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10話 君がくれた夏
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夏休みは、思ったよりもあっという間に過ぎていった。
隆は言っていた通り、本当に忙しそうだった。
バスケ部の練習は毎日行われ、練習が終わるとほとんどそのまま塾へ直行するらしい。僕はそんな隆を遊びに誘えなくて、隆からも連絡は来なかった。
「ぎゅってさせて」なんて言葉も、今ではすっかり聞かれなくなってしまった。
それでも、頭から離れない言葉がある。
──「俺は慎のこと、好きだよ」
あの一言が、真夏の陽射しのように、胸の奥にじわじわと焼きついていた。
そんなある日、クラスのグループLINEに文化祭の話題が持ち上がった。
《文化祭のお化け屋敷の準備、お手伝い来てくれる人募集中》
これまでの僕なら、こういう呼びかけには関わらなかったと思う。
自分なんかが参加しても迷惑なんじゃないか、そう思って、いつもどこかで距離を取っていた。
でも、このときは少し違った。
隆に会えない寂しさを、何かで埋めたかったのかもしれない。
あるいは、何かきっかけがほしかっただけかもしれない。連絡を取るための自然な理由を。
だから気づけば、僕は指先でメッセージを打っていた。
《装飾とかやりたいです》
実際の作業は、思っていたよりずっと大変だった。
教室のレイアウトを考えて、ダンボールで仕切りを作って、暗幕の吊り下げ方をみんなで議論する。
自分の意見を口にするなんて、たぶん初めてのことだった。
家に帰ってから、少しだけ勇気を出して、隆にLINEを送った。
《お化け屋敷の準備、めっちゃ頑張ってる》
すぐに返事が返ってきた。
《慎が? マジ? それちょっと見に行きたいな(笑)》
《慎のお化け屋敷、楽しみにしてる。怖いの苦手だけど絶対行くから!》
画面を見つめながら、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
隆に楽しんでもらいたい。ただそれだけで、明日の作業が待ち遠しく思えるなんて、少し前の僕なら想像もしなかっただろう。誰かの「楽しみ」のために動いている自分が、ちょっとだけ誇らしかった。
準備を重ねていくうちに、クラスの子たちとも自然に話せるようになった。
「慎、そこのテープ取ってー」
「うまいな、これ職人レベルじゃん」
何気ない言葉のやりとりが、素直に嬉しかった。
照れくさいけれど、きっとこういうのを青春って言うのだろう。そんな日々がだんだん楽しくなって、気がつけばクラスの中で心の底から笑っている自分がいた。
そして、文化祭当日。
昼すぎに部活の先輩たちと一緒に隆がやってきた。
「慎いる?いた!お化け屋敷、怖いけど来たよ!」
そう言って手を振る隆の姿に、思わず僕も笑みをこぼす。
中から響く効果音にビクッと反応している隆の背中が、なんだかかわいい。
「慎は何役なの?」
「僕は受付」
そう言いながら、少しだけ意地悪な気持ちが湧いてきた。
大きな音が鳴るポイントで、わざと後ろから声をかけてみる。
「うわ、ちょ、マジでやめて……!」
肩をすくめて振り返る隆の顔がほんの少し赤くなっていて、それがなんだか無性に嬉しかった。
受付を午後からの生徒と交代し、隆が教室の外に出たところでふと迷いがよぎる。
──「一緒に文化祭、回らない?」
そう言おうか、言わないか。
でもその前に、クラスメイトが声をかけてきた。
「慎、これから自由時間だろ。一緒に回ろうよ!」
その声に反応するように、隆と目が合う。
そして隆は、いつもの調子で笑って言った。
「いってらっしゃい。あとでまた会おうな」
その声はどこか遠くに響いたような気がした。
その声が嬉しかった。だけど、少しだけ寂しかった。
もし隆に出会っていなければ──彼があの日、声をかけてくれなければ僕はきっと今も、誰にも声をかけられずに、一人で文化祭なんて早く終われと願っていたと思う。
みんなと笑い合って、はしゃいで、自分の居場所を感じられるようになったのは隆のおかげだ。
隆と過ごす時間だけが特別だった僕にとって、今は──
少しだけ、世界が広がっている。
それが、なんだかとても嬉しくて。
でも、ほんの少しだけ、寂しかった。
隆は言っていた通り、本当に忙しそうだった。
バスケ部の練習は毎日行われ、練習が終わるとほとんどそのまま塾へ直行するらしい。僕はそんな隆を遊びに誘えなくて、隆からも連絡は来なかった。
「ぎゅってさせて」なんて言葉も、今ではすっかり聞かれなくなってしまった。
それでも、頭から離れない言葉がある。
──「俺は慎のこと、好きだよ」
あの一言が、真夏の陽射しのように、胸の奥にじわじわと焼きついていた。
そんなある日、クラスのグループLINEに文化祭の話題が持ち上がった。
《文化祭のお化け屋敷の準備、お手伝い来てくれる人募集中》
これまでの僕なら、こういう呼びかけには関わらなかったと思う。
自分なんかが参加しても迷惑なんじゃないか、そう思って、いつもどこかで距離を取っていた。
でも、このときは少し違った。
隆に会えない寂しさを、何かで埋めたかったのかもしれない。
あるいは、何かきっかけがほしかっただけかもしれない。連絡を取るための自然な理由を。
だから気づけば、僕は指先でメッセージを打っていた。
《装飾とかやりたいです》
実際の作業は、思っていたよりずっと大変だった。
教室のレイアウトを考えて、ダンボールで仕切りを作って、暗幕の吊り下げ方をみんなで議論する。
自分の意見を口にするなんて、たぶん初めてのことだった。
家に帰ってから、少しだけ勇気を出して、隆にLINEを送った。
《お化け屋敷の準備、めっちゃ頑張ってる》
すぐに返事が返ってきた。
《慎が? マジ? それちょっと見に行きたいな(笑)》
《慎のお化け屋敷、楽しみにしてる。怖いの苦手だけど絶対行くから!》
画面を見つめながら、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
隆に楽しんでもらいたい。ただそれだけで、明日の作業が待ち遠しく思えるなんて、少し前の僕なら想像もしなかっただろう。誰かの「楽しみ」のために動いている自分が、ちょっとだけ誇らしかった。
準備を重ねていくうちに、クラスの子たちとも自然に話せるようになった。
「慎、そこのテープ取ってー」
「うまいな、これ職人レベルじゃん」
何気ない言葉のやりとりが、素直に嬉しかった。
照れくさいけれど、きっとこういうのを青春って言うのだろう。そんな日々がだんだん楽しくなって、気がつけばクラスの中で心の底から笑っている自分がいた。
そして、文化祭当日。
昼すぎに部活の先輩たちと一緒に隆がやってきた。
「慎いる?いた!お化け屋敷、怖いけど来たよ!」
そう言って手を振る隆の姿に、思わず僕も笑みをこぼす。
中から響く効果音にビクッと反応している隆の背中が、なんだかかわいい。
「慎は何役なの?」
「僕は受付」
そう言いながら、少しだけ意地悪な気持ちが湧いてきた。
大きな音が鳴るポイントで、わざと後ろから声をかけてみる。
「うわ、ちょ、マジでやめて……!」
肩をすくめて振り返る隆の顔がほんの少し赤くなっていて、それがなんだか無性に嬉しかった。
受付を午後からの生徒と交代し、隆が教室の外に出たところでふと迷いがよぎる。
──「一緒に文化祭、回らない?」
そう言おうか、言わないか。
でもその前に、クラスメイトが声をかけてきた。
「慎、これから自由時間だろ。一緒に回ろうよ!」
その声に反応するように、隆と目が合う。
そして隆は、いつもの調子で笑って言った。
「いってらっしゃい。あとでまた会おうな」
その声はどこか遠くに響いたような気がした。
その声が嬉しかった。だけど、少しだけ寂しかった。
もし隆に出会っていなければ──彼があの日、声をかけてくれなければ僕はきっと今も、誰にも声をかけられずに、一人で文化祭なんて早く終われと願っていたと思う。
みんなと笑い合って、はしゃいで、自分の居場所を感じられるようになったのは隆のおかげだ。
隆と過ごす時間だけが特別だった僕にとって、今は──
少しだけ、世界が広がっている。
それが、なんだかとても嬉しくて。
でも、ほんの少しだけ、寂しかった。
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