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獣 (お題:犠牲者・動物・報酬)
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私は昔、地球と言う惑星に降り立った事がある。
乗っていた宇宙船が故障した為だ。
そこには人と言う文明を持った生物が暮らしていた。
幸いにも私には決められた形と言うものがない。
体をすぐに人間の幼体に似せると彼らに近づいた。
人間が行き交う場所で助けを求める。
しかし、誰一人としてその声に答えてくれるものはいなかった。
墜落の衝撃で翻訳機が壊れたのかもしれない。
私はそう思い、人間の姿を模すのは諦め、複雑な言葉を持たない動物に近づいた。
カァカァ!
私は空を飛ぶ黒い生き物の姿を模して群れに潜り込んだ。
この動物たちは非常に頭が良い。
色々な物を観察し、日々試行錯誤を繰り返して生きているのだ。
私はそんな彼らの群れで暫く暮らしていたが、ある日事件が起こった。
私達の巣を破壊しにきた人間と仲間達が喧嘩をしたのだ。
私は話を聞き、すぐにその場に向かう。
しかし、その場所は森ごと完全に消え去っていてのである。
私は人間に恐怖した。ここまでやるのかと。
そして恐怖のあまり二度と仲間たちと同じ姿を取る事ができなくなった。
ワンワン!
私は仕方なく別の動物の姿を模して、同じような見た目をした群れに近づいた。
彼女たちは初め、私を警戒したが、群れに従う事で仲間に入れてもらえるようになった。
毎日が黒い生物以上にサバイバルだった。経験した事の無い様な危険。感動。触れ合い。
機械に囲まれて生きて来た私の心は今までにないほどに満たされた。
そんなある日の事。いつも通り、群れの縄張りを徘徊していると彼女が人間に捕まりそうになっていた。
私は咄嗟に前に飛び出て人間をひっかくと、彼女を逃がす。
「この害獣が!」
そう叫んだ人間が私を叩く。
その力をこの小さな体で受け止められるわけもなく、私は地面に転がった。
グルルルルゥ!
彼女が私の為に威嚇してくれている。
しかし、人間に歯が立つわけがないのだ。
無駄な犠牲はいらない。
私は衝撃で動かない体を諦め、視線と尻尾で何とか彼女にサインを送る。
逃げて。と。
彼女は暫く戸惑ったようにしていたが、意を決したように森に帰っていく。
私はそれを見届けると安心して目を閉じた。
私が目を覚ますと様々な動物たちが入れられた檻の中にいた。
皆が帰りたいと叫んでいる。ここから出せと泣いている。
すると、その中の何匹かが人間に連れられて消えて行った。そして連れていかれた動物たちは二度と戻ってくることはない。
皆がどうなったのかは分からなかったが、別の場所に移されたのか、逃がしてもらえたのだと思っていた。
人間が私達を食料にしない事は知っていたし、装飾品に使う事もないと分かっていたからだ。
だから隣の檻にいた仲の良い子が帰ってこなくても、仲間のところに行けたのだから仕方がないと思ったのだ。
そしてとうとう私の番。
次はどんな生物に化けようか。
どの生物も一様にルールには厳しかったが、一緒にいて暖かかった。
そうだ。次は隣にいた仲の良い子と同じ動物になってみよう。
人間は猫と呼んでいたが、彼女を探して旅に出るのも悪くない。そう思った。
そう思っていた。
みんな眠らされると箱の中に閉じ込められる。
私だけには眠る事がなかったが、皆がゆっくりと死に近づいていくのが分かった。
もう彼女がこの世にいない事が分かったのだ。
この姿じゃ彼らを助けてあげられない。
私は体を溶かし、箱の隙間から抜け出る。
そしてこの箱のカギを持つ人間に近づき、後ろから殴り掛かった。
「!!なんだお前は!その手…なんなんだそれ!!」
やはり非力な私では一撃で殺すことはできないようだった。
それならばと腕を刃物のように薄くする。
「君たちが教えてくれたんじゃないか」
私は剣先を彼らに向ける。
「な、なんの事だ!」
なんだ、翻訳機など壊れていないじゃないか。
人間は自分たちの幼体ですら見捨てるらしい。
まぁいいや、害獣は処分しないとね。
…結局箱を開けた時、彼らはもう死んでいた。
もう涙すら出なかった。
その内に私が発信していた救難信号をキャッチした仲間が迎えに来る。
私はその飛行船に乗って母星に帰った。
彼女から人間に、とびっきりの報酬が届くのはもう少し先の話である。
=================
「良かった…。みんな無事だったんだね。もう大丈夫。大丈夫だから」
「カァカァ」「ワンワン」「にゃ~お」
「チュゥチュゥ」「ヴァオ!」
「ふふふ、もう、皆ったら。甘えんぼさんだな」
========
※おっさん。の小話
知能が高く、他を切り捨てられる生物。
知能が低くても、助け合える生物。
どちらの方が獣なのでしょうね。
3話の「にゃんこ大戦争」を受けて描いた作品。
今回は視点を変えてみました。
優しさのない人間なんて滅んでしまえばよいのに…。と思う今日この頃です。
乗っていた宇宙船が故障した為だ。
そこには人と言う文明を持った生物が暮らしていた。
幸いにも私には決められた形と言うものがない。
体をすぐに人間の幼体に似せると彼らに近づいた。
人間が行き交う場所で助けを求める。
しかし、誰一人としてその声に答えてくれるものはいなかった。
墜落の衝撃で翻訳機が壊れたのかもしれない。
私はそう思い、人間の姿を模すのは諦め、複雑な言葉を持たない動物に近づいた。
カァカァ!
私は空を飛ぶ黒い生き物の姿を模して群れに潜り込んだ。
この動物たちは非常に頭が良い。
色々な物を観察し、日々試行錯誤を繰り返して生きているのだ。
私はそんな彼らの群れで暫く暮らしていたが、ある日事件が起こった。
私達の巣を破壊しにきた人間と仲間達が喧嘩をしたのだ。
私は話を聞き、すぐにその場に向かう。
しかし、その場所は森ごと完全に消え去っていてのである。
私は人間に恐怖した。ここまでやるのかと。
そして恐怖のあまり二度と仲間たちと同じ姿を取る事ができなくなった。
ワンワン!
私は仕方なく別の動物の姿を模して、同じような見た目をした群れに近づいた。
彼女たちは初め、私を警戒したが、群れに従う事で仲間に入れてもらえるようになった。
毎日が黒い生物以上にサバイバルだった。経験した事の無い様な危険。感動。触れ合い。
機械に囲まれて生きて来た私の心は今までにないほどに満たされた。
そんなある日の事。いつも通り、群れの縄張りを徘徊していると彼女が人間に捕まりそうになっていた。
私は咄嗟に前に飛び出て人間をひっかくと、彼女を逃がす。
「この害獣が!」
そう叫んだ人間が私を叩く。
その力をこの小さな体で受け止められるわけもなく、私は地面に転がった。
グルルルルゥ!
彼女が私の為に威嚇してくれている。
しかし、人間に歯が立つわけがないのだ。
無駄な犠牲はいらない。
私は衝撃で動かない体を諦め、視線と尻尾で何とか彼女にサインを送る。
逃げて。と。
彼女は暫く戸惑ったようにしていたが、意を決したように森に帰っていく。
私はそれを見届けると安心して目を閉じた。
私が目を覚ますと様々な動物たちが入れられた檻の中にいた。
皆が帰りたいと叫んでいる。ここから出せと泣いている。
すると、その中の何匹かが人間に連れられて消えて行った。そして連れていかれた動物たちは二度と戻ってくることはない。
皆がどうなったのかは分からなかったが、別の場所に移されたのか、逃がしてもらえたのだと思っていた。
人間が私達を食料にしない事は知っていたし、装飾品に使う事もないと分かっていたからだ。
だから隣の檻にいた仲の良い子が帰ってこなくても、仲間のところに行けたのだから仕方がないと思ったのだ。
そしてとうとう私の番。
次はどんな生物に化けようか。
どの生物も一様にルールには厳しかったが、一緒にいて暖かかった。
そうだ。次は隣にいた仲の良い子と同じ動物になってみよう。
人間は猫と呼んでいたが、彼女を探して旅に出るのも悪くない。そう思った。
そう思っていた。
みんな眠らされると箱の中に閉じ込められる。
私だけには眠る事がなかったが、皆がゆっくりと死に近づいていくのが分かった。
もう彼女がこの世にいない事が分かったのだ。
この姿じゃ彼らを助けてあげられない。
私は体を溶かし、箱の隙間から抜け出る。
そしてこの箱のカギを持つ人間に近づき、後ろから殴り掛かった。
「!!なんだお前は!その手…なんなんだそれ!!」
やはり非力な私では一撃で殺すことはできないようだった。
それならばと腕を刃物のように薄くする。
「君たちが教えてくれたんじゃないか」
私は剣先を彼らに向ける。
「な、なんの事だ!」
なんだ、翻訳機など壊れていないじゃないか。
人間は自分たちの幼体ですら見捨てるらしい。
まぁいいや、害獣は処分しないとね。
…結局箱を開けた時、彼らはもう死んでいた。
もう涙すら出なかった。
その内に私が発信していた救難信号をキャッチした仲間が迎えに来る。
私はその飛行船に乗って母星に帰った。
彼女から人間に、とびっきりの報酬が届くのはもう少し先の話である。
=================
「良かった…。みんな無事だったんだね。もう大丈夫。大丈夫だから」
「カァカァ」「ワンワン」「にゃ~お」
「チュゥチュゥ」「ヴァオ!」
「ふふふ、もう、皆ったら。甘えんぼさんだな」
========
※おっさん。の小話
知能が高く、他を切り捨てられる生物。
知能が低くても、助け合える生物。
どちらの方が獣なのでしょうね。
3話の「にゃんこ大戦争」を受けて描いた作品。
今回は視点を変えてみました。
優しさのない人間なんて滅んでしまえばよいのに…。と思う今日この頃です。
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