
 と言っても、特に、調味料や火を使う訳でもないので、そのまま、取り出した内臓や、切り落とした肉を、葉の皿の上に並べるぐらいしか、する事が無いのだが。
 
 「皆、好きに食べてくれよ」
 俺は準備できた葉の皿を、どんどんと皆の前に並べて行く。
 俺が食事を出来ない事は、皆知っているので、並べた傍から、遠慮なく食べてくれた。

 これだけ美味しそうに食べてくれると、こちらも肉のさば甲斐がいがあるという物だ。

 その食いっぷりを見ていると、気持ちが良く、食事を取れない俺も、気を遣わずに済むので、助かった。
 
 しかし、この、正直、クソ不味いとしか言えない生肉を、これ程美味しそうに食べているのだ。
 調理した食事を口にしたら、どれ程、喜んでくれるのだろうか。
 
 俺には、食べ物を強化吸収する能力は無いが、リミアの粋な計らいで、味覚だけは存在している。
 この際、食べ物の消化吸収実験の意欲向上の為に、食への探求を目指すのも、悪くない気がしてきた。

 それに、何より、コグモやクリアにも、もっと、美味しい物を食わせてやりたいし……。
 
 ここ数日で、俺のやりたい事は山の様に増えていた。
 あれ程、目標も無くだらだらと生きて来た俺からは考えられない変化だ。
 
 あれもしたい、これもしたい、本気でしたい。
 なんだろう。この、何かを成した訳でもないのに、得られる、この充実感は。
 
 したい事の先にある幸福を考えると、それをどうすれば叶えられるか、その方法を考える事ですら、幸せに感じる。

 そう、言うなれば、幸福を追い求める幸福。
 いや、違うな。叶えられそうな幸福を追い求める幸福、か。
 
 それがある限り、俺は頑張り続けられる気がした。
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