かみクズカゴ。

おっさん。

文字の大きさ
6 / 32

 獣  (お題:犠牲者・動物・報酬)

しおりを挟む
 私は昔、地球と言う惑星に降り立った事がある。
 乗っていた宇宙船が故障こしょうした為だ。

 そこには人と言う文明を持った生物が暮らしていた。
 幸いにも私には決められた形と言うものがない。
 体をすぐに人間の幼体ようたいに似せると彼らに近づいた。

 人間が行き交う場所で助けを求める。
 しかし、誰一人としてその声に答えてくれるものはいなかった。
 墜落ついらく衝撃しょうげき翻訳機ほんやくきが壊れたのかもしれない。
 私はそう思い、人間の姿をすのはあきらめ、複雑ふくざつな言葉を持たない動物に近づいた。

 カァカァ!
 私は空を飛ぶ黒い生き物の姿を模して群れにもぐり込んだ。
 この動物たちは非常に頭が良い。
 色々な物を観察し、日々ひび試行錯誤しこうさくごり返して生きているのだ。

 私はそんな彼らの群れでしばらく暮らしていたが、ある日事件が起こった。
 私達の巣を破壊しにきた人間と仲間達が喧嘩をしたのだ。

 私は話を聞き、すぐにその場に向かう。
 しかし、その場所は森ごと完全に消え去っていてのである。
 私は人間に恐怖した。ここまでやるのかと。
 そして恐怖のあまり二度と仲間たちと同じ姿を取る事ができなくなった。

 ワンワン!
 私は仕方なく別の動物の姿を模して、同じような見た目をした群れに近づいた。
 彼女たちは初め、私を警戒したが、群れに従う事で仲間に入れてもらえるようになった。

 毎日が黒い生物以上にサバイバルだった。経験した事の無い様な危険。感動。触れ合い。
 機械に囲まれて生きて来た私の心は今までにないほどに満たされた。

 そんなある日の事。いつも通り、群れの縄張なわばりを徘徊はいかいしていると彼女が人間に捕まりそうになっていた。
 私は咄嗟とっさに前に飛び出て人間をひっかくと、彼女を逃がす。

「この害獣がいじゅうが!」
 そう叫んだ人間が私を叩く。
 その力をこの小さな体で受け止められるわけもなく、私は地面に転がった。

 グルルルルゥ!

 彼女が私の為に威嚇いかくしてくれている。
 しかし、人間に歯が立つわけがないのだ。
 無駄な犠牲ぎせいはいらない。

 私は衝撃で動かない体を諦め、視線と尻尾で何とか彼女にサインを送る。
 逃げて。と。

 彼女はしばら戸惑とまどったようにしていたが、意を決したように森に帰っていく。
 私はそれを見届けると安心して目を閉じた。

 私が目を覚ますと様々な動物たちが入れられたおりの中にいた。
 皆が帰りたいと叫んでいる。ここから出せと泣いている。

 すると、その中の何匹かが人間に連れられて消えて行った。そして連れていかれた動物たちは二度と戻ってくることはない。
 皆がどうなったのかは分からなかったが、別の場所に移されたのか、逃がしてもらえたのだと思っていた。
 人間が私達を食料にしない事は知っていたし、装飾品そうしょくひんに使う事もないと分かっていたからだ。

 だから隣のおりにいた仲の良い子が帰ってこなくても、仲間のところに行けたのだから仕方がないと思ったのだ。

 そしてとうとう私の番。
 次はどんな生物にけようか。
 どの生物も一様にルールには厳しかったが、一緒にいて暖かかった。

 そうだ。次は隣にいた仲の良い子と同じ動物になってみよう。
 人間は猫と呼んでいたが、彼女を探して旅に出るのも悪くない。そう思った。
 そう思っていた。

 みんな眠らされると箱の中に閉じ込められる。
 私だけには眠る事がなかったが、皆がゆっくりと死に近づいていくのが分かった。
 もう彼女がこの世にいない事が分かったのだ。

 この姿じゃ彼らを助けてあげられない。
 私は体を溶かし、箱の隙間すきまから抜け出る。

 そしてこの箱のカギを持つ人間に近づき、後ろからなぐり掛かった。
「!!なんだお前は!その手…なんなんだそれ!!」
 やはり非力な私では一撃で殺すことはできないようだった。
 それならばと腕を刃物のように薄くする。

「君たちが教えてくれたんじゃないか」
 私は剣先を彼らに向ける。

「な、なんの事だ!」
 なんだ、翻訳機など壊れていないじゃないか。
 人間は自分たちの幼体ですら見捨てるらしい。

 まぁいいや、害獣は処分しょぶんしないとね。

 …結局箱を開けた時、彼らはもう死んでいた。
 もう涙すら出なかった。

 その内に私が発信していた救難信号をキャッチした仲間が迎えに来る。

 私はその飛行船に乗って母星に帰った。

 彼女から人間に、とびっきりの報酬ほうしゅうが届くのはもう少し先の話である。

=================

「良かった…。みんな無事だったんだね。もう大丈夫。大丈夫だから」

「カァカァ」「ワンワン」「にゃ~お」
「チュゥチュゥ」「ヴァオ!」

「ふふふ、もう、皆ったら。甘えんぼさんだな」




========
※おっさん。の小話

 知能が高く、他を切り捨てられる生物。
 知能が低くても、助け合える生物。

 どちらの方が獣なのでしょうね。

 3話の「にゃんこ大戦争」を受けて描いた作品。

 今回は視点を変えてみました。

 優しさのない人間なんて滅んでしまえばよいのに…。と思う今日この頃です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...